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 はっと目を覚まし、時計を見ればもう昼食の時間だ。慌てて寮を飛び出し、昼食をとる。
 そこにスネイプの姿はない。
 やっと課題が終わったのか、それとも効力が切れて解放されたのか、ロンの姿を見てやぁ、と声をかけた。
「ハリー、君なにしたんだよ。いきなりあの二人が邪魔もせずそれどころか課題まで手伝ってくれて…助かったけどさ、何があったんだ?」
 ハーマイオニーはまだ図書室にいるらしく姿はない。
 ロンの疑問にこたえたいハリーだが、嫌味を言われたくないとサンドイッチをかきこんだ。
「説明したいんだけど、さっきスネイプにいちゃもん付けられて、これから行かなきゃいけないんだ。ハーマイオニーが知ってるから彼女に聞いて。」
 ミルクでパンを流し込むハリーは肩を竦めて見せるとロンの気の毒そうな声がそれに答える。
「なんだって休日に…残りの課題、フレッドたちのおかげで終わったからあとで見せてやるよ。」
「ありがとう。それじゃあ行ってくる。」
 腹を満たしたハリーはまたあとで、と言い残して大広間を出ていく。

 急いで教室へとやって来たハリーは息を整え、ノックをする。
中から入れという声が聞こえ、早く済むといいな、と教室へと足を踏み入れた。
「先日のレポートだが、まるで別人が書いたかのように実によくできている。だが実に惜しい。スナップドラゴンの種は10gではなく20gだ。このことについて参考にした誰かは何か言っていなかったかね?」
 羊皮紙を手に持つスネイプにあっとハリーは声を上げそうになって、慌てて僕の勘違いですと首を振った。
 ハーマイオニーに自分でやってと怒られた後、ルームメイトたちと顔を突き合わせて書いていた。
 それでも終わらなくて、ハーマイオニーに泣きついて…その時渡されたメモが10gだった。
 大喜びでみんなで書き写して…ハーマイオニーに言われたのだ。
 丸写ししていないでしょうねと。
 材料の一部書き換えていたの、気が付かなかった?と。
 そんなわけないよと首を振ったところで…後で再チェックしようとしたのを忘れていたのだ。

「なるほど。グリフィンドールの男子生徒はみな10gだと記憶していたと。」
 みんなも直してなかったのか、と自分を含め呆れるハリーは言い訳の仕様もないとうなだれた。
このままでは確実に減点だろう。
と、そこでポケットの重みにはっと目を見開いた。
今この場で使えば…減点は免れるかもしれない。
正直後が怖いのと、どれだけ記憶に残ってしまうのかが恐ろしい所だが、その時の怒りの矛先は自分だけになるはず。
 親切心で-試すようなことをしたけどあれは自分たちが悪い-教えてくれたハーマイオニーにも評価に悪影響が出るかもしれない、それだけは避けなければならないとポケットに手を入れた。

「そのポケットに入れているものは何かね?」
 どうやって渡すべきか…迷うハリーにスネイプの声がかかる。
もうイチかバチかだ、と黒い卵を取り出した。
「ただのイースターエッグです。」
 数日後のイースター。その練習だと言ってしまえばいいと、スネイプを見返した。
気になるならどうぞ調べてくださいと差し出すと、意外にもスネイプがそれを受取ろうと手を動かした。
「先生はずっと僕が嫌いなんですよね。」
 手の触れる瞬間、相手に聞こえるように告げると、顔を見ていられなくて目をそらし、手から卵の感触が消えたことを、感覚だけで知った。

「ポッター。」

 やけに近い位置から声が聞こえる、とスネイプに向き直ったハリーは視界を埋め尽くす光景に驚いて目を瞬かせた。
 ゆるく抱きしめる手はハリーを逃がさないよう後頭部を抑えるようにしていて、もう片方の手はハリーの腰元を抱き寄せている。
 確かに、“スネイプはハリーが好き”と嘘を言ったはずがこんな展開になるとは思っておらず、抱きしめられ、口づけをされるのを戸惑いなが…その事実に顔を赤らめた。
 いつから、とかいつの間に、とか自分でもはっきりしないうちにスネイプに焦がれていた。
 でもスネイプは自分を完全に嫌っている。
 だからたった数時間だけでも、仲良くなれたら、と思っていたのに性急すぎる展開に頭が付いてこない。
 ただ、角度を変えて口づけられるとそれだけで力が抜けて、思わずスネイプに縋りつく。
 促されるようにちろりと唇が舐められ、恐る恐る開ければするりとスネイプの舌が入り込んでより深くなる。

「あまり言葉にするのは苦手でな。嫌であれば今すぐ離れるといい。」
 すっかり足腰に力が入らなくなったハリーを抱きしめて耳元に吹き込む様に囁く。
嫌なら離れるよう促しながら、放すまいと抱きしめる腕の力を強める。
自分が付いた嘘がここまで効力があるのかと、焦るハリーだが、混乱から戻る前にもう一度口づけられ、思わず力が抜けてスネイプから与えられる口づけに夢中になった。
 とろんと力を抜いて抱きしめられるがままのハリーの頬を撫で、スネイプは屈むと細い首筋に唇を落とす。
 ピリッとした痛みにぼんやりしていたハリーの頭がはっきりし、慌てたようにして飛びずさる。
 そのまま下がろうとして、足がもつれて転ぶと、スネイプの目が一瞬妖しい光を放ったことに効果時間、と頭をよぎってスネイプが反応するより先に失礼します、と教室をあとにした。





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