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しつこく聞かれたけど、俺は嘘をついてないからな、と夕食の席でヴォルがハリー達に告げると、信じたグリフィンドール生は手を怪我しているのにやろうとするからだ、と言い、それでもちょっかいを出そうとするなんてよっぽどかまって欲しいんだな、と同情のようなことまで囁かれる。
面白くないマルフォイを気にすることなく堂々とした態度のヴォルはそれだけで信用されて、より盤石なものになっていく。
翌日、闇の魔術に対する防衛術で、いったい何をするのかと机に教科書を広げて待つ。ほどなくしてやって来たルーピンは相変わらずよれよれした格好だが、ホグワーツでまともなものを食べたのか以前より明るい印象を与える。
実施授業をしようというルーピンに去年のことを思い出す生徒は顔を見合わせてカバンをしまい、杖を手にした。ロックハートのピクシー妖精大暴れ事件はもう二度とごめんだ、とあの事件以来、時折背筋が凍り付くようなヴォルの笑い声を聞くことが増え……頼むからこれ以上俺たちの安眠を妨げる要因を作らないでくれ、と特にルームメイトは切実に願う。
ヴォルはじっとルーピンを見て……なんか引っかかるな、と考え込んだ。やつれた様子や身にまとうオーラがなにか覚えがある気がして……ハリーの手を握った。
去年ロンとともにジニーが連れ去られたことを盗み聞いた職員室に行くと、スネイプが居て今度は別の意味でのどよめきが起きる。あのスネイプがいるなんて、という囁きと、一階より高い所にいるなんておかしいじゃないかという声がわずかに聞こえて、スネイプの眉間の皺が深くなり……笑うのを堪えるようなハリーとニヤリと笑うヴォルに目を向ける。
邪魔するよというルーピンに忌々し気に鼻を鳴らすスネイプは見ていたくはないと出て行き、立ち去っていく。なんであいつこんなところにいたんだ?と思わずつぶやいたシェーマスにロンも同感だと頷く。
「あのスネイプが地上に出るなんて、何か地下に変なものでも住んだんじゃないのか?」
そう囁く声にルーピンは彼もたまにはそういう日があるのさ、と笑い箪笥の前で立ち止まる。ガタン、と揺れる箪笥に驚く生徒達に大丈夫だよというルーピンはガタガタを揺れる箪笥を前に生徒たちを振り返った。
「この中にはまね妖怪、ボガードが入っている。こういった狭くて暗い場所を好むんだ。今日入り込んだばかりでね。授業で使うからとそのままにしてもらったんだ。さて、このボガードについて説明できる人はいるかな」
何が入っているのかと話し始めるルーピンにハリー達は顔を見合わせるとはい、と手を上げるハーマイオニーを見る。姿を変え、一番怖いと思うものになるという説明にルーピンは頷き、素晴らしいと褒め、ハーマイオニーは嬉しそうにほほ笑んだ。
大人数でいるこちらが有利であることと、呪文と笑いで消すことを聞いてみんな一様に自分の怖いものは何かを考える。
ヴォルに至ってはあるはずがない、とハリーに告げるも何か気になっているのか落ち着かない。そんなヴォルの手をハリーは軽く握って説明を受ける。呼ばれて進み出たネビルはガタガタ震えながら杖を構え、開け放たれた箪笥からスネイプが出てくるを見つめた。
「リディクラス!」
そう唱えるとバチンという音共に彼が想像したおばあちゃんの服装をしたスネイプが現れて、笑いが巻き起こる。それからは名前を呼ばれた生徒が前に進み出て、それぞれが怖いと思うものを、滑稽だと思うものに姿をかえさせていくと、混乱してきたらしいボガードが目玉一つになって転がり、ヴォルの目の前で止まった。
途端に背の高いローブ姿の男になると白い肌をした蛇顔の男は手に何か黒い毛の様なものを抱えていた。
ざわっと空気が変わり、楽しげな雰囲気だったのは一変して危険をはらんだものになると、ハリーは真紅に瞳を光らせたヴォルを見つめる。
「アバダ・ケ「こっちだ」
緑色の光を杖からあふれさせるヴォルを押しのけ、ルーピンが前に進み出ると、男……ヴォルデモートは消えて銀色の球になる。呪文を唱えられ、再び転がるとネビルのもとにやって来た。混乱しきった様子のボガードに対して呪文を唱え、笑い声をあげると煙を残して消えて行った。
最近君、瞬間湯沸かし器みたいだ、と自分を抱きしめるヴォルにハリーが告げると、ダメなものはダメだと首を振った。さぁ今日の授業はここまで、と明るく告げるルーピンに途中恐ろしかったけど楽しい授業だったと去年と打って変わって笑みがこぼれる。
沈み込んだ様子のヴォルの手を引いてちょっと風にあたってくるね、というハリーは鞄を二つとも手に取り誰もいなさそうな方へと向かった。また外に出てはとやかく言われると少し考えて、そういえばこっちは使っていないはずと階段を上っていく。案の定空き教室を見つけて、この時間帯は誰も出歩いていないだろうと扉を閉めた。
「もしかしてヴォルが恐れたのは、ヴォルデモートに殺された僕?」
あのボガードが手にしていた毛……ハリーにとっては見慣れた自分の頭だというと、ヴォルはそうらしいと頷いてハリーを抱きしめる。
大丈夫だよ、と声をかけるハリーにヴォルが恐れているものがかつての自分と、それに殺される自分ということになんだか嬉しくなって、ヴォルがいるから大丈夫と繰り返す。
ヴォルがヴォルでいるのであれば絶対に起らないというハリーに確かにと頷いて……ハリーに口づけた。
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