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14:決闘の指南

 がばりと起き上がったハリエットは見ていた夢を思い出し、顔を真っ赤にする。あの花火事件後、スネイプの口づけで酸欠になり気絶したという話を本人から聞いて……絶対嘘だ、と納得した風を装うヘンリーは考えていた。
 おそらく忘却術が使われているが恐ろしくて解呪はしていない。そのおかげなのかここ数日は夢が危ない妄想……いや事実かもしれない物を見ている。万が一……万が一をしていたらもうこの関係にきちんと区切りを付けなければならない。
 その場合は自分から告白すべきか……いや、それしかないだろう。受け入れてくれるかはわからないが、少なくともスネイプもこの関係にけじめをつけたいのではないだろうか。悶々とするハリエットは鏡を見て、この姿じゃだめだよね、と薬を煽った。


 掲示板を見たヘンリーはとうとう来たか、とげんなりする。決闘クラブ。そう、名だけは立派な決闘クラブ。ヘンリーは行きたくないなと思いつつ、面白そうだというマルフォイらに流されて大広間に残ることになってしまった。
 魔法使いの対決は決闘、と当時は思った。けれどもふたを開ければ親玉以外が全員チンピラの非礼無礼なんでもあれな酷いもんだった、とヘンリーは絶対忘れてはならないあの大戦を思い返す。
 親玉は癇癪さえ起こしていなかったら……それもとても短いごくわずかな限定された期間ではあるが……癇癪さえ起こしていなければ一対一の決闘を好んでいた。
 だからこの訓練も無駄ではない。最強最悪な男を相手にするのであればだが。

 あのルシウスさえ15歳の子供に神秘部でのあれだ。思い出せば出すほどに決闘クラブいらなかったのではないか、と怒りがこみあげてくる。
 そんなことを思い出してつい眉間にしわを寄せていることに気が付き、慌てて首を振った。マルフォイに緊張しているのか?なんて聞かれて争いは好きじゃないから、と笑ってごまかす。
 元来、争いごとはあまり好きではない。あの当時は仕方がなかったからとか、気持ちが高ぶったからなどがあったが、マルフォイを傷つけた時血の気が引いたなんてもんじゃなかった。

 それにしてもこの催し物は見る気が起きなかった。変な礼を見せられただけで……と考えたところではたと気が付く。そうだ、今回は……スネイプの雄姿を見ていればいいじゃないか、とハリエットの気持ちが顔を覗かせて……一瞬で終わるんだったと思い出し、しゅんと心のハリエットがうなだれる。やっぱり何一つ楽しみがない、とヘンリーは壇上に目を移した。
 助手として紹介されたスネイプの殺意に満ちた目をヘンリーは穏やかな気持ちで見ていることに自分で不思議になる。自分にさえ向けられなければ……ビオラに向ける優しいまなざしがこうも変わることにどきどきしてしまうのはきっと気のせいだ。

「ヘンリー……わかりやすいな」
「え?何か言った?ドラコ」
 ぼそっと呟かれた言葉にヘンリーは首をかしげるも、マルフォイは何でもないと言って対峙する二人を見る。
「あの蛾をつぶしてくればいいのにと言っただけだ」

 一瞬で吹き飛ばれた男を見て、ヘンリーはこれが自分の十八番になるなんてこの時思いもしなかったな、と武装解除呪文を唱えたスネイプに視線を移す。あの頃、なんだかんだスネイプ嫌っていたがスネイプが見せた魔法が得意になるなんて、思いもしなかった。
 こうして改めて初めて見た場面を見ると感慨深く、よりスネイプへの想いが強くなる。

 前髪でまた少し目が隠れているが、その眼が生き生きとしているのを見て、マルフォイがやれやれとため息を吐く。殺気だったスネイプに慌てて模範演技は終わりというロックハートは二人一組にと声をかける。
 スネイプがマルフォイとハリーを組ませ、ヘンリーとハーマイオニーを組ませようとして、ヘンリーが男であること思い出したように別のスリザリン生であるミス・ブルストロードを当てる。

「ミスター・マクゴナガル、君は力を抑える魔法薬を飲んでいるため、練習は控えたほうがいいだろう」
 こちらにいたまえ、とスネイプの傍に呼ばれ、ヘンリーは目を瞬かせわかりましたと頷いた。とにかく今は閉心術で顔に出ないようにしないと、と赤面しないよう平常心、平常心、と心の中で唱える。
 どうせ誰も見ていないだろうと顔を見合わせる生徒らを見て、腕を組んで様子を見ているスネイプをそろりと横目で見る。目元がピクリと動くがヘンリーの視線に気が付いた様子はない。
 チャンをダンスに誘うのに手間取ったように、恋愛に関してはどうにも苦手な意識が強いヘンリーは見られてしまうとどうにも落ち着かない。
 だから見返さられると困るが、今生徒を見るのに集中しているため、大丈夫そうだと機嫌がよくなる。そこまで考えてから生徒と教師なんだからちゃんとしなきゃと慌てて気持ちを切り替えた。


 視界の端のヘンリーによる視線に集中できないスネイプは腕を組みながらどうしたものかと考え、声をかけようとしたところでマルフォイが笑いだしハリーの足が躍り出し……散々たる有様に深々とため息を吐いてフィニートを大広間全体にかける。
 この惨状にヘンリーを入れなくてよかった、と考えてしまうのはさすがに教師失格だな、と軽く首を振ってこの催しものをした元凶を睨み付ける。誰かに見本を見せてやればどうだろうかと提案し、ハリーを指定し……とてつもないヤル気を放つマルフォイを指定する。
 ちらりとスネイプを……正確にはその隣を見るマルフォイに勘が働くスネイプはそうはさせまいと……ヘンリーが警戒する蛇を出させればヘンリーはマルフォイに近寄らないのではと瞬時に考えた。
 スリザリンのシンボル、蛇を出す魔法を教えればマルフォイはそれは名案ですと笑い、ハリーと向き合った。
「サーペンソーティア!」
 3を数えたところでマルフォイが高らかに唱えると黒い蛇が二人の間に出る。驚いたハリーが思わず体を強張らせるのを見て、ハリーに対する嫌がらせもできたと……これ以上ヘンリーに蛇を見せないように消し去ろうと前に出る。

「私が消してごらんに入れましょう」
 そう聞こえるやいなや、ロックハートによって蛇が消える。そう、視界から消える。
とっさにヘンリーを抱き寄せ、視線を上げれば高らかに打ち上げられた蛇がハッフルパフ生の前に落ちた。そしてそれを前に進み出たハリーが蛇語で何かをいいつける。
 ハッフルパフの……ジャスティンを襲うおうとした蛇は迷う様にハリーとその生徒を見て……スネイプの呪文により消えて行った。
 パーセルマウスが示すのがどういうことか。それを分からないわけではないだろうとみれば拒絶されたハリーは一人きょとんとしている。それをいつもの二人が連れて行き、大広間にはざわめきだけが残る。

「なぜ奴がパーセルタングを……」
 まさか彼女も、とヘンリーを見れば何やら難しい顔をして指折り何かを数えてため息をついていた。慌てたように本日は解散いたしますと高らかに宣言するロックハートによって決闘クラブは閉会を迎えたのだった。



 
 




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