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11:石化した生徒

 朝目が覚めるとそこにはベベがいた。なんでも母が呼んでいるということで、支度をしてまだ人気の少ない談話室を抜けて変身学の教室のほうへと向かう。
「石化のこと?」
 部屋に入るなりそう問いかけるヘンリーにマクゴナガルは眉を寄せ、ここに座りなさいと言う。
 確かに問題はないと言ったがもしかして怒っているのではないかと素直に座ると、マクゴナガルは言葉を探している風に見えた。
 呪いへの抵触を気にしていることに気が付いたヘンリーはどこまで話しても大丈夫か……目を伏せて考える。

「大ごとは起きないって言ったからだよね。ごめんなさい。あれは……ごめんなさい言えそうにない。何にも答えることはできない」
 犠牲が出ないというのも未来の結果論だ。これからひどくなるということも未来へ関わること。自分が関わるか否かは……言えるわけがない。
 うつむくヘンリーにマクゴナガルは小さく息を吐いて、困らせたかったわけじゃないと娘の頭を抱き込んだ。

「あなたが以前痩せた時、すぐに気が付くべきでした」
 ヘンリーが痩せたあの時、酷く何かに警戒している風であった。おそらくこの騒動はミセス・ノリスから始まり、下手すると一年間続くのだろう。
 そう考えて小さくごめんなさいと繰り返す娘の背を撫でる。彼女はこの騒動の核を知っており、スリザリンの化け物も知っているのだろう。
 それが出歩いていることに彼女は恐怖しているのだ。彼女が彼だった時、彼女はいなかった。ということは彼女の行動によって未来が変わり、本来犠牲になるべき人ではなかった人が巻き込まれたらと震えている。
 ただ、石化した生徒は解除できれば問題はないのだろうことは、現状からは察することができる。
 フィルムが燃えてしまったことは残念だが、それだけの力を持ったものがいたというのに、彼女の口ぶりからは酷いことにはならなかったのだろう。

 何度か撫でていると落ち着いたのか、ヘンリーは顔を上げた。その手が胸元を軽く握っていることに気が付き、マクゴナガルはそっと微笑んだ。
「そのペンダントがきっとあなたを守りますよ」
 宝石の持つ力以外は感じられないペンダントを大事に握る姿に、マクゴナガルは贈った相手を思い浮かべながら大丈夫と言う。
 顔が赤いヘンリーは頷いて胸元からペンダントを引き出した。宝石が嵌った台座の裏はピカピカに磨き上げられており、いかにヘンリーが大事にしているかわかるものだ。
 ぎゅっと握る姿にハリエットの心に彼の存在はずいぶん大きくなっているのだと、微笑ましく思え……育ての親としては不安が募る。
 魔法族はマグルよりも長生きだ。そう考えると20歳差なんてと思えるが、学生と教師。ハリエットの話から元が20歳だとしても、なんとも複雑な気分になり、小さく息を吐いた。


 ヘンリーはマクゴナガルのところを出てからあてもなくさ迷い歩いていた。楽な年なんて一つもない。楽観的に考えすぎたんだ、とヘンリーは未来を思い出す。
 少なくとも、ハリーはこれから先波乱に満ちた学校生活を送ることになる。ハーマイオニーの助けのおかげで何とかついて行けたが、まともな学校生活送ってなかったな、と細くあいた窓枠に組んだ腕を乗せて空を見上げた。
 その分私が青春謳歌しても……そう考えて首を振る。さすがにそれは気が引けるとかいう類ではない。

 何せ自分は二度クィレルを殺した罪人だ。二度目は明確な殺意を持っての。幸せ何て望むべきではない。深々とため息をついていると、窓の外に向かって崩していた手に何か重みが加わる。
「ヘドウィグ、今そこ乗らないでよ……」
 我が物顔でヘンリーの腕に乗る白い相棒を落とさないよう、力を入れるヘンリーだが中途半端に組んだままの腕がどうにも動けなくなっていた。
 くちばしに咥えられている手紙に、あきらめという言葉を知らないのか、と先ほどとは別の意味のため息を吐く。受け取る意思を示すとヘドウィグは飛び立ち、ヘンリーに手紙を落として去っていく。
 夏休みにヘドウィグを返してからハリーとは一切交流をとっていない。一応ハリー自身も気にしているのか、それともダンブルドアに会えていないからか、訪ねてくることはなかった。

 単にドビーから免れるために連絡とってないだけなんだけどな、と手にした手紙を開く。少し読んだところでため息がこぼれる。
 僕はここまで聞き分け悪くも、あきらめ悪くもなかったんだけど?とそうつぶやくと、記憶の中のジニーやロン、ハーマイオニーにじろりと睨まれた気がして、ヘンリーは項をさすった。
 






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