7:進む計画

 部屋に戻ってきたハロルドはぐったりと机に突っ伏し、元の位置に戻したドラコも珍しくぐったり枠にもたれかかる。ハーマイオニーに呼ばれて何とか4人がそろう絵に移動するも見せたことがないほどにぐったりと机に突っ伏す。

「慣れないことをしたためか、なんというか……疲れた。フクロウの試験明けよりも疲れた」
 珍しいドラコの姿にネビルが驚き、ロンが茶化そうとしてぼそりと零れた言葉に顔を引きつらせる。ハリーとしても5歳児の体には負荷が大きい、と痛む頭を抑えた。

「ちょっとごめん、今日の成果は明日でいいかな。本当に疲れたんだ」
「同意見だ。頭がいっぱい過ぎる」
 慣れないものは慣れないんだ、というドラコにハリーは苦笑し、夕食を取りに行く。部屋に戻るなり泥に沈むように眠りに落ちていった。


 翌日、一晩眠ってすっきりした、とハリーは幾分元気になったドラコを含めた4人の肖像画と向き合う。箱に戻していた杖を取り出し、4人に見える様2本手に取った。

「この先のことを考えると2本は必要と思っていたけれども……」
「まさか杖が他の杖を弾くなんて想定外だ」
 杖のごまかしはできないから、というハーマイオニーにロンは頷く。ネビルも教授人生で沢山の生徒を見てきたがこんなのこと聞いたことない、と首を振る。

「意志を持つ杖。これで2本目だ」
 冷静になったドラコの言葉にニワトコの杖を思い浮かべるロンは、さすがバジリスクの牙だとそう呟き、ハリーを見る。ハリーはそれを受けて頷くとダンブルドアに会わなければ、とつぶやいた。

「そのとおりね。それにしてもニワトコの杖が伝承通りではない考察が当たってしまうかもしれないなんて」
 今の持ち主であるダンブルドアに尋ねなければ、と言いつつハーマイオニーは大きく息を吐いた。あんなに苦労していた杖がまさかなー、とロンもため息をつきドラコも頷く。

「ダンブルドアにどうやってコンタクトを取ろう」
 手紙を書けばいいのだが、できれば証跡は残したくはない。孤児院にいる手前、梟を飼うことも難しい。この世界に来てからようやくひと月。その間に行った下準備の多さにハリーはため息をついた。だが早ければ早いほどこの計画はうまくいくはずだ。

「今ハリーはこの世界のハリーに会っているじゃないか。きっとダンブルドアはそこから君を見つけると思う。だから今は待つのも手じゃないかな」
 ネビルの言葉にドラコも同感だ、と声を上げた。それもそうだな、というロンに貴方は今はまだ幼いから、とハーマイオニーが笑いハリーもそれしかないよね、と笑う。

「この世界のハリーを英雄から外すこの計画……ダンブルドアは承諾してくれるかな」
「その時は力に物を言わせればいい。それに、ハリーの想いを伝えればあの賢人ならば必ず乗るはずだ。もし、あの犠牲がすべて想定であったのならば……その時は見限るしかないだろう」

 ドラコはハリーのつぶやきにそう言い放ち、自業自得とはいえ死んだクラッブを思い浮かべた。5月2日に失った命はあまりにも多く、そして残酷だった。グレイバックのせいで人狼症も増えてしまい、折角助かった命を散らしてしまう人もいた。あの戦いの心労が祟ったのか、ドラコの両親も早逝し、親世代というべきか、学校生活を重ねた知った名前は全て散ってしまった。

 あの一年間に関わることで亡くなった人を考えれば本当に多くの犠牲者が出た。それこそ、グリンデルバルドの時代より悪いかもしれない。

「そうだね、きっと大丈夫。それに、僕だって言いたいことはあるんだ。必ず味方にしてみせる」
 死ぬまでの間で何度後悔したことか。ハーマイオニーらもみなしんみりと頷き、会うときは一緒よと微笑んだ。あの時ああしていれば、こうしていれば。過ぎ去ってから考えるのは簡単だ。だからこそ、最高の未来に向けて逆算していった。絶対に変えられないこともあれど、ここでこうして、と計画した。それにはダンブルドアの協力があればより犠牲者を減らすこともできる。


「ところでハリー。スネイプはどうするんだい?」
 未来からのタイムカプセルの中身の確認がまだ全部じゃない、とそろそろやろうと腰を上げたハリーはロンの言葉に目をしばたたかせた。

「そりゃ、助けるよ。助けるに決まってるじゃないか」
「あーいや、そうじゃなくて。前にジニーが……あーそっかこれは僕しか聞いていないことか」
 何を言っているんだ、というハリーにロンは何かを言いかけてあーと声を上げる。あーその話ね、とハーマイオニーが声を上げ、あの時あなた私に言っていたじゃない、とロンの肩を叩く。なんの話?と視線を送るドラコとネビル、そしてハリーにまぁ今更かとロンは頬をかいた。

「ほら、ジニーがさ……あれは一週間くらい前だったかな。ローズが久々に帰ってきてジニーとハリーに渡してほしいってお土産ももらって。まだハリーが帰ってなかったからジニーと二人で話をしたんだ。パーシーとジョージは忙しかったのに毎週来ていたって聞いて、僕ももう少し来てもいいか聞いたらロンまで来たらW・W・Wの経営が傾くって笑って言っててさ」

 前世と呼ぶべきか、別の未来というべきか。かつて病床に伏せたジニーの見舞の時の話なんだ、とロンは口を開いた。そのころのハリーは彼女に代わって買い物をし、魔法省からの呼び出しの対応など忙しく過ごしていた。いや、日日弱っていく彼女から逃げていたのかもしれない。自分がいない時はアルバスとその子供たちがそばにいたことから安心してはいたのだろう。ジニーも自分がそばにいると買い物を頼んできたことから、傍にいてほしくはなかったのだろう。

「あのさハリー。ジニーは君に死を見せたくなかったんだ。君が十分死を見てきた。両親、名付け親、まさかの影の保護者、ライバルのような友人、顔を見知った生徒たち……。普通の17歳がさ、生涯に見る死をはるかに超える体験をした。ここでまた家族の死を体験させたくないって。本当は傍にいて欲しいけど、元気な自分の記憶をたくさん持っていてほしいから、だからってさ」

 思い出したのか、顔を暗くするハリーにロンは違うんだ、と首を振りジニーの抱いていた気持ちをハリーに代弁する。眼をしばたたかせるハリーに対し、ドラコはまったくだと頷く。ドラコは死喰い人になっている親戚もいたにはいたが、パーティなどで会う程度で、本当の意味で失ったのはクラッブぐらいだった。だがハリーは……。

「それでさ、その時にジニーが妙なことを言ったんだ。ジニーも僕らのこの計画は知ってはいたけど、入らなかったじゃないか。ドラコが肖像画用意することもできるって言ったのに、ジニーは断ったんだ。私が愛しているのは、今のハリーであってそれはこの一代限りなんだって。後悔がないわけじゃないって言ったけど、すぐに言ったんだ。でもそれはハリーのせいじゃないって」

 このトランクが出てきてから準備をする初期のころ、まだ健在だったジニーだが知ったうえで首を振ったとロンは言う。ネビルだって一度はダンスパーティのパートナーにお願いしたこともあり、一緒にホグワーツで反対勢力としていたことに、共に戦った仲間に彼女は強いね、と微笑む。

「後悔としてはハリーの一番にはなれなかったって。誤解するなよ、君は家族としてジニーを愛しているのは知っているし、ジニーもそれだけは一番は譲らないわ、って。ただジニーが言うには君が幸せにしたいと願う人、っていうくくりだ。幸せにしたい人、支えたい人。支えて欲しい人。その括りでは自分たち家族はいつも2番目だって。なまじ死んでしまったからこそ、その1番は呪いの様に刺さり続け、揺るがないものになっていたんだって」

 君は自覚ないだろうけど、とロンとハーマイオニーは顔を見合わせて笑う。眼をしばたたかせるハリーにまさか僕らの味方だなんて、僕だって信じられなかったけどとネビルは静かに首を振った。ドラコも彼がいたからこそ今の僕らがいるんだろうと、懐かしむように目を細めた。

「ハリー。今度こそ、君が彼を助ければいい。スネイプをさ」
 ロンの言葉にハリーは思考が止まり、もともと助けるつもりだけど、きっとそう意味じゃないんだろうと言われた言葉をしっかりと噛みしめるように考える。
 スネイプには感謝している。息子に名をもらったほどに。彼に幸せになってほしかった。

「友達……くらいになれたらいいな。彼の一番は埋まっているからさ」
 彼の幸せがなにかはわからない。ずっと献身的に生き……そして死んでしまったからだ。何か言いたげなハーマイオニーだが、すぐに思い返したようにそうね、と同意する。

「スネイプの趣味とかって考えてもわからないね。とりあえず魔法薬の話をする……とか?」
 ネビルの言葉にロンは生徒いびりが趣味じゃないかと言い出して、ドラコまでもがスネイプ教授の趣味、と腕を組む。

「父上とあっている時でもあまり……そういった話は聞かなかったな。焦らなくともまだまだ時間はあるんだ。すくなくとも、あのディアの姿であれば多少は会話できるだろう」
 自分で見つけるしかないさ、と肩をすくめたドラコに貴方が分からないんじゃわからないわね、とハーマイオニーが笑う。


「あ、そうだわ。ハリーが薬を飲んでディアって名乗っているように私たちも偽名考えていた方が良いわね」
 今からでも慣れるために決めておいた方が良いわ、とハーマイオニーが唇に指をあてる。確かにその通りだと頷くドラコにネビルも悩む。

「深く考えずに守護霊でいいんじゃないかな」
 凝った名前だとうっかりするだろうし、とロンが提案しドラコが渋い顔をする。あれ?できなかったんだっけ?と問うネビルに心底いやそうな顔でため息をついた。

「アストリアの為に何かできることはと……。それでスネイプ教授もできたのだからと練習して取得はした。あー……まぁいいか。私のことはピーコックと」
 藁にも縋る思いだった、というドラコに4人ははっとし……ピーコックと聞いてハリーはニヤリと笑う。

「君の父親が飼っていた白い孔雀か」
「本当に勘弁してほしい」
 捕まった時にマルフォイ邸の庭で遭遇した孔雀。彼は家族を愛していたし、家族にも愛されていた。きっと、それが普通の家にはいない孔雀というペットに現れているのだろう。

「だが、アストリアは雪の結晶の様だと笑ってくれた」
 彼女の笑顔を見るためだけによく唱えていた、と懐かしむドラコは長い年月と孫たちのおかげかもう憂いは見えない。一人息子が選んだ女性があまりにもパワフルだったこともあるかもしれない。

「じゃあ私はオッターね」
「僕は……長いからテリアで」
「僕はバジャーだ」
 ハーマイオニーとロンに続き、アナグマと答えたネビルにロンとハリーは闇払いの研修を懐かしむ。ずっと形にならなかったネビルのパトローナスは大戦後、アナグマの姿となった。

 忍耐強さと誠実さ。そして決してあきらめない不屈の精神が反映されたハッフルパフの象徴。帽子は僕の願いは聞いてくれなくてグリフィンドールをと声を上げたんだ、とバーで話してくれた、真のグリフィンドール生のちょっとした秘密。それでもなんだかネビルらしいとお祝いした懐かしい時間。
 
 最後にみんなと会えたのはいつだったか。