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「先生とね、僕…恋人なんだけど…。先生はあまり僕のこと好きじゃないのかな。」
 うつむきながらぽつりとつぶやくハリーにスネイプは怪訝な顔をする。いったい何を言い出すのかとじっとハリーを見上げた。
「前に…その…抱い…えっと。とっとにかく、朝になってからね…なんか先生よそよそしくなって…。多分僕が子供だからかな。途中で寝ちゃったから呆れたのかも。ただでさえ先生の好きにしてって迫ったのに…。」
 猫を抱きながらつぶやくハリーにスネイプはますます意味が分からないと眉間にしわを寄せた。
 ハリーが言わんとする話に心当たりがないわけではない。

 体を合わせるのが初めてだったわけじゃない。
 想いが通じ合った時、ハリーの体を気にしながら丁寧に交わった。そのあともそうだ。
 ただ、ハリーは自分が抑えていることに気が付いていたのか、あの日はものすごく誘惑してきた。
どこで覚えたのか子供じみてはいたが精一杯本気を引き出そうとしてきた。
 それを理解したうえで抑えようとして…ハリーの誘惑に陥落してしまった。
 ハリーの息を塞ぐように深く口づけ、甲高い喘ぎ声を出してもらえるようハリーが反応する個所を執拗に攻め続けた。
 淫らに蠢く中に夢中になって、どこにそんなにあったのかと自分でも驚くほど注ぎ入れた。ふと気が付けばハリーは行き過ぎた快楽に意識を飛ばし、かすれた喘ぎ声だけを上げ続けていた…。
 いったいどれほど前に気絶したのか気が付けないほど夢中になっていた自分が怖くて…冷めない熱に動く体が止まらなかった。
 声を失った喘ぎ声をあげ、揺さぶられるがままのハリーにどろりとした劣情が沸き上がり、このまま抱きつぶしてしまいたいと…危険な自分が顔をのぞかせていた。
 このままではハリーが危険だと、この醜い内側が知られてしまうのが怖くて必要最低限の接触だけにとどめるようにはしていた。
 
 まさかそれが最近見せる憂い顔の原因か、とため息がおぼれる。
 あのひどく抱いたあとからというもの、ハリーが隣にいるとまた味わいたいと、おのれの闇の部分が持ち上がるのを抑えようと減欲の薬を飲んでいた。
 反動で少し集中力が散漫になりがちになったが、これまでは害はなかった。
 ハリーが原因ではなく、あの抱き方そのものがおかしいのだと、あれはもうやってはならないようなもので、決してハリーが幼いからとかそういうのはない。


「先生だって…こんなすぐ気絶する身体じゃ…。」
 はぁ、とため息を吐くハリーに聞いてしまったスネイプとしては何も言えない。
「先生、まだ戻ってこないかな。…こんなこと言われても意味が分からないよね。ごめんね。でも僕も誰かに相談したかったのかな。こんなにしゃべっちゃって…。まさか先生何処かで聞いていないよね。」
 すっきりした、というハリーに確かに、なぜあったばかりの猫にそんな話を…とスネイプは眉間にしわを寄せる。
最近、何処か悩んでいる風のハリーだったが素直に話してくれなさそうな気配に、真実薬ほど強くないこの魔法薬を生成することにしたのだ。
 だがそれもまさか失敗して自分が猫になってしまうとは、と肩を落としたスネイプは待てよと首を傾ける。
もともと作ろうとした魔法薬は胸のうちに潜めた悩みを打ち明ける…そんな効果があるものだ。
 まさか、とハリーを見上げるスネイプはあの魔法薬の書いてあった本を隅々まで思い出す。
そういえば挿絵になぜか猫が描いてあった。そして喋りだしたのは自分を抱きしめ、首元に顔を埋めた後だ。
誰が作成したレシピかわからないが、してやられただけで生成に間違えはなかったことに思わず尻尾が揺れ、そのまま伸びてハリーの唇に重ねる。

 猫がじゃれついてきたハリーはくすくすと笑おうとして、噛みつくような口づけに目をしばたたかせた。
そのまま押し倒され、ハリーは突然現れたスネイプを見上げる。
「最近何を悩んでいるかと思えば…。」
「せっ先生!?え、さっきの猫は…えぇ!!!」
 状況が理解できずに混乱するハリーをスネイプは見下ろして首筋に口づけ痕を残す。
ハリーが来る前に…もしかしたら早く来るかもしれないと早めに飲んでいた減欲の薬はもう効果が切れている。
それに堪えることなどできない。しなくていいと本人から許可を得たばかりだ。
「我輩の欲深さを分かっていないのだ。」
 わからせてやろう、と不敵に笑うスネイプにハリーはぶるりと背を震わせた。
直感でわかるのはスネイプの“いらぬスイッチ”をこれでもかと強く押してしまったということ。
 あの拙い誘惑で誘い、覆いかぶさられた時以上の熱が黒い瞳に見え、その視線だけでハリーは体が熱くなった気がしてため息を零した。






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