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「ハリー。愚か者がつけられたようだ。」
 目を覚ましたハリーに早々ヴォルデモートが告げた言葉を理解するのに少し時間がかかり、えっと起き上がった。
 ハリーがここに来てかれこれ約一年。先にベラトリックスが大切なものを守るため、死喰い人たちからも姿を消したと、ヴォルデモートが続けるとハリーはほっと息を吐いた。
「ベラはもとから別の場所にいたから動きが早かったが…姿くらましができないようこの屋敷が覆われてしまった。」
「つけられた愚か者はどうしたの?」
 何とか滑り込んだと言うヴォルデモートにハリーは姿くらましができないのか、と考えながら屋敷の情報をバラした愚か者に怒りを覚える。
「当然、もう排除してある。あえて秘密の守人を作る方法ではなかったとはいえ、しゃべらなければよかったものを。」
「せっかく新しく入った死喰い人でもこの屋敷には入れるようにしてたのにね。」
 ばさばさと、腕に飛び乗るヘドウィグの頭をなで、非常用の荷物を確認するハリーは棚から何かを取り出すヴォルデモートに目をとめた。
 素足のまま部屋を横切るハリーにヴォルデモートは瓶を差し出す。
「あの本にのっていた薬だ。ハリー…。奴らの目的は俺様の命と、“攫われた”英雄の奪還。もしもハリーがつかまれば、あの手この手で俺様との絆を壊そうと躍起になるだろう。」
「自らあそこから“脱出”してきたのに馬鹿みたい。その薬を飲みと何が起きるの?」
 甘えるようにすがりつくハリーの髪をなで、青い薬を見せるヴォルデモートにハリーはくすりと笑った。
「この薬は飲んだ相手を眠らせるものだ。そして目を覚ますためには俺様が持つこの赤い薬がなければ永遠に目覚めない。誰の介入も受け付けず、うるさい者達の余計な言葉からもハリーを守る薬だ。誰もハリーのその内面を汚すことはできなくなる。」
「あぁ、あの本にあった、あの悲劇の物語に使用されたと言う薬だね。あの子は…ヴォルの魂の器となるあの子はベラが守ってくれるからヴォルは僕を守ってくれるんだ。もしも誰か屋敷に来たら飲む…って考えればいいのかな。」
「あぁその通りだハリー。ヘドウィグ、以前ハリーに言われたとおり、万が一の時は頼むぞ。ナギニ、ハリーが薬を飲んだのならハリーの杖と、あの袋を持って例の場所へ。」
 薬を受け取るハリーにヴォルデモートは口角を上げ、微笑んで見せると互いの愛するペットにそれぞれ指示を出す。
 それぞれの大切な主人のため、それぞれ返事を返すペット達はいつ敵の襲撃がきてもいいように、それぞれの持ち場へと消えていった。
「ずっと言ってなかったけど…お互い何かあったら後悔するかもしれないから…。ヴォル、大好き。愛してるとかじゃ足りないぐらい、僕にはヴォルが必要なんだ。」
「ハリー。俺様にとっても大切で、失いたくない唯一の存在だ。たとえこの身が器を使うこととなっても、そうでなくともハリーの心も何もかもが俺様のものだ。だれにも渡さない。」
 口づけ、遠くで聞こえ始めた戦闘の音に互いにうまくいくことを、と声を掛け合いヴォルデモートは部屋を出て行った。
 
 
 非常用の袋を手元に置いたハリーは杖を手に、薬を眺める。
この身も心も、あの時ヴォルにすべてささげた。
全てをくれて、受け入れてくれたヴォルデモートにそれを返したい。
とハリーは聞こえるざわめきに耳を傾ける。
 近場で聞こえた呪文の炸裂音にハリーははっと目を見開いた。







 ≫ヴォルを信じて薬を飲む。
 ≫喪失感にも似た不安に思わず出た。

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