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シリウスとルーピンにそれぞれ梟を飛ばし、もう一枚手紙を手に取る。
2人からの返答次第では…これを送るしかない。
答えをくれるとは思えないが、くれるとしたら間違いなく虚偽のない真実だろうと、直感が告げる相手。
スネイプ本人に聞くのは最後にしようと、遠ざかる梟を見つめた。
シリウスからの返事は短く、リリーはジェームズだけを想っていたということと、誰にそんなことを聞いたかわからないけど、疑わなくていいとそう書いてあった。
ルーピンは夜、談話室で待っていてという手紙だけで、1人待っていると暖炉に顔だけが浮かぶ。
「ハリー久しぶり。手紙の事だけどね…。うん…。答えはyes。ジェームズとシリウスはことあるごとにセブルスにつっかかって、いじめていた。僕は詳しい理由は知らないけど…リリーから相談を受けたことがあるよ。でも決してリリーはセブルスの事を意識してないと思うよ。だから安心して。」
ハリーの表情からルーピンはまじめに答える。
リリーの話をするとき、少し視線を外したことにハリーは気が付いてしまい、内心でうなだれる。
無理にでも笑ってわかったとお礼を言うと少し心配げな顔をしたルーピンは消え、ハリーは組んだ手に額を当てて深く息を吐いた。
まだ…嘘をついている。
そう感じたハリーはあの手紙を持つと、フクロウに飛ばした。
返事はその翌日の夕方に届いた。
ハリー自身への皮肉と嫌味に続いて、知りたかった情報を得た。
透明マントを羽織ると、芝生にすわりこみ沈んでいく日を見つめていたハリーはすっかり暗くなってもその場を離れず、すぐ後ろにだれか立つのに気が付いたが知らないふりをする。
「ポッター。とっくに夕食の時間をまわっていると思うのだが。」
少しいらだった様子のスネイプに、自分を探してくれたのかな、とハリーは小さく笑う。
「ポッター、聞こえているのだろう返事を」
「先生って…僕の母さんのこと好きだったんですね。母さんも意識してたって。でもそれを嫉んだ父さんが引き離したって。」
透明マントを着ているおかげで正確な位置がわからないスネイプは、さらに声をかけようとしたところでハリーが静かにさえぎった。
「…いったい何の話だ。リリー・エバンズは知らないが、ジェームズ・ポッターについてはシリウス・ブラックにでも確かめればいいだろう。」
一瞬何を言われたのか、そう思考する間のような沈黙がありスネイプはいつもの口調で続ける。
「僕の想いに答えたのって二人への復讐だったんですね。父さんに瓜二つで、それでいて母さんの目を受け継いだ僕に…。」
立ち上がり、振り向くハリーに気が付いたのか見えないはずのハリーと視線を交える。
ハリーの言葉に眉を寄せるスネイプはとにかくマントを取ろうと手を伸ばす。
「嘘つき…。」
「!」
ぽつりとこぼれたハリーの小さな声に、スネイプは思わずそのままの姿勢で凍り付く。
たっと走っていく気配に立ち去ったことを知るも、伸ばしかけた手をただみつめた。
「嘘つき…か。」
スネイプが思わずこぼしたつぶやきは風に去られて、誰にも届くことはなかった。
木の扉が開き、透明マントを脱ぐと落ち込んだ様子の少年が現れ、ヴォルデモートはナギニに乗せていた手を伸ばし、そっと少年…ハリーの腕をとる。
「どうした。ハリー・ポッター。貴様が誇る父と母について…なにかわかったのか?」
「あんたの…あんたの言う通り…。みんな…みんな嘘ついてた。」
ヴォルデモートに誘われるままに寝台に腰かけ、じっと手を見つめるハリーにヴォルデモートはにやりと笑う。
「シリウスもルーピン先生も…みんな嘘をついている…。」
「ほう。では誰に聞いたのだ?」
「ルシウス・マルフォイ…在学中の父さん達を知る友好的ではない人…。スネイプ先生にした悪戯も!母さん達の関係も!全部…全部書いてあった。先生が…僕の声に答えたのも…全部が全部うそだった…。」
促すヴォルデモートにハリーは抑えきれずに吐き出すかのように言い捨てた。
しまいには消えるような声になり、ハリーの頬を涙が伝う。
「なるほど…。友人や当事者はそれを隠したがる。ならばそうでないものであれば…そう考えたのだな。」
もっとも、ヴォルデモートがルシウスにあらかじめそのような手紙が来たら包み隠さず全て…後から知った情報も付け足し答えるようにと伝えていたからこその返事だったのだが。
ハリーに送る前に目を通したヴォルデモートさえも思わず笑いがこみあげていきた英雄の実態。
大人になってからなどはどうでもいい。
すべては土台だ。
そう考えるヴォルデモートは今もホグワーツ内で潜伏しているスネイプの深い憎しみと、不可解な行動に合点がいったのだった。
「そうだ。お前が信じているものでもう一人…嘘をついているものがいるのは知っていたか?」
「もう一人…?」
細いハリーの肩を抱き、耳元で囁くように告げるヴォルデモートの言葉にハリーの瞳が揺れる。
「そうだ。もっとも…今はあまり信用していないようだが。ダンブルドアだ。奴は俺様とお前に与えられた予言に従い…貴様を…俺様を殺させると同時に俺様に殺されるよう…そうなるように仕掛けている…。そういう情報だ。予言がなくては真偽は分からないが、お前の両親を葬った際に俺様の魂のかけらが貴様に入り込んだ。そのために何があっても…たとえ生き残ったとしても貴様は死ぬ運命だとな。」
ヴォルデモートの言葉にハリーは弾かれた様に立ち上がり、ヴォルデモートの目を見つめた。
どこか楽しんでいるような表情だが、目だけは真剣で思わず膝から震えが上る。
「そん…な…。」
「予言によれば…7月の末に生まれる子供が俺様を脅かす存在であり、どちらか一方が生きている限り他方も生きられぬと。そう言った内容だったと聞く。残念ながら全文を聞くには予言の対象者が神秘部に行き予言の球を閲覧しなければならない。お前の中にある俺様の魂のかけらはお前が死ななければ消えることはない…。そういうことという話だ」
立ち上がったハリーを追いかけるように立ち上がると、震えるハリーを抱きこみながら耳元で囁く。
「俺様は嘘をついていないぞ。貴様の両親についても…予言についても、俺様が嘘をついてどうする。俺様が予言を脅威に思っているならば貴様に教えず、最初にこの部屋であったときに殺している。そうだ。俺様は嘘つきが嫌いだ。だから…俺様が殺しているのは嘘をついた者たちだ。当然の報いだと思わないか?他人を傷つけ、踏みにじってもなおのうのうと生きている者どもが。」
抱きかかえ、教え込ませるかのように囁くヴォルデモートはそっと離れると、ハリーに背を向けて寝台にいるナギニの頭をなでる。
「嘘つきには当然の報い…。」
「そうであろう?そして…純血であることに誇りを持ち、混血を見下し排除しようとするものたち。中には俺様に従うことで優越感にひたるものもいるがまぁ今はいい。先に混血を認めない者ども…思い上がった者たちを粛清していかなければならない。」
呟き返すハリーにさらに言えばハリーは再びそれを呟き返す。
「お前の想い人だったセブルスは嘘さえつかなければいいパートナーだったろうが…奴はその眼に映るお前の母親の面影を見ていただけとは…。俺様ならそのようなつまらないうそをついて傷つけることはしないものを。」
「嘘をつかない…僕を傷つけない?」
えぐれた傷口にそっとやさしい言葉をかけると徐々にふさがっていく。
なんて容易いものかとヴォルデモートは振り向き、立ち尽くす少年の頬に自分の頬を重ねた。
そのまま黙って抱きしめるとハリーは戸惑うようなそぶりの後、手を伸ばしヴォルデモートにしがみついた。
「俺様もあともう少し若ければハリー…お前を大人として扱うのだがな…。命の霊薬さえ手に入ればよかったが…まぁ仕方あるまい。最も強力な魔法薬には似た魔法薬を作る方法があったはずだが…あれはすでに絶版となり、容易には見つからないだろうな。」
耳元に口づけ、ため息交じりに囁くとハリーは顔を赤らめ、ならと口を開いた。
「その本なら…図書室にあるから…。もし若がえったら…その…僕を…。」
「あぁハリー…。もっとも…どうしても信じられないというのならば…」
顔を向き合わせると真っ赤になったハリーの頭を撫で、驚く唇をふさぐ。
震える舌を吸い、ハリーの体から力が抜けるまで深く口づける。
息が上がり、ヴォルデモートに支えられるハリーはうるんだ眼を向けた。
そのままハリーを抱き上げ、寝台へとおろす。
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