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ヴォルが目を覚ましたのはそれから二日後だった。週末一杯を医務室でと言われていたハリーはガバッと起き上がって……力なくシーツに沈み込むヴォルに思わず笑みがこぼれ、おはよう、と口づける。
「あの爺……全力でやるにしても俺様はまだ外見が13歳だぞ……」
いたたた、と起き上りながらハリーを抱きしめるヴォルはぶつぶつと文句を言い、サイドテーブルの木片にあぁ、と悲しげなハリーの気持ちを察する。
「吹っ飛んだか……。ハリー、大丈夫か?けがは……」
俺様は大丈夫だ、とそう言いながらハリーの状態を尋ねるヴォルにハリーは抱き返しながらもう大丈夫だけど、と言葉を詰まらせる。それで心が大丈夫じゃないと判断したヴォルは額を突き合せながらどした?と優しく口づけた。
「ディメンターがそばにいる時、両親の最後の声が聞こえて……。助けなきゃ、助けるんだって……そう思ってしまって」
聞きたくはないけど、両親の声はそれしかわからないハリーにとって心がかきむしられる思いだ。それを伝えると、ヴォルは最悪の記憶に紐づいているからだ、と声のトーンを落として答える。
かつて自分はハリーの両親を殺した。その時のやりとりは赤子にはわからなくとも、刻みこまれた恐怖の記憶として残り、言葉が分かる今になってより鮮明になる。そういうことなのだろうと考えるヴォルの沈んだ気配にハリーはぎゅっと抱きしめ返した。
「何とか対抗するすべはないのかな」
そうしたらヴォルだって大暴れしなくてもいいのに、と呟くハリーに基本的に死なないディメンターがぼろっぼろになって地面をはいつくばっていたな、とダンブルドアに抑えられる前のおぼろげな風景を思い出す。
「大方、闇の魔術とは正反対なものなのだろう。俺様が習得できていないようなものだからな。セブルスか……あぁルーピン当たりなら知っているんじゃないかと思う」
セブルスに乞うのは絶対いやだ、と言うヴォルにハリーはくすくす笑い、マダム・ポンフリーの許可の下月曜日にはいつもの日常へと戻る。
腕が治ったことで箒から落ちる真似をするマルフォイだったが、その後ろにいる沸点が通常の4割ほど低くなっている赤い眼の少年にびくりと肩を震わせ、すごすごと戻っていった。
変なマルフォイ、と言うハリーにヴォルはどうしたんだハリーと言ってあぁ、と声を上げた。びくりと驚くハリーを抱きしめ、あの騒動のせいで……と熱を持った目でハリーを見つめる。
それで再点火するハリーは自分で誘ったことを思い出し、顔を赤くして次の教室行かなきゃと歩き出す。その後ろ姿にディメンターに対していら立ちがつのる。
もう再び果実が落ちてくるのを待つほどヴォルの忍耐力は残っていない。
多分今日中だ、と予感するハリーは早くその時間が来ることを待ち望む。食べるなら早く食べて、と考えて赤い顔を更に赤くした。
闇の魔術に対する防衛術の授業の終わり、そうだと思い立つハリーはルーピン先生、と声をかけた。丁度君に声をかけようと思ったんだ、とルーピンはにこやかに応じ、僕が休んでいる間のクィディッチ、箒は残念だったねと言う。
ディメンターは飢えていたんだ、というルーピンにハリーは箒のことを思い出し……魔法を教えてもらえないでしょうかと言う。
「何の魔法だい?」
かなり幅広い知識を持った恋人ではなく、自分に教えを乞うハリーにルーピンは首を傾げ、僕も教えてもらいたいというヴォルを見る。伝え聞いた話ではあるが、それはもうレパートリーに飛んだ魔法でダンブルドアとやり合ったという少年が知らない魔法、どれほど高度なものかと少し身構えるルーピンにディメンター、とヴォルが口を開いた。
「ディメンターに有効な魔法があると聞いています。僕は相性の都合おぼえられないかもしれないですが、ハリーは使えた方がより安全だと思うので」
ディメンターをどうにかしたい、と言うヴォルにルーピンは難しい顔でふむ、と言う。高度な魔法なのかな、と思うハリーだがこのままではまたヴォルが無茶をしかねない、とじっと強い意志を持った目でルーピンを見つめた。
「君達は本当に強い絆で結ばれているんだね…‥。わかった。ただ、これはとても高度な魔法であることと、休暇前にやらなければならないことが山ほどあってね。だから年明けから、でいいかな」
「はい!やったねヴォル。僕、頑張るよ!」
やった、と喜ぶハリーにルーピンは微笑み、不穏な色の眼をした赤めの少年を見る。さぁ行こいうと促し退室していく後姿がなぜか階下ではなく上に向かう通路に向かって歩いているのを見て、なんだろうかと首を傾げた。
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