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13:闇の姫君と親友

 プライマリースクールの敷地内で迎えを待つシルバーブロンドの少女は、むっとした風にして道路を睨みつけていた。絶対に外してはならないという腕輪をかちゃかちゃと面白くなさそうに揺らし、遅くなってごめんという今日は青い髪の女性を見上げる。さぁ行こうかと手を引くのに従い手をつなぐ。

「別に……待っていたわけじゃない」
 むっとしている風の少女はカバンを背負い直し、女性とは違う方向に顔を向ける。女性もつられて周囲を見ればスクールバスに乗る子もいるが、バス停で親が待っているのだろう。

「あれ?あの子一人で歩いてる?」
 路地に入れば姿くらましを、と考えていた女性は前を一人で歩く隣にいる少女と変わらない年齢の子供を見つけて声を上げた。

「あぁ、あの子、親は迎えに来ないよ。忙しいのと、シッターを雇うお金もないって……クラスではぶられているから」
 何かあったのか、デルフィーニはぎゅっと唇を引き締め、への字にするとそっぽを向く。これはクラスで何かあったな、と考えるトンクスだが、とりあえずは子供の独り歩きを見過ごすわけには行かない。

「ねぇあなた、よかったらおうちまで送るけど……どう?」
 行こう、と促すトンクスに嫌そうな顔をするデルフィーニだったが、連れていかれてはどうしようもない。すぐに追いつき声をかけると、黒い髪の少女が振り向いた。

「あら、素敵なメイクじゃない」
「その子の保護者?前は違う人が迎えに来ていたけど」
 目元に黒い化粧を施した少女は、クラウンのような雫をつけた目をぱちぱちとしてデルフィーニを見る。

「まーそんなところ。一応……大伯母の子だから」
 ほら行こう、というトンクスを見て、来るなら勝手にどうぞ、といい少女は歩き出す。肩を軽くすくめるトンクスはデルフィーニと共にその子の後をつけるよう、付き添うように歩き出す。

 できる限りいろんな体験をした方がいいかもしれない。そんな声が上がり、万が一の魔力暴走を抑える腕輪をつけることでマグルのプライマリースクールに通うようになって2年。6歳になった少女は父親に似たのか、比較的好成績を難なくおさめていたが、友達という友達はいまだいない。魔女なのになんでこんなところに、という一面があるのか、はたまた別のことか。元騎士団員の闇払いに努めている誰かが送り迎えをし、家でもあるホグワーツへと帰る日々にどことなく彼女は面白くなさそうだ。

「一人で大丈夫?」
 さすがに家には上がれない、とトンクスは少し古ぼけたフラットに入る少女に声をかけるもいつものことだから、と返されて閉まった扉にいいのかなぁと首をかしげる。

「テッドが待っているんでしょ。早くあたしなんかの送迎終わらせれば」
 始終目を合わせないデルフィーニにトンクスはわかったわかった、と言って路地で姿くらましをした。ホグズミードの姉の家に入るも、今日はこちらにはいないらしくがらんとしていて、デルフィーニはむっとしたまま暖炉にフルーパウダーを入れてホグワーツの自室へと行く。やれやれ、と首を振るトンクスは暖炉を使い報告のために魔法省へと向かった。


 いつも通り暖炉から出てきて服を払おうとしたところで煤が消える。あれ?と顔を上げれば母と姉と妹がそろっていた。
「フィーニ!」
 ぽてぽてと歩く妹を反射的に抱き上げ、どうしたの?とデルフィーニは目をしばたたかせた。
「リトル・ミンが帰る前に貴女に会いたいと。さぁ、カバンをしまって」

 お茶を入れるマクゴナガルに促され、妹を下すと隠れている自室を開けてカバンを放り投げる。まぁ、という声は無視して、んっ、と腕を差し出した。腕輪を外してもらうと、ミーナ元気だった?と妹を膝の上に乗せるも6歳のデルフィー二と3歳になる妹では少々無理がある。

「プライマリースクールでまたトップの成績だったんだって?私はいとこに追い回されたせいもあるけど中間くらいだったからうらやましいよ」
 暗記系とか本当に苦手で、というハリエットにデルフィーニは簡単だよーと口を尖らせた。ん?と考えるマクゴナガルの視線にトップだって言ってもうるさい子がいるんだよ、と声のトーンを下げた。

「私に両親がいないってこと、別に気にしてないんだけどいう子がいるんだ。みなしごのくせにとか……前にすれ違った魔女が言った、闇の落とし子のくせにっていうのを聞いた子がなんだかんだ言うんだ」
 フィーニ?という妹を抱きかかえたままつぶやくようにいうデルフィーニは何か考えている風の母と姉を見てあのさ、という。

「おとなしくしているから……あまり行きたくないな」
 友達なんて作れない、というデルフィーニにプライマリースクールに通っていた経験のある二人は顔を見合わせ、ハリエットが娘を抱きかかえてマクゴナガルが自分の娘を抱きしめる。

「魔法界なんて狭い世界だから、とそう思いましたが辛い様であれば無理に通いなさいとは言えません」
 気が付かなくてごめんなさい、というマクゴナガルに忙しいから心配かけたくなかった、ともごもごという。もう少し頑張ってみる、というデルフィーニは母を抱きしめ返し、姉とハグを交わす。

「ハリーはいとこにいじめられて虐められて……もうそれはそれは目にあったけれども逃げ場がなくてね。だけどまぁ腐らず何とかなったけどさ。デルフィーニをいじめる奴は私もハリーも許さないんだから、絶対言ってね」
 助けに行くから、という姉にデルフィーニはうん、と頷き……あ、と声を上げた。

「今動いた!頑張れって」
「ほんとだね。早く会いたいよーて、僕が絶対にお姉ちゃん守るんだ、って言っているのかもね」
 顔を明るくするデルフィーニにハリエットは微笑み、不思議そうな顔をする娘を見て兄弟が増えるよ、と頭を撫でる。ふふふ、とマクゴナガルが笑っているとノックの音が聞こえ、授業を終えた父親が顔を覗かせた。

「パパー!フィーニいるの!」
 バタバタとハリエットの腕から暴れて降ろされると、黒ずくめの男にてちてちと向かう。娘を抱き上げるスネイプはデルフィーニを見て、明日は休日だったなという。

「うん……そうだけど……」
 頷くデルフィーニに何か考える風にして、ちらりとマクゴナガルを見る。たまにはいいですよ、と外出許可を出すマクゴナガルにデルフィーニは笑い、すぐに準備のために部屋に飛び込んでいく。

「ちょっとプレイマリースクールで嫌なことがあったみたいだから、ナイスタイミング」
「あぁ……おぼえがあるな」
 やはりマグルの環境で育ったことのあるスネイプの言葉に、セヴィも頭がよさそうだから話わかるかも、という。プリンス邸に行く準備をするデルフィーニと共に暖炉を使い4人が順番に消えていくとマクゴナガルはさぁて出産後の手伝いに行けるよう、今から時間を作らねば、と校長としての職務を片付けに校長室へと向かった。


 週明けには少し元気を取り戻したデルフィーニだったが、やっぱり厄介な子はいて……うんざりするようにため息を吐く。
「お前の両親、犯罪者なんだってな!」
 どこで聞いたのか、それともわざとどっかの馬鹿が言いふらしたか。はぁ、というとそれがどうしたっていうの、と声が聞こえ、視線を向ける。あの一人で帰っていた子が唇を黒く塗り、派手な髪形をして立っていた。

「人殺しの娘だ!お前の方こそこっちくんな!」
「じゃあ退いてくんない」
 淡々とした風の少女にデルフィーニは目をしばたたかせ、ずんずんと歩いてくることじっと見る。どう探っても彼女には魔力はないため正真正銘のマグルだ。それなのに圧倒する雰囲気がなんだかおかしい。


「行こう、こんなバカ放っておいて」
「お前こそバカだろ!また最下位だった負け犬!」
 あほが移る、という少女はデルフィーニの手を取り、足早に去っていく。

「あ、えっと……」
「プリティ・フラワー=フラン。馬鹿げた名前だからティナって呼んで」
「私はデルフィーニ=ゴーント。叔母とかが星の名前だから多分イルカ座」
 ティナとデルフィーニは階段に腰を下ろし、握手を交わす。

「デルフィーニはよそから来てるでしょ?私の父親、この辺で有名でね。自分のこと馬鹿にした家の人をみんな殺しちゃった。だから今は塀の中。ママはお金がなくて一生懸命って言われているけど本当はよそに男作って出て行っちゃった。放っておくと連絡が来て面倒だからって時々身代わりの人とかが来るけど、基本的に家には誰もいないよ」

 養子に出すといろいろめんどうなんだって、とこともなげに言うティナにデルフィーニは驚き、ポカンとしたままティナを見る。やっぱり引くよね、というティナにデルフィーニは首を振り、6年前の事件知ってる?と問いかける。生まれる前に起きた様々な事件。ティナも聞いたことがあるのか頷いた。

「あれを起こしたのが父上と……部下だった母上がいる組織だったんだ。被害は……時々ニュースで黙とうする人の映像があるから知っていると思う。ママも、お姉ちゃんも……いっぱいひどい目にあったし、自由人の犬おじさんも母上については話したくないっていうほどの人みたいで……。生まれてすぐに二人とも死んじゃったからよくは知らないけど……今でもさ、私政府に監視されているんだ。残党が狙うかもしれないし、私自身が二人の後を継ぐかもしれないって」

 魔法界のことは言ってはけない。それは口酸っぱく言われていることだからデルフィーニはそれをぼかして伝える。それができるという事でずいぶん賢いのが証明されており、それが逆に警戒させるもとにもなっていた。

「へぇ、そうなんだ。あたしのところよりド派手だね。政府の護衛があるとか超Vipじゃん」
「ド派手かな。監視も結構うんざりするよ?」
「ド派手だよ。こっちは銃買うお金もなくて、鉈振り回して刃物振り回して……地味。だから、それを見方を変えればいいんだよ。監視ってことは外からも守ってもらえる……護衛と思えばマジvip待遇だよ」
「護衛……そっか。そりゃそうだね。父上たちのしたこと……確かに派手かぁ」

 ティナの言葉にデルフィーニはだんだんおかしくなってけらけらと声を上げて笑う。似た境遇同士なんかいいかも、というティナにわかる、とデルフィーニは改めて握手を交わした。

「私なんて別に鉈もって振り回したい願望があるわけじゃないし、勝手に言ってろって感じだよね」
「わかる。まーわからないでもないけど、こっちはこっちで考えるんだからほっとけって思う」
 周りなんて気にする必要ないでしょ、というティナにデルフィーニは家族の前以外では初めて楽し気に笑い、じゃあ二人で世界を征服する?と言って人の面倒とか見るの嫌だよ、と言い、笑いながら遠くに授業開始のベルを聞き、今日はさぼり!と二人は動かない。


「デルフィーニってさ、メイク似合いそう。明日……ちょっとやってみていい?あたしさ、メイク好きなんだ。いつもと違う自分になれる感じがして」
 肌白いし、切れ長の目とかいいなぁというティナに目をしばたたかせ、厳格な母を思い浮かべ……面白いかもと頷く。明日持ってくるから、というティナはさぁてと言いながらノートを引っ張り出す。びっしりと書いたメモに最下位?と首をひねるデルフィーニにいつもテストはさぼっているから、と肩をすくめる。

「テストに名前書こうがまともに回答しても全部消されるからね。あの担任の弟だかなんだかが鉈で腕無くしたらしくて私怨もいいところだよ」
 まったく迷惑な話、というティナと約束を交わす、史上最悪最強の魔法使いの男の娘は一切魔力のないマグル中のマグルである親友をその日得た。

 後日、青いアイラインをひき、ちょっと暗めの口紅をして毛先がちょっと青いシルバーブロンドの髪をアップでまとめたデルフィーニにトンクスはいかすじゃない!と言い……マクゴナガルは似合っているけども、けども、と葛藤し……ハリエットは笑う。子供のパンク衣装について、トンクスがいい店があるの、とティナとデルフィーニを連れてお店に出向くと二人のメイクに似合う衣装を買い……さすがにマクゴナガルに陰で怒られる。

 魔法界についてはマグルに言ってはならない、という法律であるがまさかデルフィーニの親友がマグルであるという事に新しい未来が来たのかもしれない、と笑顔の魔法省大臣は特別許可証を発行した。
 後に……しつこいくらいに迫る少年から逃げ回るデルフィーニが、避難先に彼女の家を選び、嫌じゃないけどと相談する生涯の友となるとは、どんな凄腕の予言者も予想することなどできなかっただろう。







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