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7:ハニートラップ(誤用)
じっと見つめるスネイプの瞳が静かに燃え盛っているような気がして、ハリエットは落ち着かなかった。ヘンリーの時からもずっと疑問だったが、スネイプは何かにつけて口づけてくる。
ハリエットにとって嫌なわけでもなく、むしろ目を閉じて互いだけの存在をただ感じる時間が心地よく、離れるのが惜しいとさえ感じる。すっかりスネイプとの口づけの虜になっているハリエットは素顔でも同じようにしてくれることが嬉しい。
ただ、以前はこんな風に一度のデートで何度も何度もキスをしていなかった気がして、この2年で回数を超えたような気がして……大人の恋愛ってこういうものなのだろうか、と言う経験の差を見た気がしてなんだかな、と思うこともある。
母リリーを愛していたと言ってもきっと付き合いとかで何人か女性はいただろう。でないとあんなふうに抱くことはできないだろう。
バレンタインの後は一度も後ろを使っての睦ごとはしていない。太腿を使っての疑似的なものなら向かい合う以外で何度もまじりあったが、ハーマイオニーが石化し、ダンブルドアがいなくなって……不安定になってからは個人授業も行われず、スネイプと二人きりになることもなかった。
久しぶりに触れたい。そう感じてしまうのは13歳ながらにもスネイプによって教え込まされた賜物なのか。熱のこもった目でスネイプを見つめ返す。それでやっと危険だと感じたのか、スネイプが視線をそらし、片手を顔に当てる。
「姿を変える魔法薬だが、そろそろ改良をしなければならないと思ったのだが……。今のところは順調に精製できているかね?」
やっと顔をハリエットに向けたスネイプが無意識のようにハリエットの黒い髪を、指通りを確かめる様に何度も撫でつけ、指にからめる。
項の生え際を撫でられると、ハリエットはピクンと肩を震わせ、顔を赤くしたまま一応はできていると思います、ともごもごと答えた。
「ではもう少し複雑になるかもしれん。マダム・ポンフリーからの要望で、君ももうじき大人の女性になるため……その……二次性徴を迎えるだろう。本来ならばもう少し早いそうだが、魔法薬の影響かやや遅れていると、そう言われている。ヘンリーとしての生活を加味すると症状を抑えなおかつ正常に発育するための魔法薬が必要だと言うことだ。魔法薬をほぼ飲まないこの夏に一気に遅れを取り戻すかもしれない、と進言を受けていることもあり大幅な改良を行っている」
ここまででわかるかね?と羊皮紙を呼び出し、めくりながら告げるスネイプの言葉に、ハリエットはなんとなく胸元に手を当てた。
そうか、そろそろそういう時期なのかとハリエットは考え、変わっていく自分の身体がなんだか不思議でしょうがない。ハリーの時もそんなに大きな声変わりもなかったし、体毛が濃くなったとか筋肉が付いたとか、そういうのがあまりなかっただけに少し緊張する。
ひとまず、声を低くさせ、全体的に丸みを帯びた女性らしい体つきをしぼませ、いつも通り見かけだけの偽りの物が現れる様にして……それ以外を変えないという魔法薬を渡される。
「一応校内で飲まれている……月ものの薬には干渉しないことは動物の実験ではあるが確認済みだ。これの効果時間はとりあえずの2時間だ。インターバル期間は今回は少し短くする予定だ」
以前とは少し変えてあるという魔法薬は少し暗めの青で、鍋の色のこともあり色の変化が見えにくそう、とハリエットは眉を寄せた。えい、と飲んでみれば以前のもそんなにおいしいわけではなかったが、少し苦みが強く眉間の皺が隣にいる彼と同じくらい深くなる。
「ふむ、見かけには問題は……いや、何か配合に誤りがあったのか……」
赤い髪になったことを確認するハリエットは少し険しい顔をしたスネイプを見て、視線の先の胸元に目を落とした。ヘンリーの真っ平なはずの胸元が膨らんでいる。なんで?と少し考えてから慌てて両手で胸元を隠した。
「こ、これはブ……あーえーっとえーっと……下着です……。着けなさいって言われて……」
中身の入っていない下着に焦るハリエットに、やっと気が付いたスネイプはいつもの血色の軽い顔を少し赤くして、慌てて背を向ける。
今外します、という声とともにごそごそと言う音が聞こえて、スネイプは先日ダンブルドアに頼まれた脱狼薬のレシピを頭の中で反芻させた。
「あ、あれ?なんで外れないんだろう」
おかしいな、という声にどうしたと振り向いたスネイプは大鍋で頭を叩かれたような衝撃に思わず目の前のものを凝視する。赤い髪を前にたらし、後ろにまわした手で必死にフックを外そうとするが繊維が引っかかっているのか外れない。その白い背中と、ブルーの可愛らしい下着という組み合わせに理性の壁が粉砕される。
そうだ、今回の薬の作用として、裸で足を広げねば見えないのだから大丈夫だろう、と今まで隠していた部位を今回は隠していない。一応目立たぬようにはなっているはずだが、確かめねばならない。そんな言い訳が頭を駆け巡り、赤毛の少年を抱き上げるとそのまま奥の寝室へと運び入れる。
驚いて固まるヘンリーを寝台に置いてじっと見下ろす。
こんな……こんな……大人を陥落する悪い少女の甘い天然トラップだと分かっていても、抗うことなどできない。運ばれている間少しは抵抗すればいいものを、と覆いかぶさった。
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