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9:オルゴール人形のように
毎日会うわけにもいかないと、ハリエットは自ら魔法薬学の課題が終わったら、と言い出したがために会いに行けず……それを聞いたマクゴナガルが変身術は後回しです?と悪戯っぽく聞いたことで、必死に終わらせたのは7月ももうじき終わるころ。
スネイプの予定を確認したハリエットはそわそわとした後、鏡で変じゃないか確認し、目くらましをかけて廊下を走る。
角を曲がったところで黒い影に驚くハリエットだが、勢い余ってそのままぶつかってしまう。
「廊下を走るとは、我が寮生とは言え減点が必要かもしれん」
そのまま抱き上げられるハリエットは目の前にいたのがスネイプだと分かり、恥ずしそうに笑う。課題に時間がかかって、と照れ笑うとでは褒美をやらねば、とハリエットの頬に口づけた。
「そろそろ来るだろうと思えば……。目くらましをかけているというのに、そのように足音を響かせていては意味がないのではないかね」
ハリエットを腕に抱えたまま歩き出すスネイプに、ハリエットは慌てるも足元を掬い上げられて横抱きにされてしまい、顔を真っ赤に染めた。
魔法で多少は補助しているだろうけど、と考えるハリエットは自分をしっかり支える手に嬉しくなってありがとう先生、と先ほどのお返しと言わんばかりに近くなった頬に口づける。首に縋りつくハリエットはどきどきと胸を高鳴らせ……大人しくスネイプの部屋へと入っていった。
ソファーに下ろされるハリエットだが、座らせるのではなく寝かされたことに何が起きたかわからず、覆いかぶさるスネイプの瞳を見つめる。
「もう少し君は……自分がどれほど魅力的な女性か、知るべきではないかね」
首をかしげるハリエットの耳元で囁けばハリエットは白い頬を真っ赤に染め、あたふたと視線を彷徨わせる。口角を上げるスネイプが真っ赤になった耳元で低く笑うとハリエットはますます顔を赤らめて、どうしたらいいかわからない風に瞳を潤ませた。
悪戯がすぎた、と体を起こすスネイプはどこか拗ねた風にも見えるハリエットを抱きしめ、続きを期待したのかね、と再び耳元で囁く。
息をのみ、違うと反論する彼女のわかりやすい顔に、スネイプは思わずだらしない顔を見せそうになり、慌てて立ち上がる。
ティーカップに琥珀色の液体を流し、ハリエットに渡せば恥ずかしがって口をとがらせていたその顔がすぐにほころび、出されたクッキーを疑いもなく頬張る。
何度か目の前の魔法薬学の教員にあれこれ盛られているというのに、少しは警戒心を持ってほしい、とため息を飲み込むスネイプはハリエットの口の端についたクッキーを指で掬い取った。
本当はいつかのように口で直接とっても良かったのだが、彼女を愛していると自覚し、恋人となった今……逆にどこか気恥ずかしい。ハリエットは眠っていたのだから、知らないはずではあるが、記憶しているスネイプにとっては甘く、どこかくすぐったい記憶だ。
ハリエットが触れてこない以上、自分からも未来のことについて聞くつもりのないスネイプは以前のように笑うハリエットを眩しげに見つめる。顔にかかった黒い髪を指で耳にかけ、そっと手を添えるとまるで磁石がひかれあう様に、自然と唇が重なった。
今日は、と朝からマグル出身の新入生らに説明をしに行っているはず、とスケジュールを考えて深い口づけですっかり近力の抜けたハリエットを抱き寄せ……膝の上に横抱きに座らせる。髪を撫で、傷一つない額に口づけを落とせばハリエットは幸せそうに微笑み、体をひねってスネイプにぎゅっと抱きついた。
意図しているわけではないだろうハリエットの胸が強く押し当たり、顔を見られないよう抱き返すスネイプは思春期の子供でもあるまいのに、と彼女を欲する自分の制する。少しでも手綱の力加減を間違えたら彼女を押しつぶしてしまいそうで、スネイプは減欲剤を新調すべきか、と小さくため息を零した。
戯れながら最近の話をし……目があえば口づける。おぼろげな記憶のジニーとの家デートでもこんな風じゃなかった、とハリエットは幸せな気分で指を絡ませあう。今だけは見える未来のことを忘れて、ただこの幸せを噛み締めたい、とスネイプの首もとに顔を埋めた。
「あれ?先生、トワレつけていましたっけ?」
すん、と匂いを嗅ぐハリエットにスネイプは少し考えてあぁ、と声を上げた。
「先日、石鹸を変えたのだ。少し匂いが強いものだったが……その匂いかもしれん」
以前貰ったものから適当に選んだ、と言うスネイプはまるでビオラのように匂いを嗅ぐハリエットにふっと笑い、お返しとばかりに襟元に鼻を寄せる。すっとした春の息吹の匂いにどこか甘い花の香り。
自身の高い鼻がハリエットの首筋をなぞり、辿っていくと匂いが強くなった気がして、ちろりと舌先で白い肌をなぞる。ピクンと体を震わせるハリエットの思わず洩れた吐息がスネイプの耳をかすめ、抱えるハリエットを支える手に力がこもる。
本当に、彼女相手だと歳不相応な愚かな男に成り下がる、とスネイプはため息をつき、横抱きにしているハリエットのシャツに手を当てた。
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