| 
--------------------------------------------
 
 
 
 あのまま効果が切れてしまっていたら…そもそも効果が出ているときの記憶はどうなのか…もし記憶を持ったままであれば確実に息の根を止められると、早鐘のようにどきどきとなり続ける胸が痛い。
 そうだ、注意事項にあったではないかと、中庭に出て大きくため息をついた。
 もう一度説明書をとポケットを探ったハリーはどこに落としたのかないことに気が付いて大きくため息を吐く。
 こんなことならちゃんと読むんだったと、例のレポートのミスにも通じる不注意に頭を抱える思いだ。
 
 「ハリー。君もエイプリールエッグを持っていたとは…」
 「してやられたなー。」
 後悔の念が渦巻くハリーにフレッドとジョージの声がかかる。
 怒っているかと振り向けばニコニコと笑っている姿でほっと溜息をついた。
 「知ってたの?」
 「そりゃゾンコのお得意さまってやつで渡されたのさ。」
 知っていたのかと問うハリーにフレッドはもちろんと笑うとジョージが鮮やかなグリーンの卵を取り出して机に置く。
 どこか重量のある音を立てた卵に警戒するハリーは渡された瞬間嘘をつかれては困ると、二人と卵を見比べた。
 「あぁ、もうこの卵はダメだ。」
 「エイプリールフールは午前だけ。だからこいつはもうただの宝石と化してるのさ。」
 警戒するハリーにもう効力はないと笑ってフレッドが差し出す。
 ジョージの言葉に眼をしばたたかせたハリーは卵を手に取ってよく観察する。
 そういえばあの卵はもっと軽いはずだ。なのにまるで石のように重い。
 
 「あれ?説明書読んでないのか?」
 「一応読んだけどそんなこと書いてあったかな…。」
 首をかしげる二人は顔を見合わせてポケットを探り始めた。
 「ジョージ、俺が持ってた。ほら、これさ。」
 「そういえば最後に見ていたな。ほら、ここだ。」
 ずいっと渡された説明書はハグリッドから来たものと全く同じだ。
 一部を除いて。
 「え、この下続いてたの!?」
 “節度を持ったエイプリールをあなたに”と書かれた行の下にもう一段折りたたまれた一文があった。
 そんなものがあった記憶はないため、もしかしたら切れてしまったのかもしれないと、そう思って…思わず固まる。
 「エイプリールフールは午前中だけだからな。さっきハーマイオニーにもう一つあるって聞いてたから…。」
 「使い切ったのか?」
 持ってないみたいだけど、というフレッドにハリーは笑って返すともう一度その一文を睨むように見つめた。
 
 ~エイプリールフールは午前中。もしそれを過ぎてなお嘘を吐けなかった正直者の優しいあなた、そんなあなたに敬意を表して宝石になった卵をプレゼントします!たまにはユーモラも必要だぞ!~
 
 スネイプに卵を使ったのは…昼食後であって、ぎりぎり効果時間だったのか。
 そもそも煙が出ていなかったような気がするが効果はなかったのか。
 じゃああのキスは…。説明書を片手に顔を真っ赤にするハリーに二人は顔を見合わせてこりゃしてやられたんじゃないのか、と肩を竦める。
 「もしかしてハリー。午後に使ったんじゃないのかい?」
 「しかも、これの効果を知っている奴に。」
 ぱくぱくと口を動かすハリーに嘘を吐いた相手が一枚上手だったんだなと、頭を撫でる。
 居た堪れなくなり、その場を逃げ出すハリーは頑張れよーと笑って送り出す二人の声を後ろに走り去った。
 向かう先は…。
 
 
 かさりと、紙を開くスネイプはちぎれた後を指でなぞり、先日出回ったこの卵の説明を思い出す。
 ことりと置かれた卵型の石はブラックオニキスだろう。彼は知らずに魔除けの力があるという石を手放したのだ。
 ハリーと昼前に会った時、手に持った卵にもしやと思い、ポケットから落ちた説明書を拾って確信した。
 まさか自分に使うとは思っていなかったが、これを自分に使う意味に内心驚いて…すでに効力を失った石を隠し、顔を真っ赤にするハリーに口づけた。
 魔除けを手放した今、狡猾な悪い大人にからめとられても文句は言えないだろう。
 向こうからぶつかってきたのだ。
 本当の卵は隠していた自分と違って自分の持つ卵をぶつけてきたハリー。
 イースターエッグは割れて、中から隠されたものが現れた。ただ、それだけのことだ。
 ぶつかった相手が、その中身の意味を理解するものであったということだけ。
 
 今頃気が付いただろうか。自らぶつかってイースターエッグに隠していたものが飛び出してしまったことに。
 扉の前に気配を感じて、口角が上がったことを自覚する。
 石と説明書を羊皮紙で隠し、ノックの音を待つ。
 ほどなくして響くノックの音がイースターエッグにぶつかる音に聞こえて…さてどのような顔で迎えるべきか、扉を見つめる。
 トントン、とどこか遠慮がちな音に緊張した声で名乗り上げる彼を、先にひびを入れて中身がこぼれ出た彼を。
 今度は自分持つ卵で迎え撃つべきか、それとも教師としての卵で迎え撃つべきか。
 
 ガチャリと開いた音はどの卵が割れた音か。
 顔を赤らめたハリーを内にいれた殻は静かに閉じる。
 エイプリールフールについた嘘は午後に種明かしをするのがマナーだが、スネイプが付いた嘘は気づかれることなく、二人の口の中に溶けて消えた。
 
 
 
 
 ~fin
 
 
 
 
 |