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飛び起きたハリーはどう思われたってかまわないと、シャワー室に駆け込み耳を必死に洗う。昔から線が細いとか顔つきが幼いとか……いろいろ言われてきたがはっきりこういう感情を向けられたことがない。
腹周辺を撫でていた手は途中からくるくると下腹部あたりを撫でていて、胸元の手は飾りでしかないはずの胸を執拗なほどに弄ってきた。ハリーとて年頃のルームメイトがいる以上男女の話は下世話な話で盛り上がる時に聞こえてはいる。あまり得意ではないためにやんわりとの輪から離れているが、それでもだ。
いったい奴はどうしたいのか。そう、普通ならばお菓子を渡せばいいのだが、奴はお菓子を欲しているのかといえばもちろんノーだ。では何か。考えたくもない話を思い浮かべたハリーはこみ上げる吐き気に何も出ないというのに嘔吐く。
冗談じゃない。両親を殺し、自分を殺そうとした相手が……いつからそんな目で見ていたのかなども考えたくない。
必死にぬぐおうとして冷たい水浴びていたハリーは体調を崩し、その日は医務室で過ごすこととなった。原因を言うのは恥ずかしくも冷たい水で眠気を覚まそうとして体を冷やした、というしかない、マダム・ポンフリーに小言を言われながらベッドに体を横たえた。
「大丈夫?ひどい顔色よ」
「びしょびしょのまま部屋に戻ってくるからびっくりしたんだ。何があったんだい?」
見舞いに来てくれた二人が口々にハリーの体調を気遣ってくれることがうれしくて、ちょっと夢見が悪くてと口を濁す。夢、と聞いて顔を曇らせる二人に何も言うことができず、ハリーは顔を伏せた。新聞のことが気になるも直接聞くのも、と考えるハリーは天井を見上げてどういうことなんだろうかと考える。
元気爆発薬は飲んだが、もともと顔色の悪かったハリーはそれでは完全には治らず、今日一日はここで過ごしなさいと言われてしまったがための暇な時間。目を閉じようとするとあの感覚が思い起こされそうになり、ハリーは自分を抱きしめるようにして体を丸めた。
ここ最近見かけないダンブルドアに相談したくとも毎日いるとは限らず、誰に相談すべきかと考えるが、どれも思い浮かばない。
翌朝になって、ハーマイオニーからリバプールの大聖堂が半分破壊されたという話を聞いて、ハリーはまた顔を青ざめた。朝、5時ごろに爆発音が聞こえて鐘楼ごと鐘は破壊され、朝の務めをしていた聖職者たちが大勢犠牲になったという。
青ざめたハリーに気が付いたのか、ハーマイオニーは真剣な顔になってどうしたの?と問いかける。どうこたえるべきか。男に性の対象として見られたなんて話は、情けなくて言えず、かといってヴォルデモートが出てきた夢なんて、シリウスが死んだというのにまだ閉心術身に着けていないのなんて言われても困る。
閉心術はできているはずだ。ただ、無意識になる就寝後など、学生でできるわけがない、とハリーは震える手をただ握りしめるしかできなかった。マクゴナガル先生に相談すべきよ、と何かを察したハーマイオニーが言うが、他人に……ヴォルデモートから性的な目を向けられているなど口が裂けても言いたくはなかった。
「ごめん、心配しているのはわかっているんだ。ただ、ちょっと一言で話せないというか……」
こうしてぐずぐずしている間にもっとひどいことが起きそうな気がして、ハリーは唇を嚙かみしめるしかできない。4日後のハロウィンが全てを決める日だ、とハリーは誰にも言えず、口を閉ざしたまま過ごした。
逃げることもできないうえ、どうにかすることもできないことはなんとなく肌で感じ、ハリーは意を決して目を閉じた。
気が付けばあの空間に居て、いつもとは違いもう模型が置かれていることが今までと違った。
「トリックオア……ハリー」
はっきりと耳元で聞こえた声にハリーは震えて、その模型を凝視する。ちょっといびつで、でも中はとても暖かい家庭が収まっていて……安心できる親友の家。そしてもう一つは見たことがないが、どこかの歯医者のようでダメとつぶやくしかできない。
ひたりと首元に置かれた杖が抵抗するなと言っているようで、下着に入り込む手を止めることができない。冷たい手で急所でもあるそこをつかまれ、軽くもまれる。こみ上げそうになる吐き気を必死でこらえるハリーはくつくつと嗤う声に性的な興奮も何もない。
わかっているであろう背後の男はハリーの顎をつかむと強引に後ろを振り向かせた。
初めて顔を合わせるハリーは蛇に似たその男を睨み、男を上機嫌にさせていく。
「さぁ今回は猶予を設けてやろう。一人で叫び屋敷に来るのだ。そして寝台の上で相応しい恰好で、俺様を待て」
赤い目を細め、にやりと嗤う男は有無を言わさぬ口調でハリーに告げる。まるで東から日が昇り、西に落ちるほどに決まっているかのような声にハリーは唇をかみしめた。誰に言うことも、気づかれて阻まれて遅れることも一切許さないという事を匂わすヴォルデモートに悔しい思いがいっぱいで、睨みつけるしかない。
「さぁ、今夜6時だ。俺様を失望させるな」
顎を強くつかみ、ハリーの唇に冷たい口を押し当てた。
「っ!!」
顔を背けるハリーだが、かまれた唇から血が流れる感触がして、自分の血が唇についたヴォルデモートを視線で殺せるのではないかというほど殺気を込めて睨みつける。徐々に姿が透けていき、ハリーははっと起きると切れた唇に触れて、急いでシャワー室に駆け込み、パジャマのままでも構わないと頭からお湯をかぶって何度も何度も唇をぬぐう。何とか唇の感触が傷に触れる湯のせいで痛むそれだけになると、今度は触られた下腹部の急所への感触を拭いたくて必死にこする。
気が狂いそうだ、とハリーは床に座り込んだ。ハリー!と後ろから心配そうなロンの声が聞こえ、湯が止められる。寝間着姿のまま頭から湯をかぶりうつむくハリーの姿は異質で、どうしたんだよと言いながら新しいタオルを大量に持ってきてハリーを包む。そこでタオルに一日に気が付き、どうしたと集まってきた同寮生にマクゴナガル先生を呼んできてと告げる。
ほどなくして駆け込んできたマクゴナガルは杖を振り、シャワー室の水気を乾かし、立てますか、ポッター、と声をかける。
かけられていたタオルが大きくしてすっぽりと体を覆うとのろのろと動くハリーを促し、医務室へと向かった。
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