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「本当にごめんなさいね。何でもなのよ。」
「兄貴たちも戻って…頼むから。な?」
先ほどの叫び声に何事かと、最後尾の通路に向かってやってきた生徒を見た2人は我に戻るなり、慌てて通路に飛び出ると、これ以上進まないように謝っていた。
「それにしても…びっくりした〜〜…。」
「心臓に悪いわ…。」
ぐったりと席の戻った2人はいまだに治まらないドキドキに胸を押さえている。
「で…ハリー…大丈夫なの?あ〜っとその…人?」
「ハーマイオニー。一応人だよ!疑問文にしちゃまずいって。」
「でもまぁ…年なのね。」
「そりゃハグリッドより上なんだよ?もう60代だって。」
「あぁ…もうおじいちゃんな年齢なのね。」
「えぇいだまれっ!貴様らが突然叫んだので少々驚いただけだ!!!全く…心臓に悪いのはどっちだ!!!!」
先ほど叫んだことへの被害は生徒だけでなく、元凶であるヴォルデモートにも被害は及んでいたのだ。
ひそひそと話す二人に怒鳴るヴォルデモートは心配そうなハリーにもたれたまま大きな溜息を吐く。
《だっ大丈夫ですか…?ご主人様…。》
ヴォルデモートの足元にいたナギニは居場所がないため荷物棚に収まっている。
《案ずるなナギニ。油断していた俺様が悪いのだ。》
窓のふちに肘を置いたヴォルデモートは外を見ながら蛇語で答える。
もう片方の手はしっかりとハリーの肩に回されており、二人としては何だろうこの光景、と目をしばたかせるしかない。
「ところで…どうしてここに??」
「あぁ。あの糞狸爺…ダンブルドアが手紙をよこしてきたのだ。列車には先ほど乗り込んだのだが…窓からは入れんし、姿現しもできない。そこでダクトの内部を這って来たのだ。都合のいいことに蛇になれるのでな。」
勇気を出して声を出すハーマイオニーにヴォルデモートは窓から中へと視線を移し、ハリーの肩に乗せていた手を腰にまわして引き寄せる。
「どうして…改心しようという決意を?」
「もしかして…ハリーの頼みなの?」
殺気というよりもやや甘い空気が流れた気がして、ロンとハーマイオニーは警戒をうすめ、好奇心のままに尋ねる。
ハリーの手を重ねられ、上機嫌なヴォルデモートは二人を見た。
「それ以外に何がある?」
「…いえ。」
しれっと即答で答えた元闇の帝王に二人は死喰い人に憐れみを覚える。
(あぁ。ろくでもない上司を持つなんて…解散してよかったわね。本当に。)
(さすが魔法界の英雄…その言葉だけで世界を救っちゃったよ。にしても死喰い人…苦労が多かったんだろうな。)
この人絶対わがままだ、と直感する二人は歳の差が激しい目の前のカップルを見つめる。
「どうしたの?二人とも。」
「なんでもないわ。本当に。」
抱き寄せられていることに慣れている感じがするハリーは微妙な顔をした親友に首をかしげた。
何でもないと言うハーマイオニーとロンはちらりと顔を見合わせてこの先一年の苦労を思い浮かべる。
こうしてさまざまな嫌な予感やら、何も知らない生徒の新学期に向ける期待やらをのせた列車は城へ向かって全速力で走っていく。
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