4:杖の製作依頼
週末、夕食後に部屋に戻ったハリーはマントを今の身長に合わせて縮ませ、フードを被る。
「私も連れて行って欲しいハリー。うまくできるかわからないが、やってみようと思うことはある」
ドラコに呼び止められ、ハリーはドラコの額縁と絶対多いだろうというほどのガリオン金貨をカバンに入れ、くるりと回転すると姿を消した。本当はポートキーを使いたいが、まだ杖がない以上うまく作れない可能性があるため行きだけはこうするしかない、と老け薬を飲み持ってきた大きいマグルの服を着ると鉄道を使い、ヨーロッパを移動する。
2時間の旅はほとんどが海の下のため、定期的に薬を服用し、あとはこれからのことを考えて時間をつぶす。ようやく海を渡りきると路地に入り、グレゴロビッチの店へと姿くらましをした。夜も遅くなったが、店はまだ開いており、ハリーはフードを被ったまま中へと入った。
「おやぁ……また妙な空気のものが来たな」
何か作業をしていたグレゴロビッチはまだ生きていて、ハリーはぐっと拳を握ると杖を作って欲しいと木箱を取り出した。
「これを使って杖を作って欲しい」
作業の手を止め出てきたグレゴロビッチの前でハリーが箱を開けると、職人は驚いたように目を見張り、顔を上げて客の顔をまじまじと見つめる。出どころは言えない、とそういいつつものは私がとどめを刺した、とすでに存在しないことを告げてできるか、と問いかけた。
「これだけ立派な材料であれば……わかった。いいだろう。ただ、馴染むかどうかはあんた次第だ」
ハリーがイギリス英語を使っていることと、認識阻害をかけた眼鏡をしていることから訳ありであることを察したのか、グレゴロビッチは牙を手に取るとちょっと待ってくれ、と奥へと行き、白い木を持って戻ってきた。
「皮をはいで乾燥させたアルダーの枝だ。これだけいい芯だ。この枝はボウトラックルが譲渡してくれたもので、なかなか無いいい素材なんだが……。うん、相性は問題ないようだな。一週間だ。一週間時間をくれ。バジリスクの牙など、気を付けなければならないのでな」
久々にやりがいのある仕事だ、と目を輝かせるグレゴロビッチにハリーはありがとうとお金を払おうとして、今は要らん、と止められる。
「これが完成した暁にこれにふさわしい金額を提示させてもらう。今はまだ、値段をつけようがない」
時間が欲しい、というグレゴロビッチにではまたと出ようとして、あぁと立ち止まった。
「何か一つ、呪文を唱えるために杖を買ってもいいだろうか。杖の制作を頼む通り、今使える杖がないんだ」
そうだ、と振り返るとグレゴロビッチは少し考えて、同じアルダーだが芯はユニコーンだ、と紅褐色の杖を差し出した。
「これを貸し出そう。アルダーの木は元々幅広いタイプの魔法使いに適性を見出すものなんだが……まぁ細かい説明は受け取りに来た際話すとしよう。この杖ならば合わなくとも反発などをすることはない。決闘などをしないのであれば問題はない」
汎用性に優れ過ぎてしまい、誰にも合わないのだ、と言われている杖は確かに受け取ったハリーの手に反発はしないが手になじむ感覚もない。ただ、魔法を放つには問題ない程度なのだろう。ありがとう、と礼を述べてから店を出て物陰で部屋から持ってきたコップを手に取る。
ポートナーと唱えれば孤児院の部屋まで一直線だ。
孤児院に戻るとかけていた魔法を解き、寝台に腰を下ろす。そうだ、とトランクを漁り……冗談で入れていたパズルを取り出した。晩年に孫が買ってきたのだがやる時間と体力がなくて……生まれ変わるならやろうかなと入れていたのだが、まさか役に立つとは思わなかった。これで部屋に籠っている理由ができる。
「私の出番は受け取ったあとだな。未来で殺されるのを……せめて子供だけでも回避させたい」
それまでにいろいろ案を練っておこう、とドラコはテーブルに伏せてあるものを手に取った。それって、と驚くハリーに本当に過去に行くなら必要だと思って、とハーマイオニーも伏せていたものを手に取る。いつの間にかネビルもロンも各々の仮面を手にいていた。
ハーマイオニーは口の部分が出ているハーフマスクだが、白に金の紋様が描かれ、前髪を隠すかのような真っ赤な羽根が彼女の正体を隠す。
ロンも同じようなハーフマスクで……ハーマイオニーと違って髪全体を覆い隠す布のようなものが付いている。ロンの髪の色は特徴的であることからそれを隠す目的もあるのだろう。
ネビルはやはり口のみが出ている物の、木のみをくりぬいたかのような無骨なデザインでどこかの民族的な雰囲気を漂わせる。
ドラコはこのイギリス中誰もが知っている仮面のハーフサイズだ。
「あえて私はこの髪とこの仮面で分かるものにだけ伝わるようにはする。父上のものとは異なる仮面だから“仲間”には通じるだろう」
かつての大戦時もドラコは仮面を持っていない。手に取った死喰い人の仮面は口元が出ているデザインのためにどうだと口角を上げる口が良く見える。
「僕たちはこうして必要であれば顔を隠すから、ハリーは気にしないで大丈夫だよ」
僕だって顔バレはさすがに危ないというのはわかっているさ、とネビルはかたりと音を立てて頷き、ウィーズリー夫妻も同様に頷く。
「さて、杖のあてができたことだし、ポートナーも問題なくできたからさっそくやってみようと思う。目薬は……あぁヘーゼルの色も問題ないね」
「本当に無茶しないでねハリー」
目薬を確認するハリーにハーマイオニーが心配げに声をかけ、ロンやドラコも君はトラブル気質だから、と頷いた。心外な、と顔をしかめるハリーだが、何だかんだ晩年に至るまでトラブルは常に隣人だった。そう、とても迷惑な隣人だ。
この時代の魔法省はざるだからどうにでもなんとかなるだろう、というドラコにそうなんだけれどもね、とハーマイオニーはため息を吐く。
「これでも勤務年数最長記録を持つ元闇払い局長だよ?へまはしないさ。それに、何か困ったことがあれば真っ先に4人の賢人に相談するから、任せてよ」
「君のそういうところが心配なんだと、いったいいつ学ぶんだ?」
大丈夫、と胸を張るハリーに対し、そういうところが心配なんだ、とつぶやくドラコに残りの3人もうんうんと頷いている。そんなに信用無いのかい?と驚くハリーにハリーがというより、とロンが言い出し、ネビルが君がというよりもね、と笑いそれ僕のせいじゃないでしょ、とハリーは肩を落とした。