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22:Wプレゼント
スネイプの誕生日当日、調合するスネイプの隣で解毒剤を教えてもらうこともあり、シークにプレゼントを頼まなかったヘンリーは小指の指輪を弄りながらちらりと時計を見上げた。
早く授業が終わらないかな、とロックハートの言葉を聞き流す。もはやスリザリン生の中で話を聞いているものも、謎の寸劇のような再現劇を見ているものもごくわずかだ。
マルフォイらに至っては聞くふりをして、実家から送られてきたという闇の魔術に関する本を読んでいる。全力で逃げ回ってきたヘンリーに対しては相変わらずしつこいが、男子生徒の冷ややかな視線と、ファンであるらしい女子生徒らが彼は病弱だからそっとしておいてあげてほしいという風に言われ……少し、そう、少し大人しくなった。
全くロックハートのことは見ずに時計を確認するヘンリーは、最後の授業が終わった後すぐに渡せるよう鞄にプレゼントの袋を持っていた。ビオラの時にも気になっていたスネイプの手。ひんやりとしていて、特に冬は乾燥もあってカサカサとしていて……そのうち手が切れてしまうのではないかと危惧している。だから、と用意したプレゼント。
鐘が鳴るとともにとりあえず出していた本を鞄に入れようとして、プレゼントの袋を膝の上に出す。
「おや、私へのプレゼントかな?」
そんな声が近くで聞こえてヘンリーは誰だと顔を上げた。そこにいたのはやはりロックハートで、ヘンリーの膝の上のプレゼントを手に取る。
「これは何だろう、当てて見せようか」
「今すぐそれを返してください」
にこやかな笑みを浮かべるロックハートに対し、どこかでブチンと何かが切れたヘンリーは今まで出したこともないほど低い声で鋭く言葉を放つ。
「汚い手でその袋に触れるな」
今までにないほどに激昂したヘンリーに教室を出ようとしていた他の寮生も思わず足を止めている。ヘンリーが普段飲んでいる薬は当然男装するための薬で、力を抑えるものではない。
地道な訓練で闇払いの時とそう変わらないほどに力を付けて来ているヘンリーの周りでインク壺が割れる。
驚いた様子で袋を手にしたままヘーゼルの眼を怒りに燃え上がらせる少年を見下ろすロックハートは、こんな敵意を向けられたことがないのか、目をしばたたかせるだけで動かない。一秒でも早く取り戻したいヘンリーは深く考えることもせず、杖を構える。
「エクスペリアームス!」
至近距離で放った武装解除呪文を食らい、吹っ飛ぶロックハートの手からプレゼントが宙を舞い、ヘンリーは難なくそれを受け止めた。ほこりを払い、リボンの曲がり具合を確かめて最後にスコージファイと唱える。
本棚に激突してひっくり返ったロックハートには目もくれず、鞄を引っ掴んで教室をあとにした。
普段温厚なヘンリーの怒りに、本当にロックハートが嫌いなんだな、と納得するとともにヘンリーのプレゼントを思い浮かべ、寮監の顔に行き当たる。どこかふわふわしてうっかりが多いヘンリーを抑えるには確かにこれ以上ない適任だけど、と悔しさにこぶしを握る男子生徒の姿が残された。
授業が終わって、誰よりも早く教室を出ていくヘンリーはそのままの勢いで地下牢へとやってきた。生徒らが出ていくのを見て物陰に隠れたヘンリーは最後の一人が出ていくのを待って、そっと教室を窺う。ふと、落ちているリボンに気が付き、拾おうと屈みこんだ。
「待て、ヘンリーそれは」
振り向いたスネイプが声をかけようとして、ぎゃ、という声とともに両手に絡みついたリボンに驚くヘンリーを視界に入れる。
先ほどの授業はあの悪童らがいる学年のグリフィンドールとの合同授業。あの双子がいた席の近くに落ちていたことから悪戯グッズであることを見抜いたスネイプだが、まんまとヘンリーというお人よしが引っかかったのだ。
かばんを浮かし、そのままヘンリーを連れて自室に入るスネイプはヘンリーを座らせる。難しいグッズではないだろうが念のため、と細い腕に巻き付いた赤いリボンに触れる。
「うかつに素手で触れるからこうなるのだ。全授業が終わった後に来たと見受けられるが何か急用でもあったのかね?」
「あ、そうだ!これ持ってきたんです」
急いできたからには理由が、と問いかけるスネイプにヘンリーは慌てて鞄の中をあさる。
「誕生日おめでとうございます。先生、手が荒れていたから……それに寒い日は冷たかったし……。まるで素手の感覚ってうたっているだけにきっと先生の調合の邪魔にはならないかなって」
両手が縛られながら何をしている、と呆れるスネイプだが渡された袋の口を開けた。黒い滑らかな素材の手袋が出てきて、スネイプはまじまじとそれを見つめる。
試しに手を入れてみれば見た目に反してするりと手が入るのと同時に、不思議と温かい。指を動かしても全くずれず、ぴったりと皮膚のように張り付いている。外そうとすれば今度はするりと外れ、地下牢のひんやりとした外気に触れる。
「手を温めるだけじゃなくて、サラマンダーの卵とか掴んだり、濡れてもしみたりせず、ある程度の魔法薬が付いても大丈夫って……魔法薬を作る人用の手袋なんです」
先生あまり防寒具つけてないので、というヘンリーを引き寄せ、唇を塞ぐ。とろりと目をふやけさせるヘンリーは触れた唇がありがとうと動いた気がして、嬉しさからスネイプに手を回そうとして、拘束されていることを思い出す。
困っているヘンリーを見たスネイプは少し考えてからひょいとヘンリーを抱き上げた。目をぱちぱちとするヘンリーはそのまま寝室に連れていかれ、どさりと下ろされたことにようやく何かがまたスネイプのスイッチを押したことに気が付き、慌てて起き上がろうとして……疑似的な行為とはいえ、閉じ続けた内股に疲労を抱えることとなった。
息を整えている間に無事手が解放されたヘンリーは頬を膨らませ、上目遣いでスネイプを見る。まだ懲りないのか、と口角を上げるスネイプはつぃとヘンリーの白い肌を撫でた。
きわどい所を撫でられ、息をのむヘンリーに喉の奥でそっと笑い、最高のプレゼントをありがとう、と再び呟く。赤いリボンを見せればヘンリーは顔を赤くしてじっとスネイプを見つめた。
「それって、僕の手袋ですか?それとも別のものですか?」
緩やかに刺激を与えられるヘンリーが呼吸を乱しながら問いかければ、これ以上ないほどに上機嫌なスネイプはそっと耳元で答えを囁く。それに思わず眉を寄せるヘンリーは……仕返しをしようとしてやっぱり失敗するのであった。
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