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12:風速**メートル
事情があってしばらく会えないという手紙を受け取り、うなだれるハリーをヘンリーは横目に見て、膨れ薬をかき混ぜる。
スネイプとの補講……いや、個人授業は12月になった今でもやはり忙しくて開始されず、去年と同じ1月からとなっていた。
その割には休日の夕方に在庫確認の手伝いをお願いされて……ほとんど骨抜きにされて立てなくなったヘンリーを抱きしめている時間のほうが長い気がする。
なんかおかしくない?とヘンリーは薬を瓶に移す。だいたい、変に熱を上げられるとヘンリーとしては困ってしまうのだ。男であった時ならば体が熱を持っても処理はできた。
何度かルームメイトらにフレッドとジョージが加わりそういう話をして、偶然通りがかったパーシーに怒鳴られてということもあった。
薄れていく記憶の中でも不意にそんなことを思い出すから不思議だと思うヘンリーは薬の出来を確認しながら息を吐く。ヘンリーの姿は仮初のためそういった機能は一切ない。
それは漠然とわかっているし、問題はない。そのため……ハリエットの姿でどうにかするしかないが方法が全く分からない。
こんなこと母にも聞けないし、と悩むヘンリーはパチパチというわずかな音を耳で拾って反射的に身を伏せた。
爆発音とともにぱたぱたと走って行く音が聞こえてこの日だったのか、とフードをかぶってできるだけ身体を小さくする。
騒がしい教室の中、反射的に隠れていたヘンリーは恐る恐る立ち上がった。あぁなんか覚えがある、と阿鼻叫喚の図にため息がこぼれ、横目で素早く戻ってきたハーマイオニーを見る。
大丈夫気づかれていない。ということは、とポリジュース薬の計画が進んでいることに小さくうなずき、一人被害にあっていなことになんだか気まずくなって頬を掻いた。
ゴイルの鍋に入っていた花火を持ち上げるスネイプは怒り心頭といった様子で教室内を見渡し……わざとらしい表情のハリーを見て、それからなぜか気まずそうに眼をそらすヘンリーを見る。
視界の端で見えたのか、それとも何か“知っていた”のか。素早く身を沈めたヘンリーには薬がかかっていないらしい。そのことにほっとするスネイプは我先にと教室を出るグリフィンドールを睨み付けた。
全員処置を終えた後、鼻が元に戻ったマルフォイを気遣うヘンリーを呼ぶ。本当にどこにもかぶっていないのか、そう問いかけるも特には、という答えしか返ってこない。
「無事であるのならば一つ手伝ってほしいのだがよいかね?」
いくら何でもいきなり花火を投げ入れる愚行をハリーがするわけがない、とスネイプは保管庫に目を移した。
生徒用のであればこれほど派手なことをしなくてもいいはず。となれば彼らの目的はスネイプ個人の薬草保管庫だ。
「我輩はこの教室をどうにかしなければならない。その間に在庫の確認をしてもらいたい」
あちこちに飛び散った魔法薬を片付けねば、と言うスネイプにヘンリーはなるほど、と思いながらかつてやった犯人であり、片割れのやったことでもあるため素直にわかりました、と羊皮紙を受け取った。
何の疑いもなく奥の扉が一つしかない部屋に入るヘンリーをスネイプはじっと目で追う。だから、頼むから少しは警戒心をもってくれ、と羊皮紙と在庫を確認するヘンリーの後姿を見る。
今日は筒状になった銀のポニーフックが髪を包んで静かに揺れる姿はまるで警戒心がない。
罰則で行う在庫の確認はスネイプがすでに把握している生徒用の物で行い、まじめに取り組んでいるか……それを見ている。
だが、スネイプ個人となると扱う材料が異なるため、信頼できる生徒にしか触れさせていない。
最近は生徒用のものもヘンリーに頼んでいるが、それはあくまでも口実でヘンリーを目の見えるところに置いておきたいがためだ。
日頃から誰とも分け隔てなく接し、笑う彼を見ていると懐に入れて抱きしめたくなる。
あのロックハートを除いて彼は人とのスキンシップも受け入れていて、それが何とも言えない感情を引き起こす。
それを見てしまった日には在庫確認や書物の整頓を頼み……気が済むまで口づけ、首筋を食んでしまう。
最初こそ体を強張らせたが、今は受け入れられており、その体勢が余計にスネイプを煽る。次押し倒しては理性が持たない、と首を振り教室を片付けていた手を止めた。
あちこち飛び散った魔法薬はこれで全部片づけたはず、と思ったところで、ヘンリーからごく小さな声が上がった。そっと背後から羊皮紙を覗くと毒ツルヘビの皮の項目で手を止めていた。
「数が合わないのかね?」
耳もとでそっと囁くと驚いたらしいヘンリーの肩が跳ね上がる。見る見るうちに赤くなる耳に全く、とスネイプはため息をついた。こんなかわいらしい反応されては持たないではないか、と。
「いや、あの、その。あ、いや、えっと数数え間違えたかな」
明らかに挙動不審になるヘンリーは先に他のを確認しようかな、と呟いているあたり妖しさしかない。続いてバイコーンの角を確認しようとして、数を数える前に慌てて別の材料を確認する。
それで数が合わないのはこの二つか、と目算を立てたスネイプはそこから連想できるレシピを考える。
この二つが必要な魔法薬は、と考えるスネイプはすっと目を細めた。あの3人が何を企んでいるかわからないが、ポリジュース薬が真っ先に思い浮かび、そういえばニワヤナギやクサカゲロウといった生徒用の棚らから減った材料を思い出す。間違いない、どこかで煎じているのだ。
「何を隠しているのだね?ヘンリー」
後ろから抱き込み、下腹部と胸元に手を這わせる。
「ぴゃあっ!」
何とも奇妙な声を上げるヘンリーの手から羊皮紙が落ち、鼓動が早鐘のように速度を増していく。今までにない反応におや?と考えるスネイプはすぐに失態に気が付いた。
ヘンリーを愛おしいと思うあまりもう少し受け入れてもらえてもいいだろうか、とそう無意識に動いたのだが、相手は12歳の少女だ。
臀部がセーフとは決して言えないが、ここは絶対に触れてはならない領域だ、とヘンリーの薄い胸元に手を置いたままぐるぐると考える。
「あ、あの、あ、あんまり触られると、えっと、あ、えっと、熱の下げ方わからないんです!!」
思考がぐらぐらとするスネイプにそのヘンリーの思い切った声はヴェンタスよりも強く、その思考を、理性を吹き飛ばす。後ろから抱きしめるスネイプにもわかるほど、項から熱がこみあがり、少し甘いようなヘンリーの香りが強くなる。
もはやスネイプの頭からはポリジュース薬を作ろうとする悪童らのことなどすっかり忘れて自ら袋小路に走って行くヘンリーを強く抱きしめた。
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