嘘つきの卵

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かつんこつんと、そんな音が聞こえてぼんやりしていたハリーはぶんぶんと頭を振った。
昨日、どうしてもレポートが終わらなくて必死になって取り組んでいたせいだが、せっかくの休みをだらだらとしてはダメだと、先ほどの音が何かを首を巡らせた。
音の出どころはなんてことはない、隣に座るハーマイオニーが茹で卵の殻をたたく音だった。
「だからもっと早くに取り組みなさいっていったじゃない。」
 ハリーの眠そうな顔に時間はあったでしょと中身を掬って食べるハーマイオニーは今日は何しようかしらと大広間の天井を見る。とてもじゃないが部屋の中でじっくり課題をやるにはもったいほどの健やかな空にハリーはどうしたものかとため息をついた。
 とりあえずこの眠い頭をどうにかしないと、課題に取り組んだとしてもすぐに寝てしまうだろう。
「ハグリッドの所に行ってこようかな。昨日ダイアゴン横丁に良くて行ったから何か新しいお店とか話があれば聞きたいし。」
「そういえばそんなこと言ってたわね。私も行っていいかしら?」
 ボロボロになった作業手袋などを魔法で直すのではなく思い切って一新してくると言っていたハグリッドを思い浮かべるハリーにハーマイオニーもまた外に出たいらしく、食べ終わった殻をスタンドに載せた。
 もちろんだよというと、ちょうど瞼をこすりながらロンがやってきた。
彼もまた、課題のせいで寝不足だ。
「おはようロン。私たちこれからハグリッドの所に行くけど行かない?」
「あー…行きたいけど…起きたところをフレッドたちにつかまって食べたらすぐ戻らないと。じゃなきゃ糞爆弾をシーツに仕込むぞって。」
 大あくびをするロンにしっかりしなさいよと声をかけるハーマイオニーの誘いにこのまま寝るのではないかというほど目が細くなっているロンは首を振る。
「じゃあロンはすぐ戻らないとだね。部屋がくそ爆弾まみれだなんてみんなものすごく怒るよ。」
 ロンお話に少し眠気が飛んだハリーは顔をしかめ、のろのろと朝食を取り始めるロンの背中をたたいた。
 
 ハリーが朝食を食べ終わってもまだシリアルを半分食べているロンはどうにも眠いと、頭を振る。
「ロン、遅いから迎えに来たぞ。」
 そこまで眠いのかと心配するハリー達だが、大広間にやってきたフレッドとジョージを見て、これなら糞爆弾は回避できそうだと席を立った。
「ロニー坊やは眠いと。早速薬が効いてるみたいだぜ相棒。」
「ずる休みスナックのイタズラ版、だらけスナックの効果はまずまずか。」
 いぇい、とハイタッチをする音が聞こえて、ハーマイオニーは首をすくめて行きましょうと促す。ハリーもまた二人に引き摺られていく親友を見るとハーマイオニーの後を追った。


 枯れ枝からうっすら春の訪れである緑の靄が見え、寒々しかった森が命を息吹を吹き返すようにかすかに色づく。
 時折小鳥が木を揺らし、残っていた雪を落とす姿にもうすぐ春かとまだ少し寒い空気を思いっきり吸い込む。
 歩きながら空気を取り入れてやっと頭がすっきりと目覚めた。
「やっとハグリッドも雪かきから解放されるシーズンが来たわね。」
「やっぱり外に出て正解だったよ。今パッチリ目が覚めた気分。」
 春の風が気持ちいい、笑うハーマイオニーにハリーは新緑の瞳をはっきりさせた。
 ほどなくして到着したハグリッドの小屋は相変わらずで、迎え入れたハグリッドは暖かいお茶を出そうと準備を始める。
「昨日ダイアゴン横丁で買ったんだ。ジンジャーが入っとる。足先まで温まるぞ。」
 まだ雪は残っているからな、と湯気の立つコップを二人に差し出し、いつものロックケーキを進める。
 ケーキは朝食を食べたばかりだから、と断るとハグリッドはそうか?といって買ったばかりの手袋を持ってきた。
 指先にドラゴンの革が使われているという大きな手袋に、それで買い替えたのね、と妙に納得してしまう。
「魔法で直すにも限度があるからな。あぁ、そうだ丁度良かった。もしよかったら貰ってくれねぇか。俺はどうにもこういうの苦手でな。」
 ドラゴンの革だけが要因じゃないというハグリッドが大きな手をたたいてコートのポケットを探り始めた。
 見たこともないほどに毛羽だったタオルらしきものや犬用の骨ガム、粉々のビスケットだったもの…机にどんどん出されていくとあったと言ってカラフルな二つの卵を取り出した。






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