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乱れた服を正したヴォルデモートは気を失ったハリーの体を杖で清めると、その白い肌に口づけ赤い印を残す。
どこかに出かけていたナギニが戻ると、この会合を気づかれないようにしなければすべて台無しだ、とヴォルデモートは杖を再びふるった。
「インペリオ 服を着て誰にも気づかれないよう、寮に戻るのだ、ハリー。眠りについて起きたのちには呪文を解くのだ。できるな?ハリー。」
さぁ、というと目を覚ましたハリーはふらりと立ち上がる。
ぼんやりとした顔のハリーはのろのろと服を着ると透明マントを手に取る。
ヴォルデモートが抱きしめると呪文がかかっていながらにもわかるのか、はにかんだような嬉しそうな顔をし、ヴォルデモートの服従の呪文に従って寮へと戻っていった。
マントを脱いで寝台に倒れこむハリーはそのままぐっすりと眠りに落ちる。
ヴォルデモートのもくろみ通り、ハリーは目を覚ます瞬間にまだ眠っていたいとささやく声に抗い、がばりと起き上がったことで目を覚ました。
自分が寮にいることと、高くなった陽ざしにぼんやりと寝坊したのかと考えるが、それよりも体に残る小さな痛みに夢じゃなかったんだと自分の体を軽く抱きしめた。
おそらくはそのまま眠ってしまったのを寮に戻すため服従呪文で操った…禁じられた呪文でさえ平然と使う彼ならではの発想に思わず笑みがこぼれる。
まだ信じられないとつぶやくハリーは着替えようとしたところで思わず手を止めた。
見下ろして見える場所に散らされた赤い印。
つくんと胸を刺すような甘い痛みが走り、顔を真っ赤に染め上げる。
両親の敵…そう考えるが、そもそも自分はヴォルデモートに魂を売ったクィレルを殺し…反射とはいえヴォルデモート本人さえも殺した。
その当の本人に抱かれ…注ぎ込まれた。
まったく変な関係だと自嘲気味に笑うと急いで支度を澄ませ寮を飛び出した。
愛情なんてあるかどうかわからない。
けれども、だからこそ裏切ったり嘘をつくこともない…。
もともとは宿敵なのだから嘘をつく必要もない。
最も信頼できないようで最も信頼できる…。
これこそまさに運命の相手じゃないのか、そう笑うハリーはぎりぎり昼食に間に合うことができた。
「ハリー、今起きたの!?どこか具合でも悪いの?」
隣に座るハリーに驚くハーマイオニーに、ロンはかぼちゃジュースで口の中のものを流し込むとごくりと飲み込む。
「朝起こしても全然起きないし…なんか熱っぽかったからそのままにしたんだけど…。最近どっか上の空だったし。次はあのねちっこいスネイプの授業だからそのまま休めばよかったのに。」
朝帰った時の記憶がないハリーだが、どうやらばれることなく戻ってこられたらしい。
ちょっとだるくってというハリーは視線を感じ、ちらりと教員席に目をうつした。
こちらをじっとみる男と目が合うものの、すぐそらされる。
ずくりと胸が痛むが、それと同時に服の下で隠した印がたった今つけられたばかりのように小さな痛みを感じる。
すると胸を突き刺していた痛みは消え、視線が絡んだ男の事は頭から消え去った。
「風邪ひいて休んだなんて…次の授業でスネイプになんて嫌味いわれるかわからなかったから。ごめんハーマイオニー!後で午前中のノート見せてもらってもいい?」
「まぁ確かに…。いいわよハリー。でも無理しないでね。ロン、あなたは午前中健康的に授業を受けていたでしょう。あなたにはノートは見せられないわ。ハリーは体調不良だったの。」
休んでしまった分のノートを見せてというハリーに、ハーマイオニーはなぜか喜ぶロンの肩をたたき、ハリーにだけ見せてあげると微笑んだ。
少しひんやりとした地下を歩くハリーはその冷たい空気がヴォルデモートに触れられているみたいだと、そう感じ次はいつ会ってくれるだろうかと想いをはせる。
誰かに笑われたような気がし、思わず立ち止まったハリーにハーマイオニーは振り向くと心配そうに首を傾げた。
なんでもないよ、というハリーは傷を通してつながっている彼に会いたいという気持ちが伝わったのかと理解し、笑わないでよ、と心の中でつぶやく。
呪いのはずのこの傷が二人を繋ぐ秘密の通信手段になるなんて、ときっと向こうも思っているに違いない。
そう考えるハリーは教室内に入ってきた教授をごく普通の…ほかの教員を見るような面持ちで静かに目を向けた。
未練がないわけではないが、彼は裏切ったのだ。
そしてハリーは今、教師と生徒という関係よりももっと恐ろしい関係の想い人がいる。
比べ物にならないスリルを味あわせてくれる彼を思えば、今誰が好きかとスネイプに尋ねられてもあなたじゃないと面と向かっていえる。
スネイプはちらりとハリーを見るが、今はその視線の意味も通じない。
一瞬眉をひそめるスネイプだったが、そもそも自分が手放した手前、何があったなんて聞くことはできない。
何事もなく授業が進むのにスネイプはほかの生徒を見ながらもハリーの行動をうかがい見る。 本当に少し前までは何か言いたげな目で自分を見つめ…
想いを受け入れた後はどことなくそわそわして、どこか嬉しそうな…
そんな目をしていた愛しい存在。
だが、今はまるでハリーが自分を意識する前…いや、一生徒として講義を受けているだけの、ほかの生徒と何ら変わらない眼をしていた。
嘘つき、と言われたのは昨日のこと。
たった一晩で何があったのか…そう考えるスネイプだが、面と向かって聞くことが躊躇われた。
きっと思春期ならではの気持ちの切り替えの早さなのだろう、と結論付けずきずきと痛む胸をため息とともに鎮める。
そして1週間がたち、2週間がたち…。週末の夜、寝室を出ようとしたハリーは談話室でハーマイオニーとロンに鉢合わせた。
「ハリー、先週も夜抜け出したでしょ。どこに行ってるの?」
「今は“名前を言ってはいけない例の人”が復活して、連日いろんな事件が起きているんだ。以前と違って夜に出歩くのは危険だよ。」
透明マントを手に持ったハリーに二人は出歩いてはだめ、という。
スネイプと付き合っていたころは消灯時間前だったりしたため、気にしていなかった。
しかし彼に会うにはどうしても消灯時間後が都合がよく、そのまま翌日の昼前に戻っていたため、親友二人に心配をかけてしまったのだ。
「うん…。心配かけてごめんね。実は僕、好きな人ができたんだ。普通の日は会えないから…どうしても週末に会いに行くしかなくて。でも心配かけたらだめだよね。お願い。会って話してくるから今日だけは…ね。」
ハリーの言葉に二人を驚くと、顔を見合わせた。
「本当は二人にも紹介したいけど、僕以外と会うのを嫌う人だから。」
ついていくのではと考えるハリーがそう続けると、明らかにハーマイオニーは難しい顔をした。
「わかったわハリー。でも…もうしないって約束して。お願いハリー。」
「うん。ありがとう。それじゃあ…行ってくるね。」
お願いよ、と念を押すハーマイオニーにハリーは頷くとマントをかぶり談話室を出ていった。
足音を忍ばせ、玄関ホールを抜けるとそのまま小走りに暴れ柳のもとへと向かう。
手慣れた様子でこぶを突き、中を抜けると叫び屋敷へと入る。
「あれ?今日はこれない日かな?」
中にはいると、しん、と音がせずナギニの這う音もない。
とりあえず寝台に腰かけ、そのまま仰向けに倒れると、無意識のうちに浅い眠りへと落ちていた。
どれくらい寝たのか…いや、それほど経っていないかもしれないが、ふいに目を覚ましたハリーは自分にのしかかる重みに目を開けた。
「俺様が来る前に寝ているとは…。いい度胸だ。」
「ヴォルデモート…。だって遅かったからつい。」
仄かな明かりしかない部屋でうっすらと浮かび上がるヴォルデモートは口端を上げるとハリーを抑え込んだまま囁く。
思わず口を尖らせたハリーに口づけると、ヴォルデモートは与える快楽に流されていく宿敵の姿に加虐心を煽られる。
翌朝、先に目を覚ましたハリーは自分を抱きかかえる男を見上げ、そっと微笑む。
ハリーが体を摺り寄せると起きたのか、ハリーの体に手を回し、軽く抱きしめた。
「おはよう…。」
見下ろすヴォルデモートに呟くように囁けば返事の代わりに唇が重ねられ、ハリーはそれを静かに受け入れる。
額の傷は今は全く痛まない。
それもそのはず。
母の愛による防御のための魔法だが、ハリーの愛しい相手となった今守る必要もない。
愛しい人に触れるたび痛んでいては意味がない。
魔法に意思があるわけではないだろうが、初めて体をつなげたその日から激しい頭痛に襲われることはなかった。
「そうだ。ハーマイオニーたちに怪しまれちゃって…こうして朝帰るのもダメだって。」
「そうだな…そろそろ幾人か怪しむ頃合いだと考えていた。だが安心しろハリー。来週までに対策を教える。心配するな。俺様を誰だと思っている。」
手を握り、甘えるようにすり寄るハリーにヴォルデモートは想定内だ、とハリーの頭を撫でつけた。
不安げなハリーの額に口づけ、不敵に笑う。
それにつられたハリーは悪戯っぽく微笑み返し、名前を言ってはいけないあの人、と答える。
「元ホグワーツの首席で…スリザリンの後継者…。改めて考えるとヴォルの肩書いっぱいあるね。」
まだほかにも呼び名いっぱいある、と指折り数えるハリーにヴォルデモートは満足げにあぁ、と答えた。
「そのようだな。生き残った男の子、英雄、ジェームズ・ポッターの息子…ハリー自ら興した肩書は何もないな。」
「ときどきヴォルと僕を比べる人がいるけど、ヴォルは実力。僕はそうなっただけで何も特別じゃない。境遇が少し似ているだけ。なのに予言で結ばれているなんて…不思議だね。」
薄い、不健康にも見える肌をなで、すがりつくハリーは楽しげに笑う。
「それじゃあそろそろ戻るね。来週楽しみにしてる。」
「長く居すぎたようだ。ヘドウィグを借りていくぞ。返事は彼女から受け取るといい。」
服を着るハリーは同じように起き上がったヴォルデモートを振り向くと口づけをねだり、名残惜し気に離れた。
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