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そんな中、迎えたクィディッチの試合。マルフォイの怪我がまだ治らないという理由でハッフルパフとの対戦になり……。いい加減息子を甘やかしすぎでは、とマルフォイ家のフクロウを無理やり捕まえたヴォルはその足に手紙を括り付ける。
必死に外そうとするも、ヴォルの気迫に負けてどこかよろよろとした飛び方でワシミミズクが飛んでいく。
ヴォルに何を送ったの?と問いかけるハリーだが、くすぶり続ける火種をさらに大きくするように、深く口づけて離れる。
目を潤ませながら無言で抗議するハリーに微笑み……あとちょっと、とハリーが見ていないところで舌なめずりをした。こんなに我慢しているのだ。激しく何度も揺さぶりたい、と自分も押し倒したい欲望を必死に抑え込む。
ハッフルパフとの試合は酷い天候になることが空からわかり、ハリーはため息を零した。相手のシーカー、セドリックは体格もよくちっとやそっとの風では流されないだろう。
ヴォルがハリーの頭から足の先までを防水の魔法で覆ってくれるが、視界が悪いことには越したことがない。
マルフォイの腕はあの手紙から数日後ギブスが外されたが、練習不足という名目で結局試合相手は変わらない。
「終わったら……更衣室に来て」
クィディッチの競技場に入る前にヴォルに囁くハリーは軽いリップ音を残して更衣室へと走り去っていく。全力で穿つ、ともう頭の中はハリー一色になるヴォルは互いに飛びにくそうな試合を見つめた。ヴォルとハーマイオニー、ロンはヴォルが振るった杖の効果で雨は傘を差さずとも頭上ではじかれて流れていく。
一度の休憩をはさみ、再び空を飛ぶハリーを見ていたヴォルは不意に冷たい気配を感じ、ピッチに視線を落とした。群れ為す黒い影にざわりとヴォルのスイッチが入りかける。
何とか抑えようとしたところであ、と誰かの声につられて見上げれば、丁度ハリーの身体が傾くところで……すぐにダンブルドアが降った杖によって落ちる速度が和らげられる。
誰もがほっとすると同時に、ピッチに侵入してきたディメンターにヴォルの臨界点が突破して……鋭い破壊音が会場を揺らした。
激昂したヴォルの攻撃の前にスニッチをセドリックがとったことで試合が終了したのだが、ピッチにいる黒い影と、観客席から下りた影に気が付き……ハッフルパフの勝利をジョーダンが呻きながら宣言して皆に逃げろと声を上げた。一斉に蜘蛛の子を散らすように生徒が逃げていく中、ピッチに降りた少年が競技場に残される。
マクゴナガルらがヴォルを止めようとするが、いともたやすく跳ね除ける姿に、ダンブルドアが生徒の避難をと伝えて……後に誰かが面白半分で名付けた『怒りの日』事件が勃発することとなった。
ハリーを安全な場所に下ろしたダンブルドアは特定の魔法でなければ傷すらつかないはずのディメンターが恐れて散り散りに逃げる様子にため息を零す。
今のヴォルにも影響があるはずが、ディメンターに対し全く臆することなく逃げる奴らを追いかけている姿が昔とは違うが立場が逆転することなど通常ありえない。
封じたはずの禁忌とされる魔法も使っている姿からダンブルドアは頭が痛い、とどうにかこうにか鎮静化に成功した少年を見下ろした。
これは修復するのに時間と労力がかかるじゃろうな、と半壊した客席とボコボコにされたピッチを見る。何とかしなければ、ファッジが死ぬかもしれない、と確信するダンブルドアはヴォルの杖を拾うと再び3つの呪文を封じ込めた。
だから配備には反対したというのに、とダンブルドアは杖を振りヴォルとハリーを乗せた担架を浮かべ……楽しそうに笑った。
医務室で目を覚ましたハリーは両親の今際の声を聞いた気がして汗とともに涙が伝うのを拭う。飛び起きるとそこにいたのはずぶ濡れのままのチームメイトで……そこまで寝込んでいたわけじゃないことと、沈んだ表情から試合結果を察してしまう。
「ダンブルドア……以上にぶちぎれたヴォルのおかげで競技場は明日から4日程度は使えないってさ」
ディメンターがズタズタになって何やら銀色の魔法で消滅してたぜ、とフレッドが冗談っぽく言う言葉がハリーの耳を滑る。初めて負けた。そのことが悔しくて仕方がない。
シャワーを浴びているというオリバーの様子を見に行くチームメイトを見送り……そうだ箒、と顔を上げ……暴れ柳にぶつかったのと言われてどくりと嫌な予感に思考が止まる。ハーマイオニーのひっくり返した鞄から出た木片に言葉を失った。
がっくりと落ち込むハリーはヴォルは?といつもなら慰めてくれる恋人がいないことに力なく辺りを見回す。
「あー……あの後ヴォルがぶちぎれちゃって……ダンブルドアいわく、再起不能なディメンターを10匹処理せざるをえなかったんだって。あと、修理が終わるまで練習もだめって……」
「それで、今回はダンブルドア先生が何とか抑えたのよ。その、全力で」
だから、とカーテンを開けるハーマイオニーに隣を見ればぐったりと気絶している恋人の姿。あぁ、うん、と生徒に被害が出なくてよかったとおもうハリーは木片と化した大事な箒にごめんね、とため息が零れ落ちた。
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