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☆16:リスタート

 にぎやかだった結婚式も終わり、二人の部屋となったプリンス家の主寝室。ドレスを脱いで先にお風呂に入ったハリエットは、髪を屋敷しもべ妖精のシュシュにお願いして乾かしてもらう。本来ならば自分で、とも考えていたのだが、ハリエットの魔力が回復しづらいこともあり、屋敷しもべ妖精はわたくしが、と率先して整えてくれる。

 ほどなくしてシャワーを浴びてきたスネイプが入ってきて、自分で乾かすと座ったハリエットを見つめた。シュシュはもう部屋にはいない。あちこちの明かりを消して彼女も就寝するだろう。
 立ち上がったハリエットが恥ずかし気に笑って、スネイプの手を取る。気恥ずかしさがあるのか、スネイプも小さく微笑むとハリエットを引き寄せて合わせるだけの口づけを落とす。

「セヴィ」
 口づけの合間に呼ぶ声にスネイプは手をさまよわせた。困ったような、戸惑う風な顔にハリエットが手を引いて一緒に寝台へと腰を下ろした。ハリエットが蘇ってから一年と少し。卒業してから結婚式を挙げたのだがその間、一度も肌を重ねてはいない。

「何があったのかなんて、闇払いをしていたからさすがにわかる。セヴィが……きっと私を薬で癒してくれたのだろうってことも……なんとなくわかる」
 手を握るハリエットの言葉にスネイプは目をふせ、大きく息を吐く。きっと彼の脳裏にはその時の嫌な記憶がこびりついているのだろうと、ハリエットは唇を軽く噛んだ。

「私に触れるのは嫌?」
 生き返った体が子供を産めるかは知らない。せっかく復興したプリンス家を一代で終わらせてしまうかもしれない。スネイプに肉欲がないわけではないのはハリエットが一番わかっている。だから、自分は体の関係がなくてもいい、とハリエットはつないでいない方の手をぎゅっと握りしめた。

 首を横に振るスネイプに少しホッとするハリエットだが、このままというわけにもいかないだろう。せっかく夫婦になったというのに、スネイプはまだ何かを抱えて隠している、とハリエットはスネイプを見つめる。

「じゃあ……私を壊してしまいそうで怖い?」
 あんな集団の中にもし捕らわれていたのであれば、最悪逃げないように足を折られていたかもしれない。手も無事ではないだろう。その状態で転がされていたのであれば……。そう思っての問いかけにスネイプは迷う風にして答えない。かつてジェームズと混合して鎖骨を折ったこともある。酷く怒らせて叩かれたこともある。

「大丈夫。セヴィは大丈夫。私も大丈夫」
 唇を合わせるハリエットを反射的に抱きしめるスネイプに言い聞かせる様、ハリエットは口づけ委の合間にそれを繰り返した。

「ぐったりしたハリエットの記憶が……消えないのだ」
 血に沈んだハリエットと、汚され動かないハリエット。そのどちらもが頭をよぎり、手がすくむ。スネイプにとって彼女が穏やかに笑っていることこそが喜びであり、ぐったりとした彼女は悲しみなのだ。

「それじゃあ……セヴィが嫌でなければ……。私でそれを上書きして。私……セヴィに触れたい。セヴィが愛してくれるという事を、この体にも刻みたい」
 とん、と押すハリエットにつられる様に、スネイプが寝台に倒れこむとハリエットがその上に乗る。ダメだ、と目をそらすスネイプだが、ハリエットがちゃんと私を見て、というと意を決したかのようにハリエットを見上げた。顔を真っ赤にして、着ていたネグリジェをはだけるハリエットの体は白く、頬についた傷以外痣も何もない。やせ細っていた記憶とは違い程よく肉のついた体は長年スネイプの理性を何度も崩してきたものだ。

 じっとりと眺められるハリエットは真っ赤になったままどうすればと迷い、スネイプの手を取って自分の胸に当てる。ドキドキと跳ねる様な鼓動を感じ、スネイプはゆっくり息を吐くとハリエットの肌を確かめるようにすり、と指を動かした。いきなり動くとは思っていなかったのか、ビクン、と震えるハリエットを見つめればもう顔は熟れたトマトの様になっていて、ここからどうしたらいいのかわからなくなっている。

 あぁ、ハリエットだ。と恥ずかしがっているんだか大胆なんだか、と勢いだけで進んで動けなくなったハリエットに微笑み、体を起こしながら口づけるとくるりと反転してハリエットを寝台に横たえた。

「何かあればすぐに言って欲しい」
 止められる自信はないが、とハリエットの手を両手共に握り締めて口づける。膝がしらでそっと足を割り、まだネグリジェが引っ掛かっている足の間に差し入れるとハリエットの体は跳ねあがる。彼女を求める様に口づけを深くしつつ膝を上げて行けばひどく熱のこもった場所に触れ、ほんのりとした湿り気を感じる。

 口づけから解放し、手を放してやるとハリエットは真っ赤になったまま緑の瞳を熱で揺らめかせ、じっとスネイプを見つめていた。膝を使い刺激を与えると、喘ぐ声が恥ずかしいのか口元に手の甲を押し当てる。変わらないハリエットに口角を上げ、スネイプは着ていたガウンを落とす。

「ほら、ハリエット。腕をこちらに」
 ハリエットのネグリジェを完全に脱がせると背中に腕を回すよう促した。しがみつく、というのが正しいような、そんな風に腕を回すハリエットに満足し、しゅるりとハリエットの下着をつないでいた紐を引き抜き、湿ったそれを落とす。

「このような紐のついた下着、いつ手に入れたのかね?」
 今まで見たことのない下着の種類を問えばハリエットは顔を真っ赤にしたままパクパクと口を動かし、どうしようと目をさまよわせる。膝を上げれば直接彼女の秘部に触れ、ハリエットは思わずという風に声を上げた。

「そこ、刺激……んっ。この前、その……ホグズミードにいるときに……んぅふ……たったまたま深夜にやってた映画で……。ぁっ、その、誘う勝負下着って……だっだめ、指でくりくりしちゃ……ぁあ!」

 ハリーの時代もテレビなんてほとんど見られなかった、と二人で意見が一致しアーサーにも手伝ってもらってテレビを設置した。ハリーがブラック邸に行っていた時に一人でなんとなく付けたテレビで、たまたま見てしまったベッドシーン。そこでそんなことを聞いた、と白状するハリエットにスネイプは思わずといった風に指でハリエットの陰核を弄り、ハリエットを絶頂へと押しやる。

 ビクンビクンと跳ねるハリエットは欲に濡れた目でスネイプを見つめ、ちゅっと口づける。虚を突かれた顔のスネイプにやり返せた、と口角を上げるハリエットだが、足を大きく広げられ、顔を埋められると焦ったようにダメダメと繰り返し、ほぐされる感覚に、舐められる感覚にこらえきれずに絶頂する。

「セヴィ……そこばかりぁあ!また、またいっちゃうセヴィ、セヴィが欲し……ぁん!」
 聞こえる水音と刺激に足を震わせるハリエットはこのままじゃ一人意識が飛んじゃう、とハリエットは懇願するようにスネイプを呼ぶ。焦ったような、そんなハリエットにスネイプはわかった、とハリエットの体を引き寄せて腰を掴む。

 合わさった音にハリエットは顔をとろりとふやかし、再びスネイプの背に腕を回す。先ほどまでハリエットの恥部に口をつけていたからか口づけはかわされてしまったが、ハリエットはむっとすると無理やりにスネイプの唇に唇を重ねた。どうにでもなれ、という風なハリエットに本当にこの子は、と口角を上げたスネイプはそれに答えるように口づけを深くし、同時に腰を強く押し当てた。
 徐々に広がっていく感覚に胸を高鳴らせ、深くなる口付けに酔いしれるハリエットはぎゅっと抱きしめられると同時に、ずんと腰が触れ合ったことにふにゃりと顔をふやかした。

「ほら、大丈夫」
 幸福感で満たされるハリエットがそう微笑むとスネイプはそうだな、と微笑み返してハリエットの頬の傷に口付けを落とす。魔法薬を使っても消えない傷は永遠に残るのだろう。
 動くぞ、と声を掛ければハリエットは幸せそうな顔でうん、と頷き、縋り付くような手の力を強めた。腰が触れ合う音と寝台が軋む音にハリエットの甘い声が合わさり、スネイプにこびりついて離れない記憶が綿で包むように薄れていく。

「あ、セヴィ」
 手を握り合い、緩やかな律動を繰り返していたスネイプはハリエットの声にどうした?と動きを止め、のぞき込む。

「あのさ、えっと。今日はもう薬飲んでないよね?」
 囁くような声に何の薬かを考え、いつも情事前に飲んでいた避妊用の魔法薬のことを思い出す。ハリエットの特性上本来必要のなかった魔法薬。それを知った時は既にハリエットは捕まっている時で……そうか、あの事実を彼女が知らないのだな、と唇を重ねる。

「あぁ、飲んでいない。あの時は……まだハリエットは学生だったから、在学中に子ができてはと。名実ともに夫婦になったのだ。あれはもう必要ないだろう」
 この先子ができなくとも、それは彼女のせいではない。もしも、もしも奇跡が起きて彼女に子を抱く機会を与えることができるのであれば……。その可能性をつぶすことはしない。

「よかった。でもちゃんと計画しないとだよね」
「あぁ、そうだなハティ。時間はあるのだ。ゆっくり決めよう」
 花がほころぶように微笑むハリエットにスネイプも微笑みかけ、そろそろいいかね?と動きを再開する。気にかかることがなくなったからか、ハリエットは先ほどまでよりも甘く声を漏らし、スネイプに縋り付く力を強める。
 そう遠くない未来にコウノトリがやってくる気がして、ハリエットとスネイプは唇を重ね合わせた。







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