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  早朝、まだ朝も早いうちにそろそろだぞという声で目を覚ました二人は、どうやら自分たちが最後の客だと知って大きく伸びをする。
ヴォルが先に降り立ち、続けたハリーが下りる。
「ハリー!やっとみつけた!ナイトバスが君を保護してくれて大いに助かった!!」
 突然朝の静寂を打ち破って男性の声が聞こえ、トランクを引こうとした肩がつかまれる。
ぎょっとするハリーだが、すばやくその手を打ち払い、ヴォルが杖を突きつけた。

「えっと君は……」
 驚いた様子の男性はどこともなく表れた別の魔法使いを赤くなっていない手で制する。
ハリーを背後にかばう形で間に入るヴォルは警戒心をむき出しに、目で人数を数え小さく舌打ちをした。
「お前こそ誰だ。見ず知らずの男が突然肩にふれるなど、気持ち悪い」
 吐き捨てるように言い、ハリーを自分の影に押し込めるようにして睨みつける。
2学年の時に一度大暴れしたおかげなのか、ほぼ以前の力をノーリスクで使えるようになったヴォルの力をもってすれば何とかなるかもしれないが、できればハリーの前で吹き飛ばしたくはない。
 心外な、と少し自尊心が傷つけられたような顔をする男は背の高い青年の陰から顔をのぞかせるハリーを見て、続けて二人の服装を見てあぁとちいさく頷いた。
「私は魔法省の魔法大臣、コーネリウス=ファッジだ。まぁここで立ち話もなんだ、中に入ろうじゃないか」
 太った体型の、どこか気の良いおじさん風な顔に疲れた様子を張り付けたファッジは漏れ鍋の中で話そうと、2人を促す。
 魔法省と聞いてなおさら警戒するヴォルは何も言わずに杖を持つ手に力をこめる。
 
 ピリッとした緊張感の漂う空気の中、漏れ鍋の扉が開き、亭主が現れた。
「大臣、ようやく捕まえなすったか。何を飲みますかな」
 さぁ奥に、という亭主に警戒するヴォルだが、どうやら違うようだと深く息を吐いて杖を下ろす。
しきりに見つかってよかったという大臣にハリーと顔を合わせ、亭主の出したミルクティーを前に困惑した様子で出方をうかがった。
甘いものは無理、と遠ざけるヴォルはファッジをひたと見つめて少しでも妖しいことをすればと杖を握り締める。

 どうやらマージ叔母さんが風船化したことにはおとがめはなく、記憶も修正済みだという。
去年との違いにますます警戒するヴォルだけでなく、ハリーの自分は退学にならないのかという問いかけに答えになっていないあいまいな回答にハリーの警戒心も高まる。
 うまい話には何とやら。
「夏休みの残りをどこで過ごすかだが、この漏れ鍋に部屋を取ってもらおうかと考えている。」
 良い案だろうという大臣にとうとうヴォルもわけがわからなくなり肩の力を抜いてハリーと顔を合わせた。
話が全く読めない。
「ここにいれば安全だ。だが、くれぐれもふらふらとマグルの通りには出ないように。この漏れ鍋かダイアゴン横丁にいて欲しい。」
 そう念を押す大臣にハリーはもしかしてとあの新聞を思い出した。思えばたかが子供の家出に大臣が出てくるのはおかしな話だ。
「えーっと…二部屋のほうがいいのかな。トム、二部屋あるかい?もしくは二人部屋があればそれで。」
「二人部屋がいいですね。」
 部屋の空き状況を確認するファッジに素早くヴォルは注文を入れると、何が何だかと頭を抱えた。

「あの、シリウス=ブラックは捕まったんですか?」
 ハリーの問いかけにヴォルははっと顔を上げ、ファッジは出ようとマントを着けていた手が滑った。
「あぁ、そうだね、新聞を読んだんだろう。今魔法省が全力をもって捜査している。いやはやアズカバンから脱走など……看守の連中があれほど怒っているのは……いや、なんでもない。くれぐれも勝手な行動をとらなように。私に代わってトムが君を…あー君たちを監視している。」
 それじゃあまだ処理が残っているんだ、というファッジはあたふたと漏れ鍋を出ていった。
本当になんなんだと顔を見合わせると部屋を見てきたトムが戻ってきてすぐには二人部屋を用意できないという。
「いつも一つのベッドで寝ているんで一人部屋でいいです」
 二つあっても片方使わないし、とそう告げるヴォルにハリーは慌てて口を塞ごうと手を当てる。
亭主のトムは何かを察したのかじゃあその部屋に案内しましょうと、先だっていった。

 部屋につくなり何かが窓から入ってきて、ベッドに何かを落とすと止まり木に止まる。
「ヘドウィグ!ナギニも!」
「相当居心地が悪かったようだな」
 部屋に明かりがともされ、入ってきた忠実なるペットたちにハリーは喜び、荷物はこちらに置いときましたよというトムが静かに部屋を出ていく。
 少し怒り気味のナギニをヴォルが労うと彼女専用の袋に入れられた手紙を差し出した。
「なになに……毒の提供は感謝するが二度と手を貸すことはない?はっ!貸すつもりがなくとも俺様には借りるつもりはあるのだ。いい加減無駄な抵抗はあきらめるのだな」
 ふんと手紙を投げ出すヴォルは苦笑するハリーに後ろから抱き着き、そのままベッドへと転がる。ちょっとと声をかけようと振り向いたハリーの顎を掴み深く口づけた。
「ハリー」
 ハリー分が足りない、と首元に摺り寄せ寸と匂いをかぐ。
バスの中でも一緒だったのに、と思うハリーだが、スタン達を気にせず、マージ叔母さんも気にせず、久しぶりにヴォルだけを感じられヴォルの頭をぎゅっと抱きしめる。
 再び口づけあうハリーとヴォルだったが、いつのまにか二人はそろって眠りへと落ちて行った。


 そもそも寝たのが早朝のため、二人が目を覚ましたのは昼に差し掛かるぐらいだった。
目を覚ましたヴォルは同時に目を覚ましたハリーの額に口づけ、おはようという。
「なんかすごく不思議な気分」
「漏れ鍋に泊まるなんて考えもしなかったな。起きてさっさと教科書なりをそろえよう。フクロウ便も使いたいし、何よりいろいろ揃えないと」
 ヴォルと二人だけで外泊なんて考えてもなかった、と笑うハリーにヴォルも同じだといって口づける。
 漏れ鍋で昼食をとり、ダイアゴン横丁へと向かう。
 金庫でそれぞれお金を引き出すと、せっかくだからと隅から順にみていくこととした。時間はたっぷりある。
 課題はあらかた終えていたため、のんびり回るハリーは見たこともない道具に、つい買いたくなるのを抑え込む。
でないと何かを買おうとするヴォルを抑えられないからだ。

 あのヴォルデモートの金庫を見たハリーだからこそわかる。
 放っておくと何を買うかわかったもんじゃないと。

 怪物的な怪物の本を半泣きの店員から一冊受け取り、古くなった制服を新調して…高級クィディッチ用具店で新しい箒が出たと聞き、ハリーは箒を身にいき、ヴォルは梟便を出しに行く。
ヘドウィグを使うことができないと、そういったヴォルの耳にはヘドウィグの噛み痕がはっきり残っていた。
 新しい箒、ファイアボルトはクィディッチの選手であるハリーにはとても魅力的で、その美しいフォルムに思わず目を奪われた。

“お値段はお問い合わせください”

 そんな言葉にぐっとこらえる。そして、自分にはニンバスがあるのだと言い聞かせて視界の端に見えたヴォルのもとへと向かった。
かつてのヴォルデモートはどこで資金を得ていたのかわからないが、あの金庫の様子からしてかなりの浪費家な気がする、と何の人だかりだ?と首をかしげるヴォルの手を引いて歩きだした。
 ハリーが欲しいといえば買いそうな気がして、あんな高価なものは受け取れないと後ろ髪をひかれつつファイアボルトをあとにした。
「手紙誰かに出したの?」
「金庫のいらないものを売るためにつてを使おうと思ってな。今後を考えると現金はいくらあってもいいだろう。そこまで急ぎではないけど……せっかく協力してくれると言ってくれた奴がいたから早いに越したことはないかなと」
 ヘドウィグを使えないと言っていた宛先には何となく心当たりのあるハリーは、言葉を選ぶように答えるヴォルを見上げる。
 協力させた、が正しいだろうなと分かるハリーだが、深くは訊ねないでおこうとヴォルの手を握った。
指を絡める様に握り返されると自然と二人の距離は近くなり、周りの面の全く気にせずショップ巡りを続けるのであった。

 
 




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