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14:鳥の贈り物

 わぁっと声が上がる中、苦悩する黒髪の青年と、どっちも応援するしかないじゃないと笑う女性と、やはり苦悩する赤毛の青年に悪いがこちらは考えるまでもない、とシルバーブロンドの青年が答え、ウキウキとした様子の妙齢の女性とむすっとした黒髪の男がちぐはぐな様子で並ぶ。

「それにしても、すげぇなぁ」
「下位リーグだったのにあっという間に駆け上ったよね」
「当たり前だ。代行だったとはいえ、彼は最高のシーカーだ。その片割れよりも、な!」
 心配で見てられない、とハリーは始まる前のマスコットらの応援ダンスを見つつ、あぁもう本当にさぁ、と首を伸ばした。

「それにしても彼女、大丈夫なの?ほら、先日の検査で……」
「え?何の話?」
「んっん」

 はらはらするのはハーマイオニーで、言われた言葉に目をしばたたかせたのはハリーだ。咳払いをするスネイプに来月にはシーズンオフですものね、とマクゴナガルがニコニコと笑う。周囲からは一体全体どういうメンツなんだ、と招待客が座るそこにいる面々を見た。今日の試合で飛ぶ女性選手であるジニーの恋人と報道されて周知されている英雄ハリーと、早くも改革の案を次々打ち出している何かと話題の上がる英雄の親友グレンジャー。

 そしてその彼氏であり英雄の親友であり、今大人気の悪戯ショップオーナーの弟でもある闇払いのウィーズリー。ホグワーツ現校長のマクゴナガルと影の英雄でありプリンス家当主のプリンス氏、死喰い人として一度は没落していたマルフォイ家を立て直そうとしているマルフォイ当主。下の段では赤毛の一家、顔に傷がある夫妻、ブラック家当主までもが並ぶ。
 選手が入場すると赤毛の女性に声援が上がる。

「ジニー!負けるなー!」
 大きく声を張るロンが聞こえたのか、それとも単にハリーに気が付いたのか、ジニーが手を振る。そこに相手チームが入場してきて、また別の声が上がる。大柄な男性に紛れるようなほど小柄な少年のような青年は赤い髪を一つに束ね、声援にこたえるように手を振る。

「ヘンリーーーー!!」
 きゃーー!と声が聞こえて目を向ければ、アイドルさながらな応援団が旗を振っていた。大柄な選手の中にいると本当に小さくて……だが相手のホリヘッド・ハーピーズと向き合うと華奢な女性らとあまり変わらなく見える。チームメイトがごついだけというのは誰がどう見てもわかるが、それでもなおヘンリーは存在感もあるのか目立つ。

 ふと、ヘンリーがハリー達に……スネイプに気が付いて照れたような顔で手を振る。あらあら、と微笑むマクゴナガルに周囲の黄色い声に眉間にしわをよせたスネイプを見る。


 ハリエットは卒業後、スラグホーンだけでなく正体を明かしてなお友好的でいたクラムのおかげもあり、クィディッチのチームへと入った。男性が多いチームという事で、ならばとヘンリーになる薬をまた持ち出したハリエットはヘンリー=マクゴナガルの名で選手として活躍している。

 オーナーとキャプテンだけがヘンリーが女性であることを知っているが、突然加入した小柄かつすばしっこく正確なシーカーにチームメイトは張り切ることとなり……。ヘンリーの素早いスニッチ取得もあって今年一番飛躍したチームとなった。
 ワールドカップの代表を決める予選に初めて食い込めたチームの知名度は……ヘンリーのおかげでかなり高い。彼が既婚者であるという事は薬指の指輪でわかるが、それでもなお男女問わない人気が彼にはあり、チームメイトも僻むようなことはなくヘンリーを弟のようにかわいがっていた。

 彼に夫がいるという事で同性カップルと思われていることについてはスネイプは特に気にしておらず、チームメイトも変な女じゃなくてこっちの方がほっとする、というかつてのスリザリン生らと同じ感想を抱いていることに、学生時代を共にした人々はうんうんと頷いている。

 試合がはじまり、一斉に箒が飛び上がる。黄色と黒の稲妻のような……ファンからもだせぇ、と言われる低予算ウェアはすっかりこのチームの特徴となり、ファンからも親しまれている。ヘンリーが来てもどうにもならないやぼったさがかえって根強いファンを呼び込んでいるらしい。

 両者ともにファイアーボルトで飛び回る姿に早くも目を回す客が増える中、大柄で一見すると野蛮そうな見た目とは裏腹に繊細に飛ぶヘンリーのチームは紳士的だと人気も高い。ほぼヘンリーとの練習で自然と身についたものではあるが、いつもならば女相手だからとやや乱暴なプレーで弾かれ気味のホリヘッド・ハーピーズは、一選手として対応してくれる選手らに互いの闘志を燃えあがらせた。

 最高速度を維持したまま選手の間を縫うように飛ぶヘンリーはブラッジャーを振り払い、ぴたりと身を伏せる。一時的に爆発的な加速を見せるファイアーボルトは一度不正を疑われたものの、箒職人らが大絶賛する使い方だったとして一時期盛り上がったのも記憶に新しい。


 大歓声の中終わった一戦。久々に手に汗握る戦いでした、と満足げなマクゴナガルはお招きありがとうとトンクスに言う。トンクスは母も楽しそうだからこちらもよかった、というと着替えを済ませたジニーと裏で戻ったハリエットが合流する。
 ヘンリーまた先に帰ったのかしら、と色紙を持つ面々を横目に、出てきたハリエットはスネイプを見るとぱぁと顔を輝かせ、飛びつく。淑女がダメだろう、というドラコに笑うハリエットは、勝って喜ぶべきか負けて悔しがるべきか、やはり複雑そうなハリーとロンにジニーと声をそろえて笑う。
 先に帰るドラコとはそこで別れ、珍しくスネイプがハリエットを抱えるようにしてポートキーに触れた。

 ポートキーで向かったのはアンドロメダのいる家で、きゃっきゃという赤子の声が聞こえる。さぁ今夜はガーデンパーティーよ!と同じく留守番をしていたモーリーとフラーが準備した料理が並べられ、お酒が振る舞われる。フラーとハリエットはノンアルコールを手に取り、勝利にチアーズ!と声を上げた。

「あれ?ハリエット……あっ!もしかして!!」
 お酒に弱いわけではないハリエットにハーマイオニーは首を傾げ、ハッとした顔でお祝いしてもいい?と尋ねた後おめでとうと拍手を送る。検査で引っかかったっていうから心配してたのよ、とハーマイオニーはおめでとうと繰り返す。え?なになに?というロンにシリウスもやってきて、はにかむようなハリエットと、気遣う風のスネイプを見て本当に?と声を上げた。

「この間試合前の健康診断で。ちょうど目立ってくるころにはシーズンオフにかぶっているから、このままで大丈夫って」
 ニコニコと微笑むハリエットに留守番していたヴィクトワールを抱いたフラーと、姪っ子を抱えたアンドロメダ、テッドを連れたトンクス、それにモーリーが集まる。

「転生者は通常、あの時の様に肉体に関連するものは目に見えない香りなどは例外として消えてしまう。そのため、男女問わず目に映る残るものとして、子供はできないと考えられるでしょう」
 マクゴナガルはセブルスから聞きましたが、とハリエットのそばにいるスネイプを見つめながらつぶやく。そのハリエットが子供を得た。つまりはもう、痣が消えただけでなく転生者としての運命からも抜け出し、一人の人間としてこの世界に存在しているという事だ。

 どんな目にあっていたのか、それを思い出す3人はだから大丈夫だったのか、という思いと、ハリエットはその事実を知っていただろうか、という思いが胸によぎる。

「この知らせを受けてセブルスが真っ先に何をしたかわかります?」
 思い出したのか笑うマクゴナガルにハリー達は首をかしげる。笑っているという事は何か悪いことなどではないのだろう。

「妊婦でも飲める薬や出産後につかう魔法薬など……手あたり次第の文献を一度に購入して、配達の梟が列をなして飛んできました」
 急ぎで購入したのか、朝の大広間でそれは配達され、教員席の椅子の後ろに積みあがったとう。列をなして飛ぶフクロウと、落とされる本を積み上げるスネイプ。想像できるようなそうでないような、ちょっとした不思議な光景だろう。中には乳児の育成や育児の基本など少々気が早いものもあったというのだから、マクゴナガルの笑う理由もわかるというもの。

 ポンフリーが必要ならば取り寄せましたのに、と笑いながらほっとしたように涙を流していた。幼い頃から見てきて、そしてあの一年を知っているからこそ、幸せになっていくハリエットに言葉が出ない。

「幸せになるのですよ、ハリエット」
 子を産んだ3人からアドバイスを受けるハリエットの隣でスネイプは真剣なまなざしでそれらを記憶しているようだ。一度にたくさんの知識が集まり目を回すハリエットに代わり、この場合は、などスネイプが詳しく聞いている。かつて家が不仲であったというスネイプが積極的にかかわろうとする姿に、いい父親になれますよ、とマクゴナガルは微笑んだ。


 プリンス邸に帰ってきた二人は寝台で横になり、そっとお腹に手を置く。

「名前も決めねばな」
 まだお腹がふくれていないものの、ここに子供が、とスネイプはハリエットのこめかみに口づける。ハリエットはくすぐったそうにしつつもそうだね、と微笑む。

「ねぇセヴィ。女の子だったらつけたい名前があるんだけど、いいかな」
 すりっと擦り寄るハリエットにスネイプはなにかね?と首筋に口付けを落とす。ハリエットの告げた名前に口角を上げ、本人にも許可を取りに行かねばな、と振り向いたハリエットに口付けを落とす。

「ミネルバ=リリー=プリンス。きっと、君の母はどちらも喜ぶだろう」
 うん、と笑うハリエットのお腹に触れる。2人の手が重なりながら触れるお腹の子はきっと女の子な気がして、ハリエットはそっと微笑んだ。







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