5:見知らぬ懐かしい人
子供だけでの外出などはもちろん危険だし、そんな家庭は虐待を疑われるためよほどのことがない限り各家庭で許可はされていない。丸い眼鏡をした少年ももちろん本来は一人でいるのは目につくだろう。
ただ、従兄弟から逃げ回っているうちに変なところに出てしまい、困っていたところだ。まいったな、とため息をついていると迷子かな?と声がかかる。
え?と顔を上げると眼鏡の男性がのぞき込んでいた。
「おうちはプリペッド通りだね。行こう、ハリー」
大丈夫、と笑う顔が何だか自分に良く似ていて、ヘーゼルの瞳が懐かしい気がする。手を取り歩き出すと自分より背の高い人は同じくしゃくしゃの髪で、似た形の眼鏡をしていて……ただヘーゼルの眼が自分とは違うことが分かる。
「お兄さんは……」
「僕は……そうだね、ディアと呼んでくれればいいよ。君は……時々不思議なことを体験したことはないかな。たとえば……」
見上げるハリーを見降ろすディアは優しく微笑み、しゃがんで手のひらに乗せた小石を花に変える。驚くハリーにディアは笑い、花を小さなフクロウの置物に変えた。
「この間……おばさんが髪を……その、短く切った時にすぐ伸びたことあったけど……」
「そう、それ。いいかいハリー。きっとおばさんたちは君のその力を怖がるだろう。だからね、それを制御する方法を教えてあげよう」
自分でも説明がつかないことなのに、ひどく怒られたことを思い出したハリーは顔をしかめる。ディアはそれだよ、というと教えてあげると言ってハリーの髪を撫でつけた。その手が温かくて、ハリーはなんだか嬉しくなってお願いしますと笑い返す。
「ほら、プリベット通りだ。これをあげよう。これはね、ぎゅっと握って見つかりませんように、気が付きませんように、と願うと握っている間誰にも気づかれなくなる、不思議なお守り。大丈夫。これはね、君と同じ力を持っている人以外には見えないアクセサリーだから。ダドリー達には見えないよ」
目的の場所だ、というディアはもう一度しゃがむと黒い石のついた革紐のペンダントを取り出し、ハリーの細い首にかける。慌てるハリーにいいんだよ、ともう一度ハリーの頭を撫でた。
「僕が本当は一緒にいられたらいいんだけれども……。ごめんねハリー。これは一緒にいられない代わりなんだ。力の使い方はまだ難しいだろうけど、そうだな、何か壊してしまったり、壊しそうと思ったら怯えないで両手で何かをキュッとつかむようにするんだ。そして掴んだものをゆっくり放してあげる。慣れればきっと怒られることも少なくなるよ。また機会を見て会いに来るから」
また教えてあげるから、とハリーを家の方角へと押し出す。
「あ、あの……」
「ハリー、僕は君をいつでも見守っているから、安心して」
振り向くハリーにディアは大丈夫、ともう一度押し出し……もう一度とハリーが振り向いたときには誰の姿もなかった。
「僕に……僕のパパが生きていたら……あんな感じだったのかな」
革紐のペンダントだけが夢じゃなかったとハリーに告げてきて、ぎゅっと口を引き締めるハリーは急いで家へと帰っていった。
ディアは時々、それもハリーが一人でいるときにふらりと姿を現し、しゃがみ込んでハリーと視線を合わせてくれる。力をコントロールする方法、とそういってウガンダで昔聞いたんだ、と指を立てて指先に光をともして見せた。目を輝かせるハリーは同じようにルーモスと口に出すもうまく光らない。豆電球がじわっと光るところを想像して、と言われてもう一度試せば今度は小さな光がともる。
「そう。それが光を灯す合言葉だ。ただ、」
「人目があるところでは絶対にやらない。もう、さすがにわかったよ」
うまくできたね、とディアは微笑みハリーの頭を撫でる。ディアとの約束は絶対に人前でやらないことだった。特におばさんたちにばれたらご飯一日一食にされてしまうよ、と言われれば頷くしかなかった。
「そうやって適度に発散させれば、びっくりしたときに花瓶が割れることも減るよ。それになんとなく力がどんなものかイメージできたかな」
「なんとなくだけど。そっか、これが出会った時に行っていた“ぎゅっとつかんでおくもの”なんだね。ほとんど見せないから最近はこのことで怒られることもなくなったよ。ありがとう、ディア」
うんうん、と頷くディアにハリーはどこか嬉しそうに笑いかける。いい子だハリー、とハリーの頭をポンポンと撫でると立ち上がる。それを見てさみしそうに眉を寄せるハリーにディアは笑い、また来るよと声をかける。
「大丈夫。また来るから。まだまだ君にいろいろ教えてあげたいことがいっぱいあるんだ」
今は力の使い方を覚えよう、とそういうディアはハリーの手を取り、家の前に連れていくとコルクが抜けるような音ともに姿を消した。
いつもながらあっさりした別れにため息を吐くハリーだが、ディアのおかげで怒られることも減り、内緒の友達が……それも年上の友達ができたことが嬉しくて家へと帰っていく。
もしお父さんが生きていたらあぁだったのかな、と自分に似たディアに親しみを覚え、だけれども不思議と父とは思えない、と心のうちで無意識に首を振る存在であるディア。問題はいつもそんなに長い時間会えないことだ。いつかもっと長い時間話してみたいな、とハリーは伯母の出す指示に従い、お皿を洗いながら考えていた。