3:ミドルネーム
「セアはどうだろう。アナグラムは思いつかなかったんだけれども、フラーの母国語のフランス語で守るっていう意味なんだけど、なんとなくスネークとか、それこそスネイプとかの名前っぽいかなって」
Sが付く単語を考えていたんだけれども、というロンにハーマイオニーが頷く。
「あ、ハリー。それでつづりを書いてみてくれない?」
「え、セアのつづりが分からないんだけど」
書いた文字を分解してみるわ、というハーマイオニーにハリーは自分のフルネームを書きながらどう書くんだい?とロンに尋ねる。
「確か……S.e.r.r.eだったと思う」
あっているか不安だけど、とロンが言い出しフランス語……とハーマイオニーは忘れていたわ、と声を上げた。
「ハリー。トランクの中に青い袋あると思うのだけど出してもらってもいいかしら。その中に、作ってみたけど結局使い道がなくて……もしも過去に戻れるのであれば役に立つんじゃないかしらって事で入れたトランクが入っているわ。その中に辞書を入れていたはずだから……」
ハーマイオニーの指示に従い青い袋を取り出し、中に手を入れるとトランクが手に当たりハリーはそれを引っ張り出した。偽ムーディがムーディを捕えていたような既視感を抱き、パカリを開ければ階段が見える。
「ネビルの本もそこに入れたわ。本棚の他にちょっとだけ家具とかおいてあると思うの。隠れ家として作ったんだけれども、使うことがなくて……。鍵をかけることもできるから自由に使って」
今のハリーには必要かもしれないから、というハーマイオニーの声を聞きながら階段を降りるハリーは扉を開けて思わずおぉ、と声を上げた。シンプルな内装だが、ハーマイオニーらしくて、少し大きめの机と座り心地のよさそうな椅子が置いてある。天井はホグワーツの大広間を参考にしているのか、青空に梢が揺れる。スイッチを弄ると天井は星空になり、部屋の中も月明かりほどの明るさへと変わった。
「すごいやハーマイオニー」
親友の優秀さに改めて感嘆するハリーはフランス語の辞書、と呼び出して飛んできた本を開く。
「あ、ロン。守るじゃないよ」
該当するつづりを開きながら階段を上がるハリーは記憶違いだよこれ、と声を上げた。
「あれ、ごめんごめん。じゃあ振出しに戻るか……」
「あ、いやハリー。そのままでもいいかもしれないぞ。似た響きの言葉と考えていたのだが、ラテン語のセラーレ……鍵をかける、閉ざすという意味で今のポーター、門番という言葉にかけるのはどうだろうか」
あちゃーというロンにドラコがいや待てよという。ハーマイオニーに促され、単語の意味を述べるとハーマイオニーもそれでいいんじゃないかしらという。
「あ、どっかで聞いたことがあると思ったら温室だ。フランスの植物を見に行った時に温室っていう意味でつかわれていたんだ。皆を守るっていう意味もかけていいんじゃないかな」
ずっと考えていたネビルがそうだそうだと声を上げてハリーはなるほど、と頷く。ヴォルデモートという蛇から皆を守る、冷たいディメンターの吐息から隔離された暖かな場所。確かにあっているかもしれない。
「それとそのつづりを見て閃いたのだけども、アナグラムでね、Redoer……やり直すもの。そして門の主……Portals Herr。未来への扉を守る門の主。だから名乗るとしたらそのミドルネームを名乗って、アナグラムは私たちだけの秘密にするのもいいんじゃないかしら」
「ありがとうハーマイオニー。そうだね、いまのぼくにとってとてもいいアイデアかもしれない。いくら何でもやり直してきたなんて、誰にも知られるわけがないんだからアナグラムの意味は僕らだけの、決意を込めたものとして隠しておくのもいいね」
ハーマイオニーに言われるがままに文字を入れ替えると二つの言葉が浮かび、ハリーは納得したように頷く。過去に戻ってきたことを、やるべきことを奮い起こさせるこの2つの言葉はポーターと名のる今、とてもあっているように思える。
「なるほど。もともとが偽名であることから、ハリーのやりたいことを裏付けるネーミングということか。ハリーの今後の行動を考えれば敵ではないことを内部に知らせるために、そう名乗ってみるのもありなのかもしれないな」
そもそもが偽名というドラコにハリーは確かにと微笑む。本名を偽るヴォルデモート。死を跳躍する、超越する、という意味が込められていると考えられる名を名乗るヴォルデモートに対し、本当の名を隠し、意味を隠し……アナグラムで役目を明かす。よし、とハリーは顔を上げて羊皮紙にミドルネームを書き記した。
「ハロルド=セア=ポーター。やり直すものであり、皆の未来を守る死の門番」
「でもハリー。無理はだめだよ。逆行してきた今のハリーの命も、皆と等しく大事なものだからさ」
決意を新たにするハリーにネビルは心配そうな顔を覗かせ、無理と無茶は厳禁だからね、とくぎを刺す。そうだそうだと同意する親友たちにハリーは笑い、当然だと頷いた。
「それにしても、ドラコ、よくラテン語がするっと出てきたな」
感心したような声を上げるロンに、なんだその目はというドラコ。いやぁ、その、とロンは口を濁し、目をそらす。
「ドラコって実は結構成績よかったんだね」
さらっと言い出すネビルにロンが慌て、ハーマイオニーがそっぽをむく。思わず真顔になるドラコはネビルをじろりと睨みつけた。少なくともロングボトム教授の学生時代より上だがな、と苛立ちをにじませた顔でネビルを見つめ、学生時代に戻ったようにネビルがひえぇ、と情けない声を上げる。
「当主をやっているといちいちメモを取るわけにいかないことも多い。そのため、頭の中だけで物事を考えねばならないという事もある。ロングボトム家の当主とはいえ、私の家の様に先祖からの事業やらなにやらの書類に埋もれない家はさぞや楽だっただろうな」
顔をしかめるドラコにネビルはあはは、と目をそらしウィーズリー家はビルがいてよかった、とロンは一人気楽に笑う。
「えぇ本当に。ジョージがロニー坊やがやってくれたぜ、って発注書を見て大笑いしていた時そう思ったわ」
あの時は本当になんでこんなミスを、と頭が痛かったわ。と、思い出したようにこめかみを抑えるハーマイオニーにロンが何の話!?と声を上げる。
「あー。W・W・Wの大安売りセール、そういう事だったんだ」
「発注ミスとは……。しかも妻に頭を下げさせ、本人は自覚がないと。最低だなウィーズリー」
ネビルに続いてドラコまでもが納得して以前の様にファミリーネームで呼んだ。ちょっと!?というロンに思わずハリーが笑いだし、ロン以外の3人も笑い出す。
ここはまだそんなやらかしもない、過去であり、今の現実だ、とハリーはトランクを撫でた。創業者2人が生き残った世界ではきっと大丈夫だろう。