------------
荒い息と、時折聞こえるすすり泣きのような声。荒れ狂う波の音でかき消されながら聞こえるそれはやがてどこかについたのか聞こえなくなる。小さな軽い音とともにどこかに走っていく人は普通の人間では到底通れないところを通り、やがて立ち並ぶ鉄格子のもとへとやってきた。
巡回する影が絶え、静かになるとけだるげな様子で、正気を失ってすらいない女性がネズミに気が付いた。ネズミもまたその女に気が付いたのか、走りよるとガタガタ震える男の姿になる。
「わ、わが君からで、伝言を……」
震える男の手には不釣り合いな指輪が黒くなった指にはめられており、そこから一人の男の影があふれ出た。その姿に歓喜に目を見開く女性はわが君、と傅きその言葉を待った。
「ベラトリックス……といったな。今こそ分かち保存していた魂から再び世に出るとき。だが俺様のこの指輪では足りぬ。俺様からお前に何かを渡しているはずだ。この指輪では忠実なしもべであったはずの死喰い人の記憶はほとんどないのだ。マルフォイ家はしくじったと聞いている。だがお前は間違えはないだろう」
ベラトリックスの仕えていた時よりも若い様子の男はそういうと、ベラトリックスの返事を待った。あぁやはりそうだったのですね、というベラトリックスは落胆ではなく、ほの暗い歓喜に胸を震わせ、鍵のありかを教えましょうという。
「グリンゴッツの特別金庫に貴方様から預かった、ハッフルパフのカップを保管しております。鍵はわたくしの生家、ストレンジ家の墓所にございます」
あぁ我らが主、というベラトリックスの様子に嘘はないと感じ、霞のような男は口角を上げ、時期にここから出してやろう、というとワームテール、と床に倒れている男を呼ぶ。手を抑え、呻く男は慌てて起き上がると、承りました、とつっかえながら頭を下げた。
「せいぜい俺様の手となり足となるのだ。その暁にはその腕もまた呪いを解き、再生してやる」
さぁ今すぐに行くのだ、という男に脂汗をかくワームテールはネズミの姿になるとよろよろしながら再び来た道を戻って荷物にまぎれ、再び本土へと戻っていった。
はっと目を覚ました一人の少年は、夏だというのにぴったりと抱きしめる最愛の人の腕の中で身動ぐ。ふいに背中をなでられ、顔を上げれば赤い瞳がひたと見つめていた。
「今の夢……」
いったい何だったのだろうと考え、同じ夢を見るはずがないと少年……ハリーは首を振った。
「まさかハリーもワームテールと女の夢を?」
赤い目の青年、ヴォルはまさか、と問いかけて顔をしかめた。頷くハリーを抱きしめ、夢を思い出す。
「孤島にいたね」
「あそこがアズカバンだ」
「指輪をはめた手が黒くなってた」
「あれは……ゴーント家に伝わる指輪で……確かあれも分霊箱だったはず」
「鍵の場所」
「ベラトリックスに預けていた分霊箱はどうやら銀行に保管されているらしい」
ハリーのつぶやきを確認するように返すヴォルは、何が起きたのかと深く考える。ふと、不安げなハリーを視界に入れ、さきにこっちだ、というと屈んでハリーに口づけた。
んっ、と素直に口づけを受けるハリーはモゾりと動いて顔を赤らめる。
昨夜は必死に自分を抑えてハリーを抱いた。それはもう丁寧にハリーをふやかし、とろとろというよりも…カスタードよりも柔らかくした。
「傷が疼いて……」
額をヴォルにこすりつけるハリーにヴォルはそっと口づける。
ハリーの名付け親についてうっかりという風にこぼした二人はその後ほとんどないもののようにして扱われた。おかげで草むしりなどをしなくなってよかった二人はダドリーのダイエット飯を食べた後、二人で出かけてヴォルが換金してきたお金でサンドウィッチを買い、公園で仲良く食べるなどしていた。
課題はとっくに終わらせて、ロンからの手紙を待つ。
「そうだ、ハリー。ちょっと付き合ってもらっていいか?確認したいことがある」
あの夢は何だったんだろう、と考えるハリーとヴォルだが、何かを考えるヴォルは立ち上がってハリーに手を差し伸べた。それを躊躇なく、まったく怪しむこともなく手を重ねて、促されるままに立ち上がるハリーは小首をかしげた。
抱きしめるヴォルに反射的に抱き返すハリーはぎゅっと体全体にかかる感覚に驚いて目を閉じ、足が今までいた場所ではない感触を覚えて目を開けた。
「俺の祖父がいた家だ。空き家にはなっているが……ここに一つ隠したものがあるはずだが……あぁやはりなくなっている」
もはや崩れて原形をとどめていない家が目の前にあることに驚くハリーに、待ってて、と玄関先に置いて中に入るヴォルはガラガラと瓦礫を掻き分ける。さほど広くないようで、玄関先でも中に入ったヴォルの声が聞こえ、ハリーは不安げに中をうかがった。
「中に確か指輪だったかを隠していたはずが、それがなくなっている。おそらくは夢でワームテールがはめていた奴だろう」
ほこりを払いながら戻ってきたヴォルは気配を感じなかった、と廃屋を振り返る。
「ヴォルの……。もうだれも住んでないんだね」
「あぁ。俺様が殺した。あそこに見える大きな屋敷にリドル家が住んでいたが……それらも全員殺した」
並んで手を握るハリーにヴォルは無意識に握り返しながらハリーを見ずに答える。後悔などしていないようだが、ハリーに対し罰が悪いように顔を背けていた。回り込んだハリーは自分より背の高いヴォルの頬を両手で包むと、有無を言わさず引き寄せ唇を重ねた。
「ヴォルのこと、もっと教えて。今までした悪いことも、家族のことも。学校のこととか、就職してからのこととか。ヴォルデモートからヴォルになって僕のことを大好きだっていうのも、ロンやハーマイオニー達もみんな大切にしているヴォルを僕は信じている。僕は悪そうな顔をするヴォルも、怖いヴォルも、みんなみんなまとめて好きだよ」
過去を変えることはできない、それはわかっているというハリーにヴォルは黙って強く抱きしめた。これまで行った悪行は変わらない。
「ハリーにはかなわないな」
俺様が精神的にも全てにおいて完敗だ、というヴォルにハリーは生き残った男の子だからね、と笑いかける。クククと笑うヴォルはそろそろ戻ろうというと、ハリーを抱いたまま姿くらましを行う。
元の公園の木陰に現れるとヴォルはハリーに口付け、瞳の奥に情欲を滴らせたのも隠さずハリーを見つめた。ヴォルの火が燃え移るハリーは顔を赤らめ、今夜ね、とヴォルの胸に抱きつくことで顔を隠す。
きっと今夜は眠れないだろう。
休み前にヴォルはスネイプの眼を盗んで魔法薬をいくつか作っていたという。
「感覚を鋭くする魔法薬は破棄したから安心してほしい」
いつものように寝台で互いに服を脱いだところで、ハリーの眼がダドリーのおもちゃの箱の上を見た。そこに並んだ瓶にあぁというヴォルは夏休み初日ごろにハリーに使った薬を思い出し、あれは失敗だったと顔をしかめる。
ハリーに使ったのは感覚を鋭くする魔法薬で、ヴォル自身使ったことがなく、弱めの魔法薬を作り、動物実験も使用して安全であると確認したはずだった。
だが、喋れない動物と違いハリーはそれを飲んだ後、五感が鋭くどくなりすぎてしまい、ヴォルが触れることさえ痛みと快感と全部が全部一緒くたになってしまいやっとの思いで念のために用意していた反作用の魔法薬を飲んだ。
さすがのヴォルもそれには反省しきりで、立ち直るのに3日かかった。それからはより慎重に……効果がはっきりわかっている媚薬以外使っていない。
「ハリー、試したい魔法薬があるのだが……。これは俺様も飲むものだ」
使ってもいいか、と尋ねるヴォルにハリーは本当に大丈夫かとじっと伺い……ヴォルも飲むならと頷いた。それを見たヴォルは嬉しそうににやりと笑うとこれだと言って青い瓶を取り出した。
「俺と同じ作用になる」
一応これは飲んで試した、というヴォルは半分ほど口に含み、残りをハリーに差し出す。ヴォルが飲んだものなら、とハリーもそれを口に含むと体の変化を待った。
「あれ?特に何もないけれど……」
「まぁ後で分かる。それじゃあ、初めようかハリー」
何もないけど、というハリーに効果はあとで、と上機嫌でヴォルはハリーに覆いかぶさった。
|