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「もしかしてまたドラゴンの卵じゃ…。」
大きさは普通の卵だが油断はできないと、警戒するハリーとハーマイオニーにハグリッドは慌てて手を振る。
「手袋買った時に抽選でな。当たった卵で生きちゃぁいない。これはえーっとどこだったか…あったあった。えーっとエイプリールエッグというものだそうだ。」
よれよれの紙を取り出すハグリッドは詳しくはこれを読んでくれとハーマイオニーに差し出した。
「えぇっとなになに。エイプリールエッグ。嘘を本当にする魔法グッズです。効果は数時間。例えばあなたがお前は豚じゃなくて人間だというと、効果が続いている間相手は豚の真似をします。ただし、あくまでもジョークアイテムのため、大金を手に入れた、相手の地位を貶めるような事、生死にかかわる事など途方もない嘘はかないません。そして最後に注意事項。くれぐれもこれをもって好きな人に告白なんてしちゃいけませんよ。節度を持ったエイプリールをあなたに。ですって。」
赤に白い帯が描かれた卵を持ち上げるハリーにハーマイオニーが読み上げる。
そうか、そういえば今日はエイプリールフールじゃないかと、いまさらになって思い当たり、二人は顔を見合わせて笑う。
「面白そうね。でも残念だけど私は何も思い浮かばないわ。昔からあまりこういうジョークを言うのは苦手なのよ。二つともハリーに渡すわ。」
まるで夜の空を切り取ったかのような黒を下地に白い雲のような模様の卵を手に取るハーマイオニーは渡すわね、と手渡す。
「使い方は嘘を言う相手と自分の間に卵があるように卵をもって、はっきり言うこと、ですって。それで卵を相手に渡すの。ね、私には無理そうでしょ。」
渡すところまでがワンセットだといわれ、ハリーとしてもどうしたものかと笑う。
使い方の紙を受け取ったがハーマイオニーが読み上げた以上のことは書いていないようだ。
とっさに嘘なんて思いつかないハリーはそれをポケットに入れてハグリッドに礼を言う。
「俺はどうにもすぐウソがばれるし、いいものが浮かばないからできる人が持っている方がええ。さて、俺はこれからファングと一緒に森の見回りだ。何か面白く事が進んだらあとで教えてくれや。」
時計を見たハグリッドはこんな時間かと立ち上がり、ポケットにいろんなものを戻したコートを羽織る。
ウィンクするハグリッドにどんな嘘をつこうと笑い返すハリーはロンはさすがに可哀そうかなという。二人もハグリッドに続いて外に出ると、きぃつけてなという声に見送られ城へと戻った。
談話室では朝とは違って目をギラギラさせたロンが何だか目が覚めちゃったと二人を出迎える。
…その背後にいるフレッド達にまた何かされたな、と顔を見合わせてそうだと卵を取り出した。
「これ、ハグリッドからもらったんだ。これから二人はロンが課題をするのを手伝ったりせず邪魔ばかりするよね。」
二人にあげると、赤い卵を二人の手のひらへと手渡す。
同時に触れた二人はハリーの言葉に首を傾げ…卵がひび割れるとポンと音を立てて赤い煙が二人を包む。
「よし、ロン。課題手伝ってやるぞ。」
「そうそう。さっさと持って来いよ。」
二人そろって態度をがらりと変えたことに談話室にいたほかの生徒がエイプリールフールだからか?と二人の行動を不審に見つめる。
「こういう嘘もありだよね。」
「そうね。たまにはこんな兄弟でもいいんじゃないかしら。」
くすくすと笑うハーマイオニーは驚いているロンをせかす二人にいいことじゃないという。
ハリーもまた平和的な使い方しか浮かばないと黒い卵をポケットの中でなぞった。
ハーマイオニーはこれから図書館だというので、中庭に行くハリーはベンチの腰かけ、黒い卵を空に掲げる。
「嘘か…。こんなに効果あるなら…あれもできるのかな。」
卵は鈍く光って、本当の卵より軽いかな?と軽く握りこんだ。
「こんなところで何をしているのかねポッター。」
ポケットにしまおうとしたところで突然声をかけられ、あたふたと立ち上がる。
考えていた内容だけにじっとうかがうように見つめてくるスネイプを直視できない。
明らかに挙動の妖しいハリーに眉を顰めるスネイプは何か怪しい所はないか、じっと見つめた。
あたふたとするハリーを見れば何か考えていたらしいことは一目瞭然だが、もうじきにあるイースターにちなんだグッズを持っていることで減点するわけもない。
「先日のレポートのことで聞きたいことがある。昼食後地下教室に来るように。」
くるりと踵を返すスネイプの言葉にハリーはえっ、とその背中を見つめた。
どうせまた難癖だろうと、せっかくの休日が台無しになったことにため息をつき、わかりましたと答えた。
気持ちのいいはずの風が何だか味気なくなったハリーはポケットに手を入れ…卵を軽く握る。
どうせ一方的に憎まれているなら今更それが増えたところで何も起きないだろう、とスネイプが消えた扉を見つめた。
眠いながらに書いた課題がちゃんとできているか、それを確認するため談話室に戻ったハリーはまだ効力が効いているらしく、弟を見る兄二人の姿になんだかおかしくなって自室へと戻る。
だらだら過ごすのももったいないのだが、呼び出された以上このだらけた時間も貴重だと、寝台に横になるハリーは少し寝ようと目を閉じた。
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