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 そこにあらどうしたのかしら、という声と共にポンフリーが戻ってきた。カーテンの前にいるロンに尋ねて……どういうことかとカーテンをめくり、途方に暮れたように座ったハリーと、宥めるハーマイオニーを見た。

「大階段で上から降ってきた魔法薬と……何かがぶつってハリーに降り注ぎました。そのまま霧のようなものがハリーを包んで……」
「それでこうなってしまったのね。落ちた魔法薬の一部を保存しくれて助かったわ。聖マンゴ魔法疾患病院にこの魔法薬の一部を送って原因の特定の依頼を出しますが……。あぁマクゴナガル教授、今状態を確認しました」
 扉の開く音とカーテンをめくってきた人を見てポンフリーはどうしましょうという。

「事の顛末は魔法薬を落とした生徒と、周辺からの話で大方は理解しました。今のミスターポッターの状態からも。困ったことに、スネイプ教授が明日から4日間、国外で行われる魔法薬学の会合に出席するため今朝出てしまいました。聖マンゴ魔法疾患病院で薬が調達できればいいのですが……」
 放心状態のハリーを横にマクゴナガルとポンフリーはどうしたものかと話し合う。ひとまずは体に……性別が変わったこと以上の変化がないことと、明日以降の授業のこともあり……制服を用意しましょうと結論付ける。しばらく医務室に居ればいいのではないのか、と顔を上げたハリーだが、深刻そうなマクゴナガル達の顔からとんでもないことが起きたことを察した。

「落ち着いて聞いてくださいね、ミスターポッター。1つ目の魔法薬は固定化を行うものだったそうです。もともとは氷像に使う予定だったそうですが、もう一つの……どうやらピーブズが見つけたという誰かの悪戯の魔法薬と混ざったようです。試しに使ったというミセスノリスを確認しましたが、すでに効果が切れていたため何の魔法薬だったのか……」
 だがもう戻っているはずの時間になっても戻っていないことから、いつ戻れるかわからないという。少なくともスネイプが戻ってくるまではわからず、病院で解決すればいいのですがとポンフリーも困った顔をしている。

「ひとまず何か服を用意して、一度精密検査をしに行きましょう」
 ぽかんとするハリーを置いて、ハーマイオニーが私の服もってきます、という。外で待っていたロンと共に去っていく音を聞いて、ハリーはぼうっとして視線を下し……目の前に入りそうになった胸に慌てて視線をさまよわせた。

「ミスターポッター、あなたは今女性の体になっています。身なりには気を付けるように」
 杖を振ってタオルをワンピースのようにするとハリーの体を包み込む。もう何が何だかわからず、呆然とするしかない。

 今まで履いていたズボンはなぜかお尻が入らず、入っても今度は腰回りがゆるく……念のために持ってきたというハーマイオニーからズボンとシャツを借り、着替えたハリーはポンフリーと共に聖マンゴ魔法疾患病院へと向かった。


 ハリーが再び放心状態で戻ってきたのは、ロンとハーマイオニーによってマクゴナガルが用意した個室が整えられた頃であった。どんな検査をしたのかわからないが、放心状態で戻ってきたハリーは促されるままに座って、魂が抜けた顔で虚空を見る。その様子にロンは気の毒そうな視線を向け、元気出せよと声をかける。

「困ったことに、外見だけでなく完全に女性になっている、という事が結論です。それと、魔法薬に関してはこれから詳しく検査するとのことですが、生徒の作った魔法薬と、正体不明の魔法薬が複雑に混ざりあったことと、霧状になったことが原因で多くの成分が失われてしまったようです」
 いつ戻れるかはわからない、というポンフリーにマクゴナガルはため息をつき、この部屋を用意してよかったという。ハリーの荷物を持ってきたロンは女の子になったハリーにどう接すればいいのかと迷う風で、声をかけた後はどこに視線を置けばいいのかとちらちらと視線を向けるにとどまる。

「ミスターポッター。また明日話し合いましょう。女子寮に入るわけにもいきませんし、まして男子寮というわけにもいきません。ですので、しばらくはこの部屋を使うといいでしょう。生徒の作る魔法薬にトラブルにはスネイプ教授が慣れていますし、何か解決策を見つけるかもしれません」
 授業を受けられるようであればそのまま受けても問題はないでしょう、というマクゴナガルは心配げなハーマイオニーとロンを促し、そっと部屋を出ていく。
 一人残されたハリーはきっと悪い夢だし、大丈夫だ、と言い聞かせて部屋の中に備え付けられたシャワー室に入り……声にならない悲鳴を上げる。そうだ、夢じゃない、と胸に手を置き……うわぁと声を上げて、恐る恐る下半身に手を伸ばす。
 トイレに行くとき必ず触れていたものはなく、シャワーもそこそこにタオルで拭いて……何を着よう、とカバンの中を漁った。女の子の服なんてもちろん持ち合わせておらず、仕方なくいつものパジャマを着てどうしようとうつむいた。
 胸元がきつい。女の子の胸なんて基本的に気にしたことはないが、これはどう思えばいいのか。大きい……のだろうか。わからないハリーはもう寝るしかない、と目を閉じる。きっと朝には魔法薬の効果が切れて全部元に戻って……。


 翌朝、目を覚ましたハリーは胸元の重みに夢じゃなかった、と唖然とし……とにかくハーマイオニー達に会いに行こうと制服を身に着ける。パジャマのように生地が緩かったおかげかきつかったにはきつかったがいくらか余裕があったというのにワイシャツだけはそうもいかない。
 持っていた下着のシャツを着るのもできず仕方なくワイシャツを着てローブを羽織る。
 
 少し朝早かっただろうかと大広間に行くと珍しくマクゴナガルの姿はなく、まだハーマイオニー達もいない。あれ?と考えて座っていると向かいの席に座っていた男子生徒がじろじろとハリーを見る。
 きっとあの時の騒動でハリーが女の子の姿になったことは広まっていたのだろう。珍しいものを見るような、何とも言えない視線に居心地が悪くなって席を立ち、グリフォンドールに向かう事とした。それにしてもじゃまだな、と思う胸元にため息をつき、肩が痛いと大きく腕を回した。

 ぶつっ、という音に何が起きたかわからず、目をしばたたかせるとたまたま大広間に向かっていた生徒……主に男子生徒がハリーを見る。え、と見下ろしたハリーは声にならない叫びをあげてどこにとも考えずに走りだす。
 ボタンが飛んでいったらしく胸元はほとんど見えている。下着もつけていないのだから……完全に胸そのものが見えている。そこにやっと見つけたハリー!という声に胸元を抑えていたハリーはたっと駆け出し……揺れる胸元に悲鳴を上げる。

「下着類何もないから部屋に行ったのに、もういないから探していたのよ」
 あぁもう、とレパロと唱えてシャツを直すとハリーに割り当てられた部屋へと向かっていく。入口にはマクゴナガルがいて、大広間前の騒動を聞いたのか大きくため息を吐いていた。
 中に押し込められると、どれくらい必要になるかわからないから、とブラが並べられてハリーは動きを止めた。ぎこちなく動きながら二人を見れば当然です、と言われてしまって返す言葉もない。

「下は一応今までのを履いていても大丈夫だと思うけど、上は持っているわけないし、シャツだってないでしょ」
 今だけでもつけなきゃ、というハーマイオニーに一応健全な男子であるハリーは未知の物……それこそ初めてみた魔法生物を相手にする気持ちで少し派手なそれを見る。

「あなたの大きさではあまり簡素なデザインのものがなかったのです。少々派手ですが、この上にインナーを着れば大丈夫でしょう」
 少し大きめだ、というマクゴナガルにハリーの口から再び魂が飛んでいきそうになる。さぁとりあえず脱いで、とあっという間にシャツを脱がされたハリーはちゃんとつけ方を覚えて、と後ろ手にホックをつける練習をさせた。
 拒否しても先ほどのことを思い出してしまうハリーは素直に従うしかなく、何とか一人でつけられるようになるまで練習を重ねた。

 インナーも今までのより緩やかなものになり、シャツも多少動いてもボタンがはじけないことを確認する。ズボンは少し大きめのものにすれば問題はないとなって……腰回りが緩くなった影響でベルトに新しい穴をあけざるを得なかった。

「トイレは……誰もいない隙を見て男子トイレの個室を使うしかないわね。一応ほかの女の子らはハリーが男の子だって知っているし……」
 いい?男子と二人っきりにならないようにね、というハーマイオニーにどうしてだろうと首をかしげて頷く。朝食をそのまま部屋でとり、ハリーとハーマイオニーは授業へと向かった。
 魔法薬学はスネイプが不在のため休講で、その分を見越して出された課題を図書館で片付ける。
 胸が邪魔と悪戦苦闘していると妙に人が通りがかる気がして、ハリーは顔を上げた。うんうん唸るロンではなく男子生徒らは明らかにハリーを見ている。今朝の失態を思い出すハリーは顔を赤らめて羊皮紙をじっと見つめた。






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