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昼食がそろそろ終わると言う時、次は何の授業だったかを確認するロンのうわーっという声にハリーは顔を上げた。
「げ!次スネイプの授業だ。」
いつもなら週末の午後はスプラウト先生の薬草学なのだが、突風で暴れ柳や温室の一部が傷つき、急きょ予定変更となったらしい。
今日だけは罰則を受けないようにしないと、と焦るハリーは不快な思いをさせないようにと祈るような気持ちでパンを噛みしめる。
陰湿な地下への階段を下り、暗い部屋に入るとちらりと時計を確認する。
程なくして時間きっちりにかつかつと靴音を鳴らしながら入ってきたスネイプに全員の視線が向けられ、ピリッとした雰囲気が教室を包みこんだ。
「教科書89ページを開きたまえ。ポッター!イラクサを煎じる時の注意点を述べよ。」
ぼんやりとあの人のことを考えていたハリーは不意打ちをくらい、頭の中が真っ白になってしまった。そんなハリーにスネイプが気がつかないわけでもなく、意地の悪い笑みを浮かべる。
「ポッター。我が輩の授業はつまらないので週末の事でも考えていたのかね?」
まずいとハリーは思ったが、焦ったあまり頭の中が、真っ白になってしまってぐるぐるとイラクサの取り扱い方と考えた。
「わからないのかね?名ばかり大きくなるだけで知識のほうはまるで成長しないと。」
罰則…ハリーの頭をぐるぐるとその単語だけが回る。ふと、声が聞こえたような気がし、はっとその声に耳を傾けた。
「え~~と。イラクサを煎じるときは刺に注意し、量は緻密に計算し、0.1ですら間違えてはいけないと、鍋にくわえる時必ず火からおろす…ですよね?」
罰則を言い渡そうとしたスネイプの顔が強張る。
ざまぁみろとハリーは思った。
スネイプはハーマイオニーが教えたんじゃないかと彼女を見たが、ハーマイオニー自身びっくりしているようだった。つまり、彼女が教えたわけではない。
「なるほど。ポッター。ちっぽけな脳にもようやく中身が入ったということか。」
ほっとしているハリーに眉を寄せると忌々しげにわかっているようでなにより、という。
鍋をかきまぜながらハーマイオニーはすごいじゃないと言う。
「ハリー、頭の中真っ白になっていたようだったから…心配したのよ。しっかり勉強していたのね。あれだけすらすら言えたんだもの。」
「あ~…ちょっとね。」
よかったわ、というハーマイオニーにハリーは笑うと、ありがとうとそう強く心の中で呟く。ほっとした感情が流れ込んできてハリーは嬉しそうに笑った。
その様子にロンとハーマイオニーは例の恋人かなと顔を見合わせる。
「ますます気になっちゃったよ。ハリーの恋人。」
「だから違うって。」
「あら。じゃあハリー、今度会わせてよ。直接でなくとも三本箒で待ち合わせしてでもいいから。」
くすくすと笑うハーマイオニーにハリーはうっかり一つづつ入れるトカゲの尻尾を全部一度に入れてしまった。幸い、スネイプはマルフォイを誉めるのに忙しく、気がついてはいない。
「だっだめだよ!!!あの人、ぼ…(僕以外の)他の人と会うのが好きじゃないんだ。それに…あっても色々話したり…(寝る前に)勉強教えてもらうだけだから。」
ハリーの一言一言の裏に隠された言葉など知らず、ハーマイオニーは残念そうにそれなら仕方がないわね、と笑う。授業が終わり、夕食をものすごいスピードで詰め込むハリーにロンとハーマイオニーは驚いた様に見つめて顔を見合わせる。約束の時間までまだ時間はあるが、早くいく事に越したことはない。
恋人によろしくね、と優しく見送る二人にハリーはおやすみ、と声をかけると寮まで一気に戻った。
まだ誰もいない談話室を突き抜け、部屋に飛び込み透明マントを被ると、再び廊下に飛び出し、校庭を急いだ。
透明マントのお陰で誰にも知られずに暴れ柳のコブに触れると中に滑りこんだ。
叫び屋敷…昔はルーピン先生が満月に使っていた屋敷であったが現在は誰も使っていない。
しかし、それでも誰も近づこうとはしない不気味な屋敷。中はかなり破損していたが、ハリーの待ち人の魔法により、人が住める環境にしたためとても居心地がいい。
ベッドに行こうかどうしようか迷ったあげく、ソファーに座る事にした。
しばらくすると隣の部屋から物音がし、扉が開いてすぐに閉じられた。黒いローブを被った長身で真紅の目に縦長の瞳孔を持った男が現れるとハリーは嬉しそうに息を吐いた。
「ヴォル、こんばんは。」
そう、誰であろうヴォルデモートその人である。音も立てず、滑るようにしてハリーの横に腰掛け、ダークグリーン髪をかきあげるとソファーに背を預ける。そのまま隣に座るハリーの細い腰に手を回した。
「ヴォルは昔首席だったんだよね?試験が近いんだけど…。勉強教えて?」
「どこだ?」
ようやく口を開いたヴォルデモートにハリーは微笑んだ。背筋がぞくっとするような声にも、前までは不快に痛んだ傷ももう慣れて気にならなかった。
「ここと、ここと、ここと、ここと…」
「…全部か。」
ペンで教科書に丸をつけるハリーの手を止め、腰にまわしていない方の手でざっと教科書の中を見る。
「こんなもの簡単であろうが。」
「それはヴォルが首席で成績優秀だったからでしょ。」
腰を引き寄せるヴォルデモートにハリーは覚えることたくさんありすぎて無理だよ、と口をとがらせると、ヴォルデモートは得意げに目を細ませる。
「あぁ。ホグワーツ始まって以来の秀才だからな。」
「じゃあなおさら。教えてもらうまでキスはお預けだよ。」
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