箱庭の夢

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 箱庭の夢を見た。
箱庭の主である少年は無防備にすべてを自分にゆだねて、疲れ切った心をいやすべく眠りについている。
箱庭の外に身体を置いてきた少年はぴたりと閉ざされた大きな扉を蔦で覆い隠してしまった。
 何処に扉があるか知っている自分は少年が安心して寝ている間にそっと外へと出る。
扉は自分にだけ通行を許していた。
傷でつながった影響か、苦も無く出入りすることができる。

 外では小鹿の生首を手にした男がいた。もう鹿は動かない。
なぜならばそれは人形だからだ。
動くはずはない。
「小鹿を殺してくれてありがとう。」
 そう呼びかけると、男は驚いた様に顔を上げる。
「驚くことはないだろう?ハリーの精神が閉じこもった今、俺様がこの体を手に入れることができるのだ。」
 予想できたことだろう?というと男…スネイプは杖を突きだす。
その姿にいくらでも呪文を放てばいい、と笑って起き上がる。
魔法薬による栄養の補充と…体の検査と…。
その途中だったかとハリーは自分で服を直す。

 赤みを帯びた目の少年は見たことのない表情でくつくつと嗤い、杖の前に無防備に立ちふさがる。
「…我が君。」
「杖をつきつけながらそう呼んでも意味はないな。ハリーの健康状態を確認するついでに抱けなくて欲求不満か?」
 怒りと絶望と、恐れと驚きと…慌てて取り繕うとして失敗した表情でかすれた声でヴォルデモートを呼ぶスネイプに、ヴォルデモートは嗤うばかり。
 ヴォルデモートの指摘にスネイプは目を見開き、握った杖の先が震える。
「この体はハリーだ。痛みつけても俺様までは痛みが届かない。アバダであれば効果もあるだろうが…どうなるのだろうな。試してみるか?」
 にやりと笑うハリーにスネイプは何も言えず、杖を下ろす。
「ポッターの精神は…。」
「セブルス、お前達が殺したのだろう?ボロボロでもう嫌だと泣き叫んで俺様の腕の中に落ちてきた。だから俺様が水面に沈めて眠らせた。ばかばかしいほど静かな世界で眠るように死んでいる。」

 ヴォルデモートはお前たちの望んだ結果だろう?ダンブルドア、とスネイプの肩越しに視線を送る。
 いつの間に来ていたのか、部屋の入口にはダンブルドアとマクゴナガルが立っており、腕を組んで立つハリーを静かに見つめていた。
「未成年で明るく正義漢のある子供に無理やり心を閉ざす方法を教えるとはな。俺様との精神のつながりを危惧したのだろうが、やりかたがお粗末だな。」
 嘲笑うハリーはくるくると自分の杖を弄び、もう少し利口なやり方があるだろうにという。
「まぁいい。今日はどの程度体が動くか確認したかったからな。近いうちにこの体を迎えに来る。殺すか、しばりつけてとどめをさすか…。好きにするといい。」
 ヴォルデモートはスネイプの脇を通り、魔法薬の調合のために用意されていたナイフを呼び寄せて手に取る。
笑みをすっと消したハリーの喉に刃を向け、ヴォルデモートは活かすも殺すもお前達しだいだ、とそれだけいうとハリーの体を解放させた。
 とっさに手を伸ばしたスネイプは気絶したハリーの手からナイフをはじき落とすとそのままハリーを抱きかかえる。
「少し性急すぎたようじゃな…。セブルス、ハリーを連れてついてきてくれんかの。」


 一面の花畑の夢を見た。
静かな世界で眠るのはとても気持ちがよくて…ふと、目を開けた。
そばにいた蛇がいない。
ぶかぶかの黒いローブを羽織って花畑を歩くと大きな扉が見えた。
もう開けることはないと縛った蔦だらけの扉。
なのに、何故かその蔦が緩んでいる。
不思議に思って戸を押すと扉はわずかに開いた。
 怖いけれども、そっと顔を覗かせようとして…逆に誰かに掴まれて引っ張られる。
嫌だ、放して、中を覗かないで。
そう叫んで抵抗して…それでも引っ張る力は弱まらず、振り向けば花畑は醜い虫が食い荒らしていて…。

 急にひっぱる力が消えて、扉が轟音を立てて閉まる。
背後から目を覆い、抱き抱える低い体温に蛇が帰って来たと安どする。
 花畑の虫は蛇が全て踏みつぶした。
 だけどもう前の花畑じゃない。
 落ち着くように耳元でささやく蛇にほっとして目を閉じた。


 蟲の夢を見た。
静観しても何をしても心を閉ざした少年には届かない。
だからだろう。
彼を隠れ家から引き出し、精神を体に縛り付けて対話から治療しようと試みた。
すでに限界まですり減らしておいて何をいまさら。
抱き締めて、落ち着くように囁き眠らせる。
そろそろ迎えに行こうかハリー。
もう準備は整えた。







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