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 屋敷の中を走る音が聞こえ、ハリーは杖と袋を戻ってきたナギニに託すと薬を一気にあおった。
芯が冷えていく感覚と、心地よい眠気にハリーは瓶を窓から投げ捨てると、寝台に崩れるようにして倒れる。
 もしも目覚めない眠りになろうとも、裏切り者たちのいる世界で生きるより何十倍もましだと、笑みを浮かべハリーは静かに寝息をこぼす。
 
 
 侵入者が入ると同時にナギニは素早く杖と袋を持って逃げると、そのまま消えていく。
部屋に入って来た男は黒いローブに身を包み、寝台に倒れている少年を見つけると目を見張って駆け寄った。
「ハリー!」
 揺さぶるもゆっくりとした静かな寝息をこぼすのみで反応はない。
「スネイプ先生、ハリーは!?」
 後から入ってきた少女はぐったりと抱えられている少年の姿に悲鳴を上げ、すがるようにその体を支えるスネイプを見上げる。
 ただの眠りではないと、そう判断したスネイプはわずかに開いた口元に鼻を近づけ、わずかな魔法薬のにおいをかぎ取った。
「魔法薬の影響だ。何を飲んだのかは分からないが…。ここから連れていくほかあるまい。ウィズリー、グレンジャーは何か手掛かりがないか、部屋を捜索するように。ハリーの杖が見当たらないことと、盗まれたままのあの本がないことも気になる。ハリーを連れていき次第すぐに戻る。」
 さっと見渡すも杖どころかあの白い梟の姿もない。
それに飲んだはずの空の瓶がない。
空いた窓に目を止めるが、下はまだ死喰い人と不死鳥の騎士団の戦闘が続いているため、探しに行くことができない。
 どうしてもついていくと言ってついてきた二人に部屋の捜索を任せると、ハリーと陣営のヒーラーがいる場所まで連れて行く。
 静かな寝息は間隔が長く、眠りが深いのか抱き上げても全く乱れていない。
助けてきたという報告が陣営内に広がり、ヒーラーに任せるスネイプは迷いを振り切るように踵を返し、屋敷内へと戻って行った。
 
 部屋にはハリーの荷物がいくつかと、目元を覆う死喰い人のマスクと、生活用品と…それだけが残されており、本どころか透明マントもグリンゴッツのカギでさえも見つからなかったという。
 窓から投げられたと考えられる瓶は割れてしまったのか、見つからず大きくため息をつくスネイプは二人とともにハリーの様子をみるヒーラーの診断を待つ。
 ハリーがいなくなった後、ダンブルドアらが探して見つけてきた、最も強力な魔法薬の本を開き、眠りにつながる薬をリストアップしていく。
 その際、人魚の涙を使った薬を見つけ、その効果にスネイプは歯を噛みしめる。
ヒーラーに伝えないわけもなく、その薬を飲んだ可能性が高いのと、かの有名な眠り姫や恋愛悲劇のヒロインが服用した薬の元になったとされる眠り薬を伝える。
 
 
 人魚の涙に関してはヒーラーはやはりと苦々しい表情で頷いた。
「実はすでに子供を産んだ跡が…彼は男であるためそんな馬鹿なとは思いましたがこれで合点が行きました。それと…この薬ならば解除用の薬でなければ目を覚ますことはできないでしょう。この最後に入れた花。これと一致しなければ最悪命を落とすことになるかもしれません。」
「だいぶ前の記録がありました。この魔法薬の症状として生命活動そのものが非常におち、最大10年痩せることもなく、徐々に衰弱しそのまま永眠してしまうと。魔法薬は最後にいた花が鍵となり、錠となるようです。一致しない場合、眠りの作用だけがそのままとなり、生命活動だけが再開し、すぐに衰弱して一か月ももたなくなると…。」
 年配のヒーラーがハリーの検査結果を伝えると、そのわきで記録を漁っていた別のヒーラーが顔を上げ、残っていた記録を伝える。


「くそっ!姿くらましを防止する結界を張る前に乗り込んでいれば、こんな薬飲まされずに済んだだろうに!!」
 いらだちを隠せないシリウスは不死鳥の騎士団が集まる部屋で壁にこぶしを突き立てる。
子供に関しては現在行方のわからないベラトリックスが関与しているであろうことは容易に想像がつく。
 それともう一つ問題なのが…。
「ヘドウィグが連れて行った蛇の…ヴォルデモートの行方がいまだわからなことが不安じゃ。」
 崖際まで追いつめ、対峙したダンブルドアたちの前で起きたこと。
 連続した呪文の使用で両者ともに息を切らすと、誰かの放った魔法で粉塵が上がり、一瞬悪くなる視界の中一匹の白梟が割り込んできた。
すぐさまハリーの梟だと気が付いた不死鳥の騎士団の数名は思わず動きを止めてしまった。
しかし粉塵が消えるとそこには蛇を足でつかんで飛び去って行く梟の姿があるのみ。
慌てて呪文を唱えるものの、下降しながら崖をそって飛んでいるヘドウィグはそのまま崖の亀裂に潜り込み、蛇を連れて消えてしまった。
 おまけに常に一緒にいると考えられていたナギニの姿がない。
ハリーを残して消えたそれぞれにゆかりのあるもの達。
 万が一を考えてハリーの周囲を見張ることにし、ダンブルドアらはヴォルデモートとベラトリックスを探す。
 
 残ったスネイプは眠ったハリーの髪を撫でた。
眠った顔は少し記憶にある顔よりも大人びて見えるような気がし、思わず目を伏せた。
あの時、怒りに我を忘れて襲いかかっていなければ…。ハリーの中でとても繊細な何かが壊れることもなかっただろうにと。
「セブルス。君は…ハリーが無理やり薬を飲まされたと…そう信じていないね。僕は…手紙でしかやり取りをしていなかったから…確信を持って言うことはできない。けども、ハリーは多分自ら飲んだ…そうおもうんだ。」
 ハリーを見つめたまま自責の念に駆られているスネイプにルーピンは声をかける。
壊してしまった以上、ハリーの心はヴォルデモートに傾いていた。
 引き離されるくらいならばと、渡された薬を飲み、死か迎えかを待つ選択をした。それはスネイプにも容易に想像がつく。
 ただ、ハリーは静かに眠り続けている。







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