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44:聖なる夜の贈り物 -夢の時間-
曲を聴いていたハリエットは近くで止まった足音に何だろうかと振り向く。
「次の曲、僕と躍らないか?」
立っていたのはシルバーブロンドの髪を撫でつけ、邸で試着していた黒い服を身にまとうドラコだ。ポッター家の人間であるというのが丸わかりな自分にダンスを申し込むのが信じられず、驚いていると失礼と咳払いし、そっとお辞儀をする。
「ドラコ=マルフォイだ。君は?」
あぁ初対面だったな、と思い出すハリエットは断るのも無礼と判断し、右手を差し出した。
「ハリエット=ポッター。ハリーの双子の片割れよ」
手を取るドラコは優雅にその甲に口づけるとその手を握って中央へと進む。やっぱりドラコの方がうまい、とリードしてもらいながら踊るハリエットはドラコの動きに身を任せてくるくると躍る。じっと見降ろすドラコに首を傾げ、じっと見つめあう。
「何か変だったかな?」
あまりにもじっと見られることに何か変だったかと問いかけると、ドラコは黙って首を振り、何かを言おうとして口をつぐむ。灰色の眼はどんな感情を持っているのか、どうにも読み取れず抱き寄せられたことに目をしばたたかせた。
「えっと……」
こんなダンスだったかな?と考えるハリエットは、ぴたりと密着するような体勢に男性パートを思い出そうとするが、くるりと回されてわからなくなる。
曲が終わるがなぜかドラコは動かない。再び曲が流れるとドラコは何も言わずハリエットの手を引いた。促されるがままに躍っていると、慣れない靴で思わずよろめき転びかけてドラコが抱き留める。ありがとうと体制を整えるハリエットだが、曲の途中だったのにもかかわらずハリエットの手をつかみ、最初と同じように甲に口付けを落とし、去っていった。
何だったのだろう、と訳が分からないハリエットはちらちらと感じる視線から逃れるようにとグラスを手に中庭へと移動する。皆玄関の方から外に出ていくのを見ていたハリエットは人気のなく、わずかに音楽が聞こえることに気をよくしてベンチに腰を下ろした。
出てくる前にいつもの癖で目くらましを掛けていたおかげで追いかけてくるような人もいない。足疲れたな、と目くらましの魔法を解いて夜空を見て居ると、ドラコとは別の足音がしてハリエットは振り向いた。
「こんなところで一人でいるのはいささか不用心ではないかね」
聞きたかった声が聞こえてハリエットは周囲を確認すると、ぱっと顔を明るくして先生、と立ち上がった。
「髪飾り、とてもよく似合っている」
周囲に人がいないとスネイプもわかっているのか、そっとハリエットの髪を掬い取り、散らされている小花を一つ手に取る。
「先生にドレス姿見てもらえてよかったです」
似合います?とほんのり頬を染めて問いかけるハリエットに、スネイプはいつもの表情を和らげると本当によく似合っている、と答えた。褒めることに慣れていない風のスネイプの言葉にハリエットは笑い、わずかに聞こえる曲が変わったことに気が付いた。
「スズランの妖精のようなレディー、私と一曲どうかね?」
どこか悪戯めいた眼で囁くように問いかけるスネイプに、ハリエットは顔を赤く染めて、もちろんと手を差し出した。その手を取るスネイプは手の甲のより手首に近いところに口付け、小さく聞こえる曲に合わせてハリエットをリードする。
ドラコと違って力強さとより大人の包容力を感じるそれにハリエットは足場が少し悪いにもかかわらず、滑るようにして導かれるがままにくるくると躍る。きっとスネイプが人払いの魔法をかけたのだろう。誰も来ない中庭で月の光の下踊るのが夢のようで、ハリエットはじっと見つめるスネイプの黒い瞳に吸い込まれるような気がして、一瞬たりとも視線を外さず見つめあう。
「ペンダントをつけてくれたのか」
情事の際何度も見てきたペンダントがハリエットの胸元で輝いている姿に、スネイプは目を細ませて愛しむように見つめる。
「だって、先生がくれた大切な宝物だから」
曲が終わってもハリエットは動かず、じっとスネイプを見つめ、そっと唇を重ねた。
静かにそれを受けるスネイプは生徒のことを言っていられんな、とつぶやくとハリエットを抱き上げ、そのまま地下牢へと向かう。
抱き上げられることもすっかり慣れてしまったハリエットは慌ててスネイプに縋り付くとドキドキと胸を慣らしながら、いつものスネイプの部屋に連れていかれたことに顔を赤らめた。
扉を閉めながらかき抱くスネイプにハリエットは身をゆだね、少し荒い口づけを交わす。
「あまりにも美しい光景だった」
空を見上げるハリエットに月明かりが降り注いでいる姿はとても神々しく、ハリーの片割れだという事を忘れさせてしまうほどだった、とスネイプは言葉に出さずに高ぶった感情のままハリエットのみずみずしい唇に口付けを落とす。
腰に手を置けばその細さに思わずくらくらとして、あらわになっている肩口に口付けを落とし、思わず赤い印を刻み込む。
「あの、先生……」
徐々に降りていく口づけを甘受するハリエットは上気した瞳でスネイプを見つめ、スネイプもまたその宝石のような瞳を見返す。ハリエットは黙ってスネイプの左手をとると、スネイプが反応するよりも先にその腕に口付けを落とした。
闇の印を知っている、と驚くスネイプが手を払おうとして、ハリエットがしっかり握っていることにその瞳を見返す。
「私、先生じゃなきゃ嫌なんです。先生が好きなんです」
懇願するようなハリエットにあぁこの子は知っているのだな、と何とも言えない感情に唇を噛み……ハリエットが唇を重ねてきたことにその痩躯を抱きしめた。
「本当に私でいいのかね?」
「先生が好き。大好きなんです」
お願い、と言葉にならない声を聴いたスネイプは途中で止めることはしないぞ、というとハリエットの手を引き、寝室へと入る。カチャリという音であぁ眼鏡をしていたのだな、と考えるスネイプはハリエットを抱きしめる。
ドレスが汚れないように、と脱がすスネイプは全身の細胞が彼女を欲するかのような衝動を抑え、まるで初めて体を重ねるような面持ちでハリエットに口付けた。
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