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「ヴォル……」
「……反省している」
 恨む様なかすれた声のハリーに疲れ切った声でヴォルが答える。魔法薬ですぐに絶頂できなくなったとはいえ、体力が増えたわけではなく……むしろ体にたまった熱を発したくていつも以上に動いた。そのために倍の体力を消費し、ハリーに魔法薬を渡すこともできずにヴォルも力なく横たわる。
 ほぼ完ぺきなヴォルの意外な弱点にハリーはくすくすと笑い、寝ようと抱きしめる。ハリーを想うあまり暴走気味のヴォルだが、自分も飲めばいいわけではないと反省し、ここ最近の失敗に首をかしげた。

「ヴォル」
 頬を包み、額を突き合わせるハリーが名を呼ぶと、ヴォルは疲れ切った様子ではあるもののきらりと輝く緑の瞳を赤い瞳で見つめる。

「いつでも一緒だからね」
 変な魔法薬使わなくても、何をしても、大好きだというハリーにヴォルは口角を上げてもちろんだと抱きしめる。魔法薬を引き寄せ、半分飲んだヴォルは残りをハリーへと口移しする。
 回復薬で少し体調がよくなるともう少し寝ようか、と抱きしめあいながら目を閉じ、ダーズリー家が起きだすまで眠りについた。


 あと2週間で学校が始まる、という頃、ロンから手紙が届いた。クィディッチのワールドカップを見に行こうという誘いにハリーとヴォルは是非とすぐに返事を出した。バーノンらの承諾がなくともいざとなればヴォルが連れていくという事で、ペチュニアらには事後報告だ。
 念のために行ってもよいかと相談し……あの忌々しい蛇がいなくなるのならばと承諾され、ハリーとヴォルは荷物をまとめてリビングで待つ。

「ねぇ、どうやって来るかな」
「さぁ……あ、いや、やな予感がするな。あれって一応煙突のある暖炉だった……はず」
「痛っ!」
 どうやってくるのか、ときちんとした服装で威圧しようとしていた一家が、塞がれた暖炉から聞こえた悲鳴にぎょっとしたのを見てあぁやっぱりとヴォルはため息をつく。

「そこはふさがっているんです」
「なんだって?暖炉を塞ぐ?それじゃあ一体何で暖をとっているんだ?」
 ハリーの言葉にウィーズリー家の大黒柱であるアーサーの声が驚いた様子で声を出す。

「あー今外します」
 だめだなこれ、というヴォルは暖炉の前にかがむとバーノンたちに見えないようにしながら杖を出し電気ストーブを外す。よいしょ、と簡単に外したヴォルにバーノンは目を剥いて驚き、埃まみれで転がり出てきた人間から妻と息子を守るように立ちふさがった。

「最後に僕を連れて姿くらましお願いします」
 直してから行きますので、という余所行きの顔をしたヴォルにアーサーはもちろんだと頷き、バーノンと簡単な挨拶を交わす。

「荷物はこれで全部か?」
「ナギニはヘドウィグと一緒に今空の旅をしているからこれだけだよ」
 何で来るかわからなかったが、狭い車などの中に入れるのはと思ったところで、ナギニがそれならヘドウィグにお願いしたいと言ったため、今頃肉食二匹はネズミなどを狩りながらウィーズリー家に向かっているころだ。
 おっと、とおやつをばらまいたフレッドはさっとかき集めるとハリーの荷物をもって煙突飛行をし、ジョージがヴォルの荷物を持っていく。それにロンとハリーも続こうとして、ダドリーの舌が膨らんだことに驚いて振り向いた。

「あぁ、あれ完成したのか」
 ほーん、というヴォルに半狂乱になるペチュニアとバーノン。先行ってて大丈夫だ、とハリーを見送るヴォルは事態を何とか収拾するアーサーを見守る。一応彼も未成年だから使ってはならない、と思われているために静観するヴォルはやれやれというと魔法薬などの効果を打ち消す魔法薬を取り出し、ダドリーの舌に垂らす。
 あっという間に舌が縮み、元に戻ると激高したバーノンがアーサーとヴォルに詰め寄った。だからあれは息子のイタズラグッズでして、と弁明するアーサーをしり目に、この混乱ならば大丈夫だろうと背を向けたヴォルは杖を振って暖炉を元通りにし、埃まみれのリビングをきれいにする。

「どうにもならないですし、行きましょう」
 僕らがいることが恐怖になる様なので、というヴォルにアーサーは迷ったようにしつつ、本当に申し訳ないと言い残してヴォルをつかんで姿くらましをした。


 かんかんになって怒るアーサーにフレッドとジョージはどれくらい伸びた?とヴォルにらんらんとした目で問いかける。
「マグルを実験に使わない方がいい。後々面倒だ。それと、効力時間を短くしないとあれは窒息する可能性があるぞ」
 まったく、というヴォルに確かにそりゃまずい、とフレッドがおどけ、ジョージも薬の配合を考える。全く反省してないどころか、新しい商品の開発を考えているあたりどうしたものかとアーサーの頭を悩ませる。

「あれってなんだったの?」
「トンタンタフィー。舌が膨らむお菓子さ」
 首をかしげるハリーにジョージは笑って答え、フレッドもあんなにうまくいくとは思わなかった、と笑って……はっと顔をこわばらせた。さっさとハリーのそばに移動するヴォルは怒られる双子とその母モリーを我関せずといった様子で見る。

「ハリー、ヴォル、なにかあったのかしら?」
 ジニーとともに現れたハーマイオニーが訪ねるとハリーとヴォルは顔を見合わせて何でもないと肩をすくめて見せた。

「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズさ」
 そう答えたロンにジニーたちはあぁ、と納得した顔になり、荷物を運ぼうというのを手伝う。

「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズって何だ?」
 聞き覚えのない言葉にヴォルが首をかしげると、あの二人悪戯専門店やりたいそうよ、とジニーが答える。ロンの話ではジニーはハリーにあこがれていたそうだが、がっちり巻き付いた蛇にあきらめた……らしいが二人いる姿にどこか嬉しそうでハーマイオニーだけがあぁそうなったのねという。

「二人が作るものはちょっと危険で……」
 困ったことに、というロンにジニーは楽しそうだけどというとやっと説教の終わったモリーがハーマイオニーとジニーを呼ぶ。代わりにジョージとフレッドが上がってきて、二人と入れ替わる。

「……フレッド、ジョージ、ボーンジ・アンド・バークスの営業勤務履歴あり。魔法薬の製薬・開発、その他呪文の開発経験あり。俺様を雇う気はあるか」
 それもありだ、とつぶやくヴォルが突然顔を上げ、みじんも頼む様子もなくどうだと問いかける。へぇ?と驚く様子のウィーズリー兄弟はポカンとヴォルの真面目な顔を見た。

「就職していたのか!?」
 嘘だろ!?と声をそろえる3人にあぁそこか、とハリーは笑ってどうしたのヴォル、と問いかける。

「卒業後仕事する必要があるだろう。この二人のところならば偽る必要もないんだ」
 安月給でもそもそも俺様蓄えがまだまだあるからな、というヴォルにあぁなるほど、と納得する双子にロンはとんでもないものができそう、と力なくつぶやく。

「ハリーはどうするんだ?」
 卒業後、というジョージにぼんやりしか考えていなかったハリーはうーんと少し悩む。
「ハリーがどんな仕事に就こうと就かまいと俺は一向にかまわないぞ。あぁ、そうだ。卒業後一か月はまだ仕事しないぞ。新居でハリーを抱きつぶすと決めているのだからな」

「ちょっと!!恥ずかしいこと言わないでってば!!」
 一か月はダメ、というヴォルにハリーが顔を赤くして反論する。あぁいつもの二人だこれ、と一か月ほど前の学校生活が懐かしく感じ、ロンは深く考えるのをやめた。これは考えたところでどうにもならない問題だ。
 
「今開発中の男でも子を生せる魔法薬もできたら特別な薬として取り扱ってもいい」
 ごつん、とハリーの荷物に足を取られたロンは壁に頭をぶつけ、羽交い絞めされたハリーを信じられない眼で見る。だからまだ承諾してないと暴れるハリーだが、まだという事はちょっと許し始めているのか、とロンの眼が遠くを見る。
 もう君の未来は確定しているみたいだ、と手近な本を引き寄せ目を通す。今なら苦い食べ物でも何でも有り余る砂糖によって甘く感じるに違いない、と雇用契約を取り付けた3人を見る。

 ごめんママ、この二人に組ませちゃダメな奴がたった今組みました。
 
 




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