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18:未来への第一歩

 買ったばかりの杖を持ち、念入りにトランクを確認する少女は父親に似た鷲鼻の上に埃をつけ、良しと立ち上がった。
「準備……あぁミーナ、鼻の頭に埃ついているよ。ほら、取ってあげるから……。万が一忘れ物あってもママに……ビック・ミンに言えば大丈夫だって」
「二人とも準備できた?ほら、行こう」
 ほら拭いてあげるよ、というデルフィーニにもう11歳よ、とおとなしく拭かれる少女がむっと答える。その様子に迎えに来たハリエットは笑い、まだか?という声に振り向く。

「ほら、さっさと車に乗った乗った。ハリエット、テッドとヴィクトワールは別のルートから行くそうだ」
 肝心の二人が遅れてどうする、という声にデルフィーニはわかったよ、と声を上げミネルバの手を取った。トランクを詰め込み、待って、と走ってきた妹を乗せるとシリウスは車を動かした。わくわくした面持ちのミネルバは今日からホグワーツだ。

「テッドと同じハッフルパフかな。フィーニと同じスリザリンかな」
 楽しみ、というミネルバにグリフィンドールもいいぞ、とシリウスは口角を上げ、ちらりとミラー越しにすっかり増えた家族を見る。子供が増えたことでマグルの免許を取得しに行ったスネイプに対抗し、競うようにして取得したかいがあった、と上機嫌にハンドルを握る。
 早く僕も行きたいな、という声にバックミラーを伺えば長男が珍しくむっとした顔をしていた。

 プリンス家長男のヘンリー=セブルス=プリンスはちょうどポッター家の長男と同じ年に生まれたため、その年はいろいろ大変そうだ、と母親によく似た緑色の瞳を持った黒髪の少年を見る。ジェームズと異なり、おとなしめで本を読むのが好きなのはハリエット曰く父親似らしい。

 その隣ではお姉ちゃんを見送るんだと張り切っていた末の子……ビオラ=アイリーン=プリンスは、たっぷりの赤い髪を揺らし父親譲りの黒い瞳をほとんど瞼の後ろに隠して母親に抱きかかえられていた。これまた示し合わせたかのようにポッター家の次男と同じ年に生まれてきた子はどことなくハリエットに似ている。

 今年入学のミネルバは祖母の影響なのか、それとも黙々と研究するのが好きな父親の影響か。ひとたび興味がある物に触れるとおとなしいが、こちらもハリエットに似て体を動かすことも好きで、箒に乗るのが大好きだ。
 総じて、プリンス家の子供たちは父親の影響か、ポッター家の常に爆発しているかのようなにぎやかさとは違い、割とおとなしい。
 デルフィーニも見た目のメイクは奇抜だが、2学年連続の首位キープという普段の素行の注意も何のその、な成績を収めている。素行もただメイクが奇抜なことや怒って反撃した際の魔法が規格外なだけで、本当にダメな人らのあれとはまた違う。
 このままいくとテディとデルフィーニが首席になりそうだな、と3本箒で呟いた言葉に、選ぶのは我々だから多分ない、と寮監らは首を振っていたがあと4年どうなるかはマーリンもわからないだろう。

 教員の子供がホグワーツへ。これまでなかった光景に、すっかりみんなの祖母のような立場になったマクゴナガルは他の生徒と公平に接しつつ、嬉しさに微笑んでいる時間が長くなったという。


 懐かしいキングスクロス駅にハリエットはにこやかに微笑み、コンパートメントに荷物を積み込む娘と妹を見る。デルフィー二の肩から覗くのは小さな鶏の雛だ。ルーナの義理の祖父となった魔法生物学界の権威スキャマンダー氏から贈られた“メビウスの鳥”という突然変異として生まれた鶏だった。死んでも卵になり、卵はほうっておいても孵り……。たとえ、冷たいヒキガエルの胎の下でも死ぬことのない……バジリスクの基になる鶏だ。
 入学祝にもらった当初は困惑していて……ひとたびバジリスクになってしまえば生き返らなくなるそれを一度だけヒキガエルの胎の下に置いたが、すぐに思い返して取り出した。私にはこれがちょうどいい、とデルフィーニはその鶏をいつも連れている。

 ミネルバはワシミミズクが早く籠から出してと暴れているのを宥めている。汽笛が鳴り響き、お父さんに減点されないようにね、と手を振るハリエットに頑張る!とミネルバは手を振った。2人の後ろからテディとヴィクトワールが顔を覗かせ、行ってきます、と手を振る。

「なんだ来ていたなら声かけてくれてもいいのに」
 後ろから来ちゃった、というトンクスにハリエットは久しぶり、と声をかけシリウスと共に車に乗り込む。減ったんだか増えたんだかわからないな、と笑うシリウスはこのままハリー達の家に突撃するか、と車を走らせた。


「プリンス=ミネルバ」
 フリットウィックが名前を読み上げると、父親によく似た少女が背筋を伸ばし前へと進み出た。帽子をかぶる直前に微笑む祖母と、どこか口角を上げている風に見える父を見て、帽子を深くかぶった。

「おや、誰かと思えば校長室でかってに私を被ったおてんば娘じゃないか。そうかそうか年月が経つのは氷が溶けるよりも早い。さてさて、君はどの寮がいいかな」
 おやおや、という組み分け帽子にどの寮でも楽しそうだから、早く決めてとミネルバはやりたいことをいっぱい頭に思い浮かべる。祖母に似てなかなかに決めるのが難しい、とどこか楽し気な帽子はよぉく吟味し……つばの割れ目を開いた。






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