2:杖の芯になるもの
「杖はどうする気だ?」
「あー……オリバンダーのところはやめておくよ。万が一に僕の杖が選ばれてしまったら、この世界のハリーが危ない。奴との兄弟杖であることが大事なんだ」
ドラコの問いにハリーはあそこに行くのはまずいという。
「それじゃあ、ハリー。グレゴロビッチの杖はどうだい?ついでに、なんかこう、10年後、家族に不幸が訪れるとか何とか言ってさ」
そこならいいんじゃないか、というロンにハーマイオニーはそうだったわ、と声を上げた。ヴォルデモートによって無為に散らされた子供の命。ハリーもそれを思い出し、店の跡地には行ったことがある、と頷く。
「あのさ、杖の芯だけど……。試したいものがあるんだ。もともとはとても危険だから、というのと希少性が高いから……悪用されないように僕の死後一緒に埋葬されればいいかなっていう程度でいれたんだ」
杖はオーダーメイドでお願いしようと思う、と言い出すハリーに4人は何を持ってきたんだ?と首をかしげる。ハリーとしても特に使うあてがあったわけではないが、杖、と思った時にぴんと閃いたものだ。
当時保管に困っていたり、なぜか貰ったりして置き場所に困っていた希少な魔法薬の材料などを入れていた袋を取り出す。子供達も誰も魔法薬に学校以上の興味がなかったためにずっと手元に残っていた。
中に手を入れ木箱を引っ張り出すとハーマイオニーとネビルは興味津々といった様子でその木箱を見つめた。その木箱に保護魔法がかかっているのに気が付いたのか、ドラコは眉を寄せ、ロンはその長さ見覚えがあるぞ、と腕を組む。箱を開けると取り扱いの為に入れておいた手袋をはめ、布をよけて白いそれを取り出した。
「ホグワーツ創立から生きていたかもしれない、バジリスクの牙だ」
あの日、二人が抱えていた毒の残っているものと、ハリーの腕に刺さっていたもの。特にハリーの腕に刺さっていた方にはハリーの血がついているだろう。あんぐりと驚いた口をそのままにするハーマイオニーとロンは何も言えず、ネビルは2学年の時の怪物だったっけ、と顔をしかめ、ドラコはそれか、と様々なことを思い出してなのか眉を寄せた。
「今杖の話が出た時にピンときて……。これに何か木材を当ててもらえれば……きっと役に立つものができると思うんだ」
直感的にこれを使えばいいのでは、と閃いたハリーにハーマイオニーはダメよ、と鋭く制する。そこまで反対されるとは思わなかった、と驚くハリーにドラコはいや、案外使えるかもしれない、と唸った。きっ、と睨むハーマイオニーにドラコは肩をすくませてみせ、今後の作戦にはいいんじゃないかと返す。
「でも、なんていうのかしら。こんな絵具の姿になってもなんとなく、そうなんとなく胸騒ぎと言えばいいのかしら。嫌な予感がするのよ。ハリーがハリーでなくなってしまうような、そんな感じが」
生き物でないのにこんなことを言うのは違う気もするのだけれども、とハーマイオニーは不安げに両手をこすり合わせた。それは私も同じだ、とドラコは顔をしかめる。一体どうしてか、と目をしばたたかせるハリーの前で4人はやはり苦い顔をしている。
どうしてなのかわからず、むっとするハリーにネビルは僕たちは紙と絵の具と記憶だ、と長年教授を務めていたものらしく口を開く。
「これは以前からダンブルドア校長や歴代の校長、それにマクゴナガル校長がいっていたことだ。僕たちは紙と絵具と記憶に過ぎない。こんなことをいうとみんな傷つくかもしれないし、何よりハリーががっかりするかもしれないけれど……言わなきゃいけないと思う。ハリー、この世界で生きている君の意思が大切なんだ。だから、僕たちはあくまで助言や相談をする相手として活用してほしいんだ」
君も聞いたことがあるだろう、というネビルにハリーはかつて次男アルバスのことでダンブルドアに相談したときのことを思いだす。あの時も自分はそれに振り回されて……余計に溝を作ってしまっていた。
「そうだな。この状態でできる助けは何とか出来る。けれど、最終的に決めるのはハリー、君だ」
「そうね。そうだわ。ごめんなさいハリー。だめね、まだ自分を生者の様に思ってしまっているわ」
ドラコの言葉にハーマイオニーはごめんなさい、と謝る。いいんだ、と首を振るハリーにロンがどんなことがあっても僕たちはハリーの味方だ、とにこりと笑う。
「ハリーそろそろ寝た方が良いわ。まだあなたの体は5歳だから、十分な睡眠が必要よ」
時計はないものの、大分話したとあくびを零すハリーにハーマイオニーは自分の息子、ヒューゴを重ねて進言する。それを聞いたロンもネビルもドラコも……それぞれ息子を思い出して確かにその通りだと頷く。たしかにそうだね、とハリーも息子たちを思い出してふふふと笑うとそれじゃあ寝るよ、とトランクに額縁を入れて横になる。
かつて闇払い局長としていろいろな作戦をこなしてきた。長期にわたる作戦もたくさんあった。今5歳という事ならば12年だ。これまでにないほどに長いことではあるが大丈夫、僕ならできる、と現役時代を思い出しながら目を閉じた。
翌日からはこの孤児院での生活に慣れないと、と数人いる同じ年頃の子供たちと共にインファントスクールへ通う。送迎もあり、あまり自由時間がないのと幼児教育にうんざりし、下校してからの自由時間は部屋で休んでいた。
部屋では一人静かに本を読む少年、という風にしたいのだが、天寿を全うしたおじいさんであったために逆に5歳児が読む本というとぴんと来ない。仕方なく絵がたくさん載っている図鑑を眺めることにしたのだが、職員にニコニコされながらその動物好きなのかな、と声をかけられると返答に困り、5歳児のふりをすることに大きく息を吐いた。
週末の夜になり、またトランクを開けて額縁を取り出すと、今世にはなれたかい?とネビルが真っ先に声をかけてきた。マグルの5歳児がわからない、と肩を落とすハリーに魔法が使えることが大前提であった4人はまぁそりゃね、と顔を見合わせる。
「それでこの前の続きなんだけど、このバジリスクは僕が倒した。今はないけどうっすら残っていた傷もあった。こういう怪物ってさ、倒した相手とかに従うっていうのはなくはないだろう。それに、もしこれを使った杖を持っているのであれば……闇の勢力に潜り込むには最適だと思うんだ」
だからこれを使って作る、と宣言するハリーにドラコは腕を組み、確かにな、と左腕をさする。
「おおざっぱではあるが、あの集団は力が全てと考えるものと、父上のような血筋こそ全てというものと2つに分かれていた。闇払い局長として勤めていた力を使え、なおかつ血筋に疑いは持ちつつもかのサラザール=スリザリンの杖と同じバジリスクの牙を芯に使っているのであればもしかしたらその系列の血をひいているのかもしれない。そう考えて一目を置く可能性が大いにあり得る」
杖の芯には特別気を使う家もあるほどだ、と描かれているだけの杖を握り締める。ドラコの杖はユニコーンの芯だったはずだ。ハリーに一度主導権が移動し、その後彼に返還されたドラコの杖。ユニコーンの毛は闇の魔術とは相性が悪いという事から、マルフォイ家としても隠しておきたいことだったのかもしれない。
時折見せるルシウスの厳しそうな様子はもしかしたらそういう事なのかもしれない、とかつてバーでみんなで酔いつぶれた晩……ドラコがぽつりとこぼしたことを絵画の3人もハリーも思い出していた。
「闇の勢力に入りこみ、スネイプの代わりに僕が側近になって奴の行動を監視する。あ、そうだ。ミドルネーム……まだ決めてなかったんだ。どんなミドルネームがいいかな」
あのときなにをかえてどうしていたら、このトランクを手にしてから4人で話し合ったもしもの話。結果から逆算して……ありもしないことを想像し、これが完ぺきな未来絵図だ、と完成させた作戦。
それは闇の勢力に入り込み、ハリーがセドリックを殺す役割を得て彼を助け、シリウスを壁に吹っ飛ばしてベールから遠ざけ……そんな風に描いたありもしない空想の話。それを臨機応変に変えねばならない箇所もあるだろうが、ここに戻ってこられたのであれば実行しないすべはない。
この並行世界を作り出したのがトランクなのであれば、最悪それを壊してしまってもいい。どうなるかわからないが、元の世界には影響はないだろう。
「そうね……ヴォルデモートの様にアナグラムで何か意味のあるものにするのはどうかしら」
全部使うにはあなたの名前では難しいし、とハーマイオニーは腕を組んで考え、ロンは蛇っぽい名前とかどうだろうという。蛇かぁ、と考えるネビルにハーマイオニーとドラコも何が良いだろうかと首をひねる。