秘密の恋人
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「ナギニ、今宵は用事がある。死喰い人にも伝えておけ。」
「かしこまりました。例の用事ですね。」
私、ナギニは精一杯の笑顔でご主人様を見送った。
復活してからと言うもの、外出が多くなったわね…。しかも大体が次の日の夕方帰り。でもまさか、ご主人様が恋人をつくるわけがないし、いたらいたでぜひともその相手の顔を拝見したいわ。どんな物好きかまったく検討もつかないものね。
「ハリー。あなた最近ちょっとおかしいわよ?週末にこそこそ出かけたりして…。」
「もしかしてハリー。君、恋人でもできたの??」
ハーマイオニーの言葉にハリーは飲んでいたカボチャジュースにむせる。興味深々なロンは咳込むハリーの背を叩きながら誰だろうと、以前ハリーが好きだったらしい人の顔を思い浮かべる。
「チョウ・チャンはハッフルパフの奴と付き合っているし…。誰々?」
「ちっ違うよ!!!!別にちょっとした用事だよ。」
どもりながらも否定する姿に説得力はない。楽しそうなロンはうーんと言いながら大広間を見渡す。
「怪しいわね。ねぇハリー、明日暇でしょ?試験近いし図書室で勉強しましょ。」
「ごっごめんハーマイオニー。僕用事があるんだ。」
勉強しなきゃと言うハーマイオニーに、ハリーは慌てた様子で誘いを断る。今夜は久々に会えると、ヘドウィグが内緒の合図をもって来たのは朝の事。試験に向けての勉強は大切だが、彼に合う貴重な時間はもっと大切だ。
「それにその人、元首席だったから教えてもら…あ。」
うっかりと人と会う用事だということを口走ってしまい、ハリーは口をつぐんだ。
「首席だった人!?誰だろう…。パーシーは違うし…ってか男だから…。首席首席…あ~~~もう!わかるわけないじゃないか!!!」
ロンはお手上げだとばかりに肩をすくめ、ハーマイオニーはおかしそうに笑っている。
「ハリー、年上の女の人が好きだったのね。」
「べっ別にいいじゃないか!それより早くしないと魔法史に遅れるよ。」
ハリーはむすっとした表情で追求される前に教室へと足早に入っていった。
今日会う人が誰かなんて言えるはずがない。
(言える訳ないじゃないか!今夜会う人なんて…絶対に想像できない人なんだから!)
ハリーが早く会いたいと思えば思うほど時間の進むスピードは落ちているかのようだ。
苛立ち、本日何度目かの舌打ちをしているとロンが小突いた。
「ハリー。さっきから何をいらいらしているんだよ。」
「時間がすぎるのが遅いから。」
じりじりと時間が進むのにハリーはいら立ちを隠せない。ハーマイオニーは呆れたようにため息をつく。
「何言っているのよ。いつも通りの時間よ。」
ほら、ちゃんと書き取らないとと言うハーマイオニーに言われて渋々ペンを手にとるハリーは余白に"あの人"の象徴である蛇の絵を描く。
「なんだいこれ?蛇?」
いつの間にか覗き込んでいたロンがハリーの書いていた落書を見るなり言った。お世辞にも上手いとはいえない、とハリーは耳まで真っ赤にし、慌ててペン先でぐちゃぐちゃと見えないようにするが、まだ蛇の姿が見えるような気がしてかぁっと顔を赤らめた。
「見ないでよ!そうさ、蛇だよ。」
「でもハリーが蛇を書くなんて…。パーセリングでもしたいの?」
終わりの鐘が聞こえ、早く片付けるハリーにハーマイオニーがくすくすと笑う。
「あ、もしかしてハリーの恋人、元スリザリン生だったして。」
ロンの言葉にハリーは思わずギクリと肩を揺らした。そう、あの人は生粋のスリザリン生だ。あの人が他の寮生なんてことはありえない。あの人はスリザリン生になるべき産まれたようなものだ。純血で最も有名な一族の末裔。そして本来はハリーの宿命の敵。
ふと、ハリーの傷跡が痛んだ。それと同時にハリーとは違う別の感情が流れ込んでくる。
それがどんな感情なのかを理解しているハリーは嬉しさに顔を綻ばせた。
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