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11:懐かしい顔
魔法薬の調達などでいないと記されていた日々をハリエットは部屋で過ごし、早々に終わった課題にハーマイオニーに感謝の気持ちを向ける。彼女がいなければ未だにうんうん唸っていたかもしれない。
彼女はフランスに出かけると、そう別れ際に言っていたから今は異国の地にいるのだろう。仕事で行ったこともあるフランス。
カタツムリが出てきた時には悲鳴を上げそうになったが、スターゲイジーパイを生み出した国が何を言っているんだと言われて、目をそらした覚えがある。
まだ姿をそのままではなくオリーブオイルなどで味を付けたカタツムリのほうがましかな、と見た目のインパクトが凄まじく、ホグワーツ以外でおいしいと思えたものに出会えなかったパイを思い浮かべた。
かつての職場の先輩は、あまりフランスの料理を食べるなと言っていた。なぜなら、フランス料理に口が慣れると、帰国後しばらく地獄を見るぞ、と。ホグワーツにいる間なら大丈夫だろう、と親友を想うハリエットは味が濃いだの文句を言っていたロンがすっかり大人しくなった……懐かしい日を思い出した。
そんなある日の朝、いつものように朝食をとっていると、屋敷しもべ妖精のベベがマクゴナガルに新聞を届けに来た。その見出しには大きくアズカバンの脱獄の記事が書いてあり、写真が動いている。
「シリウス……」
15歳で別れた大事な……大事な家族。自分が勝手に動き、自分こそが正しいとみんなを巻き込んだ神秘部の戦い。思わず涙腺が緩みそうになって、まだ生きている、まだ元気そうな……シリウスの写真を食い入るように見つめた。
危険そうな顔をしているが、これは新聞を作る際に写真をそのように固定しているから、だから普通の写真のように犯罪者が隠れたり、コーヒーがこぼれたからと言って不満げな顔をしたりすることもないのだと、雑誌を作っていたルーナの父が教えてくれた。それでもハリエットにとっては敵意をむき出しにするシリウスそのものが懐かしくて、最期の言葉に胸が痛む。
そんなハリエットをマクゴナガルが驚いたように見つめ、一体どういうことかと考える。彼はかつて彼女の両親を裏切り、さらには親友を殺した大罪人だ。
それなのにハリエットは憎しみを抱くどころか、懐かしそうに目を細め、あまつ涙さえ浮かべている。彼女は彼を知っている。だが、マクゴナガルは彼女が親しみを覚える彼を知らない。
ふと、一年間スネイプが大変だという話を思い出し……そういうことですか、とかつての活溌として青年を思い浮かべた。ブラック家から出た珍しいグリフィンドール生。
一族から離れてはいたが、単なる悪戯にしては危険な魔法や薬を使うあたり、彼がどう否定してもブラック家の血筋と言うのが明白だった彼。むしろ、彼の弟のほうが闇からは遠ざかっていたように思える。
ジェームズが知能的な狐ならシリウスはどう猛な大型犬だ。遊ぶ加減を知らず、頭に血が上るとどうしようもない……そんな彼とハリエットがどこで出会ったのか。どういった間柄になるというのか。
今年はあの3人……いや、目には見えなくとも“4人目”がいましたわね、とハリーの周囲で起こる騒動の予感に頭を抱える。スネイプのいら立ちが……曲がり曲がって無警戒な小鹿に向きそうで、ため息が漏れた。
シリウスに関してはひとまずダンブルドアに脱獄した関係の話の際に報告するとして……あとは黙っておきましょうと少し苦めに淹れたコーヒーを飲み込んだ。
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