------------



 楽しくなった闇に対する防衛術の授業とは反対に、魔法生物学はこれ以上ないほどにつまらない授業になり、ハリーはそっとため息を吐いた。
 レタス喰い虫なんて幼児教育だ、と不満げなスリザリンの声に、そこにいるマルフォイが原因でしょ、とハリーはため息をついて一度も触れていないヴォルを見る。ヴォルもまた、気持ちが悪いと一蹴して、桶から出ないように魔法をかけているだけだ。
 あの後、やっぱり俺じゃダメなんだと、意気消沈した様子のハグリッドに何か言いに行ったらしいがそこで再びもめたらしく、怒り心頭で帰ってきたヴォルをハリーが寄り添うことでなんとか緩和させた。それからヴォルとハグリッドはお互いを空気か何かの様に扱っている。

 何があったんだろう、と考えるハリーだがすぐにクィディッチの練習が始まりそれどころではなくなり、疲れてヴォルに寄りかかって寝ることも増えていた。


 そんなある日、談話室が騒がしいことに気が付き、練習を終えたハリーは本を読んでいたヴォルに何があったのかと尋ねる。それに答えたのはロンで、ハロウィンの日に初のホグズミード行があるとウキウキした様子で告げた。
「僕らはいけないんだ……。だからどんな風だったのか教えてね」
「俺がうっかりあそこでヒートアップしなければ何とかなっただろうに……ハリー」
 楽しみだというハーマイオニーとロンを前に自分たちはいけないというと、ヴォルはハリーを抱き寄せてごめんと耳元で囁く。ふ、と耳元に息を吹きかけられ、ハリーの顔が見る見るうちに赤くなって……ヴォルが楽し気に笑う。

「ハリーを置いていくと心配だ……いろいろな意味で」
「でもハリーは城から出てはダメよ」
 いわゆる事後という現場に足を踏み入れてしまったことのあるロンは、楽し気にハリーを膝の上にのせたヴォルを見て様々な意味で心配だという。首をかしげるハーマイオニーはどういう意図かわからないもののハリーを狙うものが徘徊しているということに警戒し、城から出ないほうがいいという。

 念のため、マクゴナガルに許可書を持っていないことを告げると、ヴォルことヴォルデモートのサインでも、彼が偽造したものでも全面的にダメだと念押しされ、偽造しようとしたヴォルは舌打ちをし……服従呪文で書かせればよかったと零した。
 今期に入ってから何度かとっさに唱えようとしていた死の呪文だが、“審判の日”と誰かが面白半分に名付けた大暴れ事件の際、杖にはそれを含めた3つの呪文に対する制限がかけられていた。
 それは今も変わらずだが、本気のヴォルであれば、無理にでも発動できるだろう、と呪文をかけたダンブルドアも正体を知っている教員もわかっている。
 何の制限をかけられているかまでは知らされていないヴォルも何となく気が付いてはいるが、やはり本気で出せば行けるだろうと、あまりそのことについては考えていなかった。


 そして迎えたホグズミードの日。もともとハロウィンの日はテンションが低いヴォルとハリーはお土産買ってくるという二人を見送って、ぶらぶら歩こうと城の中を歩く。
「ハリー?セルパン?」
 不意に聞こえた声に振り向くと、闇の魔術に対する防衛術からルーピンが顔を覗かせていた。
呼ばれるがままに行くと、グリンデローが届いたんだ、とそう言って水魔を二人に見せる。

「次の授業で使うんですか?」
 水槽を泳ぐ水魔をみるハリーが問いかけると、あぁもちろんとルーピンが笑う。まともに授業を受けられなかった去年と違って、ルーピンは様々な魔法生物を取り寄せそれを教えてくれている。今じゃ魔法生物学よりも生物が見られて楽しいと評判だ。
 河童より楽だというグリンデローをヴォルとともに見ていると、紅茶はどうかなとティーバックを取り出した。これしかないんだ、と笑うルーピンにヴォルが仕方ない、とため息を付いてやけに偉そうな態度で勧められた椅子に座った。

「それにしても……君のボガートは……」
 驚いたよ、と言うルーピンにヴォルは顔をしかめて次はもう動揺しないと砂糖もミルクも断ってストレートティーを受け取る。笑うハリーにルーピンは仲がいいんだねとほほ笑む。
「小さい頃からヴォルと一緒に叔母の家で育ったので、ずっと一緒にいるんです」
 ね、と笑うハリーをヴォルが抱き寄せ腕に抱える。今は付き合っている、というヴォルに恥ずかしがるハリーだが、ルーピンはコンパートメントでのやりとりから頷いた。

「僕がボガート見ていたら何になったんだろう」
 首をかしげるハリーは怖いものと考え、なんだろうという。ヴォルデモートは隣にいる最愛の相棒が当人であるから怖いなんて思わない。彼が自分を愛していることを信じているからヴォルデモートに戻るのではないかという不安も今はない。
「一番怖かったのは…‥ディメンターかな」
 母と父の最期の声を聴くのは正直辛い。そう思って声に出すとルーピンは意外そうな顔をして、君は恐怖そのものが怖いんだね、と言う。そうなのかなと思うが、そもそも相方のことを思うとそうなのかもと、納得して紅茶を飲む。
 そこにノックの音が聞こえ、3人の視線が向く。現れたのはスネイプで、揃っている顔ぶれに思わず足を止めた。煙が立ち込めるゴブレットを見たヴォルはルーピン……と呟いてからあぁ!と声を上げた。

「そうか聞いたことがあるぞ!あぁなるほど……」
 どっかで聞いたファミリーネームだとは思ったというヴォルは一人納得した風に頷き、驚くルーピンを放ってすっきりしたという。
「早く飲みたまえ。それとセルパン、持病については……」
「言うわけがないだろ。それにしても……今年は楽しい一年になりそうだな」
 ゴブレットをルーピンに押し付けるスネイプがじろりと見るのをヴォルは態度を変えずに答え、ニヤリと笑う。そろそろ二人が戻るころだ、と言うヴォルに手を引かれ、ハリーは戸惑うルーピンと嫌な予感に冷や汗をかくスネイプを置いて部屋を出て行った。

「彼は一体……」
 苦そうにゴブレットの薬を飲むルーピンはいらだった様子のスネイプに問いかけるが、スネイプは答えたくもないと言って空になったゴブレットをひったくるように受け取り、足音荒く部屋をでる。
 減点することもなく、いら立つだけで済ませるスネイプに彼は一体何なのだろうか、とハリーの……“パートナー”である赤目の少年を思い浮かべた。どこか……雰囲気というべきか気配と言うべきか。それを感じた覚えがあって、首を傾げた。

「ヴォル=セルパン君か……。まさか、ヴォルデモートに対して盲信者的な両親から生まれたってわけじゃないよ……ね?」
 ごぼごぼと音を立てる水魔の音だけが静かに部屋に残った。

 
 




≪Back Next≫
戻る