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夏休みの宿題を片付けるハリーにヴォルは自分のを片付けながらその手伝いをしていた。
早く終わらせて、のびのびと夏休みを迎えたいというハリーにヴォルも同意し、カリカリと埋めていく。
「やっと魔法史終わった……」
「マグルの魔女狩りの話なんて久々に書いたな。真面目に読み返したのなんていつ以来だか」
大きく伸びをするハリーをねぎらうヴォルはあの先生毎回同じものだしてないか?と羊皮紙を丸める。
2年生の騒動で過去に起こした事件を思い出したヴォルは同時に学生時代のホグワーツ内の記憶を多く取り戻していた。
「僕だったら一か月もたったら忘れちゃうよ……」
「これでも一応首席だったからな。テストも毎回ほぼ満点。さすがに暗記はしないが……要点さえ覚えればさっと読んだ時にすぐ思い出せる」
50年前のことなのによく覚えてるね?というハリーにヴォルは少し得意げに答える。
これぐらいは、というヴォルにハリーはずるいと口を尖らせた。
ちらりと時計を見るヴォルにつられて時計を見れば……。
「ハッピーバースディハリー」
0時きっかりにヴォルはハリーに囁き、甘く口づける。
抱きしめ、角度を変える口づけにハリーもまたヴォルを抱きしめて答える。
「っと、そろそろだな……。邪魔されたくはない」
夏休みに入る列車の中、ヴォルにした“お願い”を思い返すハリーは顔を赤らめて、窓を見るヴォルを見た。
スゥ―ッと音もなく入ってきたのはハリーのペット、雪フクロウのヘドウィグとひっくり返って動かないウィーズリー一家の老フクロウのエロール。
そしてもう一羽は見たことのない森フクロウだった。
森フクロウはホグワーツの校章の入った手紙を2通と小包を持ってきたことから学校のフクロウだとハリーはねぎらう。
森フクロウはぐっと羽を広げると再び窓から飛び去った。
「ハリーの誕生日、きっとみんな来ると思って」
ベッドの上、目を輝かせるハリーを後ろから抱きしめ、開けてみようと促す。
ロンからは小包と日刊予言者新聞の切り抜きと手紙が届いていた。
日刊予言者新聞の切り抜きを広げると【ガリオンくじグランプリ大当たり】書かれた見出しにウィーズリー一家が9人そろってピラミッドの前で手を振っている写真が付いている。
「700ガリオンか……すごいな」
ハリーの肩越しに記事を読むヴォルにハリーも頷き、この一家にこそふさわしいと笑顔で記事を読む。
手紙を広げればロンの喜びがいっぱいに書かれていて、杖を新調するとある。
真の意味で自分の杖を持っていなかったうえ折れてしまったロンの杖を思い浮かべるハリーはほっと息を吐く。
追伸の所を見ればパーシーが首席になったことが書いてあった。
もう一度写真を見れば確かにパーシーの胸元に首席のバッチが輝いていた。
「この二人がロンの一番上とその次の兄か」
「そうみたい。ビルとチャーリーだったよね。このがっしりした人がノーバートを引き取ってくれたチャーリーかな」
すでに卒業した二人を見るのはこれが初めてだ。
確か一番上のビルはエジプトでグリンゴッツの仕事についていたはずと、爽やかなハンサムを見る。
改めて正真正銘の美形はあのロックハートの大袈裟な笑顔と違って、天然で色香をにおわす魅力を持っているのだと、ハリーは横目でヴォルを見た。
「かくれん防止器だって。うさん臭いのが居ると回って光るって……」
「独楽だな見た目は。ロンの兄はこれをおのぼりさん用のおもちゃだと言っているそうだが……うまく使えば精度が上がりそうだな」
バランスをとって立たせると、独楽は自力で立ち、ヴォルが興味深げにそれを眺める。
ハリーのためならばどんな知識でも総動員するヴォルにいい案があったら教えて、とハリーは笑い、ヘドウィグの持ってきた手紙と小包を開いた。
ヘドウィグが持ってきたのはハーマイオニーからのプレゼントだ。
彼女はいまフランスにいるらしく、ハリーにどうやってプレゼントを渡せばいいか考えているときにこの賢いフクロウが海を越えやって来たのだという。
「じゃあ疲れているね。ヘドウィグ……あ、もう寝てる……。ありがとう」
海を越え往復したヘドウィグをねぎらおうと水を飲むエロールの隣をみる。
そこには忠実なフクロウが顔を羽に埋めて眠っていた。
そっと声をかけるハリーは軽く身動ぐヘドウィグにヴォルと顔を見合わせてそっと微笑んだ。
エジプトに行ったロンがうらやましいというハーマイオニーに本当に探究心があるなと、通販で取り寄せたという小包を開いた。
中にあったのは分厚い本ではなく、箒の手入れセットだった。
ハリーが得意で好きな競技クィディッチのための箒は1年生のころマクゴナガルからもらったニンバス2000だ。
そろそろ本格的なお手入れをしなければと思った矢先のプレゼントにハリーは目を輝かせる。
森フクロウの手紙はハリーとヴォル宛で、3学年で必要な教科書の一覧と……。
「ホグズミード村の許可書?」
ホグワーツに隣接する魔法使いだけの村に週末行く許可が3学年から与えられるという内容にフレッドやジョージが時折話し、時に変なお菓子を仕入れてきたことを思い出すハリーは面白そうという。
「あー……あぁ……」
珍しくうめくような声を出して落ち込むヴォルにハリーはどうしたのかと慌てて振り向いた。
「いや……。ハリー、俺様が孤児院出身だって……話をしたか?」
暗い顔をしたヴォルにハリーはリドルとデュペット校長の会話を思い出す。
「ヴォルから聞いたわけじゃなくて……その……あの日記で過去の光景を見た時に話しているのは聞いたよ。だから夏休みは戻りたくないって」
「やっぱり。いや……だからこの当時許可を取るのがな……」
一応書かせはしたけど、と何か嫌な思い出があるらしいヴォルにハリーは何も言わずそっと頬に口づけた。
視線を上げるヴォルに今度は唇に口づけるハリーは二コリと微笑む。
「今は僕が居るよ」
「もちろんだ。にしても……俺様の字じゃダメとか、先読まれているな……」
過去の嫌な記憶は全部塗り替える、とそう目で伝えるハリーにヴォルは微笑み、マクゴナガルの手紙を読み返した。
追伸として書かれていたのはヴォルがすでに一度成人しているがために、本来は卒業生扱いになるのを変えていると。
なのでヴォル=セルパンでも、ヴォルデモートでも、ヴォルデモートの本名トム=リドル名義でも却下しますと書かれていた。
ハリーの伯母が果たして書いてくれるか……それが困りどころだ。
「と……こっちはなんだ?」
もう一つの小包はハグリッドからで、なんだろうかとやけに厳重な包みを開く。
ぶるぶると震えだす包みにヴォルが杖を構えると、ハリーが包みを破いた。
「本?怪物的な怪物の本って……」
転がり出てきたのは一冊の本。
だが、突然動き出し、ハリーの手にかみつきそうになる。
ヴォルの杖から赤い光が発せられると本がぐったりと動かなくなる。
「ベルトで止めておこう。全くなんだってこんな本を……」
きっと役に立つというハグリッドの手紙の意味が分からないが、バースディカードを並べるハリーはうれしさのあまりにこにこと笑ってヴォルに寄り添った。
じっと見つめていたヴォルはハリーに口づけてそのままベッドへと押し倒した。
「俺のプレゼント、あげてもいいか?」
覆いかぶさるように問いかけるヴォルに顔を真っ赤にするハリーはこくりを頷いた。
「お預けしていたヴォルの誕生日プレゼント……受け取ってもらっていい?」
石化直前にお願いされた去年ヴォルが欲しいと言った“お願い”をいうハリーに、ヴォルはもちろんとこれ以上ないほどの笑みを浮かべる。
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