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23:バレンタイン
転生してきて、様々な記憶がよみがえっては徐々に消えていく中、大戦に関係なく記憶に残っているものがいくつがある。そして、その記憶の中で最もくだらなく、忘れたいと願う日がやってきた。
先日、談話室でそういえばとバレンタインの話を唐突にし出したヘンリーに、プレゼントを用意していたらしい人らの視線が集まる。
バレンタインについて話し合っていた女子生徒の近くで立ち止まったヘンリーは気を付けたほうがいいかもしれないという。
「大伯母様から聞いた話だけど、お騒がせ男が何か企画しているとかって聞いた。小人を使ってバレンタインメッセージを配達するとか……。なんか楽器を持たせるそうだから歌い上げるのかって。だから今年のバレンタインは直接渡すか、夕方にフクロウ便で届ける方がいいかもね」
当人に当てたメッセージとかは誰にもばれないだろうけど、というヘンリーに一部の生徒らはいらっと本の表紙でウィンクする男を浮かべる。
あのろくでなし、なんてことするんだというのと、寮監がぶちぎれそうな気配がして……ちらりとヘンリーを見る。うかつな彼がいらぬスイッチを押して、頭からぱっくりとおいしく食べられそうな……そんな未来が見える気がした。
大広間に行けば壁一面にけばけばしいピンクの装飾がされ、ハートの紙吹雪が舞い……ヘンリーから事前に聞いていたスリザリン生も思わず足を止める。寮生にいたファンらしい女子生徒も思わず顔を顰め、同じピンクの服を着たロックハートを何とも言えない表情で見ていた。
「この愛のキューピッドがメッセージを届けます。先生方もこのお祝いムードに入りたいと思っているはずです。スネイプ教授に愛の妙薬のつくり方を聞いてはいかがでしょう。フリットウィック先生に魅惑の呪文を聞いては?」
高らかな声に紹介された教員にそれぞれ生徒の視線が向く。
愛の妙薬……と考えるヘンリーはじっとスネイプを見つめた。すでに相愛の恋人が使ったらどうなるのだろうか。そう考えてじろりと動いたスネイプの目に慌てて目をそらす。
またうかつにもスネイプを刺激してはこちらの身が持たない、と危機管理能力がやっと動いてヘンリーの好奇心を抑える。口角をわずかに上げたスネイプの考えていることなど、知る由もない。
その日は授業中に割り込む小人たちのせいで授業にならず、スネイプの眉間の皺もどんどん深くなっていった。ヘンリー宛ての物もあったが、それは他の寮からの物のようで、近づいてきた小人にシレンシオと唱えて、片っ端からその口を封じていた。
容赦ないヘンリーにやっぱり我らがスリザリン生だ、と認識する寮生らはメッセージとともに配達されたバラの花束やらプレゼントに困っているヘンリーを見ていた。
夕食後、部屋に戻ったヘンリーは机に置いていた深紅の薔薇を手に取り、そっと寮を出る。そのままスネイプの私室に行けばすでにスネイプが戻ってきておりすぐに通される。
「去年は貰ってばかりだったので。プレゼントはすみません、どうしてもいいものが浮かばなかったので薔薇だけです」
ロックハートに邪魔されたくなくて、と直接持ってきたヘンリーが差し出す薔薇に驚いたように眉を上げるスネイプはふっと笑うとありがたく貰おう、と受け取った。
「あの話を昨日聞いていたため、フクロウ便は使わなかったのだが、私からはこれを」
きっと来てくれると思っていた、と言うスネイプにヘンリーは頬を赤らめ、差し出された薔薇と小箱を受け取った。中に入っていたのは耳に引っ掛けるタイプのイヤリング。少し緑の混じった黒い石が何だろうかを考えて、図書室で読んだ本を思い出す。
「あ、オブシディアンですね!濃い緑が混じることがあるって書いてあったから」
嬉しそうに笑うヘンリーにスネイプも満足げにその通り、と頷くと唇を重ねる。魔よけの石とも知られている石に、なんだか嬉しくなってヘンリーからスネイプの舌に絡んでいく。
積極的かつ、徐々に上達していたヘンリーに少し面白くなくて、スネイプは食らい付くように手加減なしで深くヘンリーの口を荒らしていった。立っていられず、その身を預けるヘンリーをソファーに座らせ、カップを用意する。
「そういえば今朝、愛の妙薬の話が出た際やけに熱っぽい視線を感じたのだが……興味があるのかね?」
一口飲むタイミングで問いかけるスネイプに思わず咽るヘンリーは顔を赤くしてあわあわとスネイプに視線を向ける。
あぁもう今日もダメだ、とスネイプは時計を確認し彼が寮に戻るまでの時間を確認する。今日は早めに夕食を済ませたためまだまだ時間はある。
あーとかうーとか唸った後、ヘンリーは観念したように口を開いた。
「すでに付き合っている場合って愛の妙薬は効果ないのかなって……。あれってたしか好きになるようにする薬……ですよね」
それが気になったというヘンリーにやっぱりか、と彼が考えていたことを先読みできたことにスネイプは満足し、ニヤリと笑う。
その笑みから、あ、これダメかもしれない、と時計を確認するヘンリーはどきどきと高鳴る胸に期待する。少しぐらい自室に戻るとしている時間をオーバーしても大丈夫な薬を飲んできてはいるから気絶しなければ大丈夫だ。
「試してみるかね?もちろん、私の作った薬で」
いいかね?というスネイプにじっと見つめられて……ヘンリーは釣られるようにこくんと頷いた。アクシオで呼び寄せられた小瓶を開けば糖蜜パイと……スネイプの香りがして傾けられるがままに中身を飲む。ふわふわと酔った時のような高揚感を感じ、体の奥が熱くなる。
「愛の妙薬と一言に言っても種類は様々ある。そしてこれはアモルテンシアのような強制的な拘束力はないが、対象への想いを強くさせる効果があるものだ。どうやら君には少し強かったようだな」
そんなに私のことを想っていてくれているのかね?と楽し気に囁き、ソファーに押し倒す。ピクンと震えるヘンリーはスネイプを求める心と体がこれ以上ないほどに……何度も達せられてスネイプ以外考えられなくなった時のようになって、体が敏感になっていた。
スネイプを赤らんだ顔で見上げた時点で火をつけていたことを知らないヘンリーは、寮生らが危惧していたとおり、頭からぱくりと悪い寮監に食べられるのであった。
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