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ポンフリーは憔悴しきった様子のハリーを見て、すぐに呪いの検査をし、杖を振って薬を含んだガーゼを傷口へと塗り込んでいく。すぐにダンブルドアを呼びましょうという声をぼんやりと聞くハリーに着替えとカバンを持ってきましたとハーマイオニーとロンの声が届く。
ダンブルドアが来たら……ロンの家族とハーマイオニーの家族が……。そう考え、サイドテーブルに置かれたそれを横目で見る。
行かなければ。
ぐったりと座ったまま動かないハリーを見て、何か症例がないか探さなければ、とポンフリーが奥の部屋に入る。
行かなければ。
カバンから杖を取り、黒い学校指定のマントでパジャマを隠すとハリーは足音を忍ばせ、医務室を出た。
行かないと二人の家が、あの橋のように、あの聖堂のように、壊されてしまう。
たっと駆け出し、わき目も振らず暴れ柳から叫び屋敷に入る。ここに居れば、奴が二人の大事な家族に手出しすることはもうない。埃だらけの寝台の上でハリーはぎゅっと体を丸める。それにここに早くからいればさすがに誰かが気が付いてくれるかもしれない。
外が騒がしい気がして、ぎゅっと耳をふさぐ。正直怖くて仕方がない。
ホグワーツではハリーが消えたことに捜査がされようとしたが、大広間に届いた小包から現れたディメンターや毒々しい毒触手の草などがあちこちで散乱し、教員も生徒もそれどころの騒ぎではなくなっていた。
誰かが加減の知らない“悪戯”を施しているのでは、と思うもハリー一人を探しに行く余裕が生まれない。悪魔の罠に振り回される生徒を助けたかと思えば次にはピクシーが対処に加わる生徒の杖を奪おうと縦横無尽に飛び回る。
ようやく騒ぎが静まり、捜査が始まったがホグズミードではトロールが暴れており、それらすべての騒ぎが収まったのは月が昇り始めた頃であった。
誰も来ないことに何か起きたのでは、と杖を握るハリーは打ち付けられた窓からわずかに見えた空が暗くなってきたことに青ざめた。
「ふさわしい恰好で待て、と俺様は言ったはずだが?」
冷たい声に杖を向けると同時に魔法省での戦いでダンブルドアがやつをとらえていた水の檻がハリーをとらえる。もがくハリーの手から蛇が、ナギニといったあの大蛇が杖をもぎ取っていく。
唯一対抗するためのすべを奪われ、ハリーは嫌だと首を振る。
「ではあの奇妙な家と、マグルの夫妻を殺してくるとしよう」
あっさり言い放つヴォルデモートにハリーは慌ててダメと追いすがる。傷が酷く痛むがそれよりも壊してほしくないものが大きくて、やめてと言いながら黒いローブをつかんだ。
「ハリー=ポッター。俺様が何を求めているか、わかっているな」
さぁ、と促すヴォルデモートになんで僕なんだ、とハリーは呟き、震える手で寝間着を脱いでいく。当然寝間着なのだからその下は下着しかはいていない。
「殺すよりも面白いことを思いついたのだ」
だから、と視線で下着を脱げと促す。下着を脱ぎ、白肌を晒すハリーにヴォルデモートはくつくつと嗤ってナギニを巻き付け、ハリーの手を握り締めた。
ばちん、という音の後には静寂が残り、残された衣服と争った様子のない部屋に疑念が浮かぶ。
常ににらみつけ、屈服することのない強い瞳。あぁやっと手に入れた。手に入れた飽きることのない生きた玩具。
最初の問いで貴様は誰にも相談しなかった。それが敗因だ、一撫でするだけでピクリとひきつる肌を見下ろし、楽しげに笑う。来年もまた問いかけよう。さぁ次は何を求めてみようか。
体を女に作り替え、孕ませてみるのもいいだろう。男としての尊厳を失い、俺様との子を生した時、あの老いぼれが言う愛とやらをそれに与えることはできるのか。
あぁ実に面白そうだ。ではこの一年間、せいぜい俺様を楽しませてもらおうか。
トリックオア……
こんな幼子が使う言葉に応じる方が悪い
Fin
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