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12:すがすがしい夏の晴れた日に

 広いガーデンに集まった人々はほとんどが騎士団関係者で、ハリーはあたりを見回した。トンクスが抱いた赤子……テッドは賑やかな空気に髪の色をコロコロと変えている。知らせを受けて飛んで帰ってきたシリウスはリーマスと共に何やら会話していて、時折笑い声が聞こえる。

 シリウスは屋敷についての権利をハリーが戻したいとそう願い出て……話し合いの末銀行などの名義を戻した。やりたいこともないというシリウスはブラック家の財産なんて使いつぶしてしまえ、と笑って屋敷の管理とクリーチャーをハリーに託して世界中を旅して過ごしている。
 ついこの間はハワイに行っていたらしく、これの鼻の方がつまみやすいだろうと従姉姪にコアラのぬいぐるみを渡して……やっぱりシリウスの鼻を掴まれていた。そもそも、コアラという事はオーストラリアでは?という疑問は鼻を抑えるシリウスに突っ込むのもと戸惑われて誰も突っ込んでいない。

 リーマスはホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教授として9月から再雇用された。人狼症については最初から公表し、管理することを徹底すると宣言している。脱狼薬についてもマクゴナガル校長は考えているようで、難しい魔法薬という事で授業の一環に取り入れるという。実際、脱狼薬を精製することができるレベルの人材が増えれば、その手の仕事は引く手あまただろう。厳重体制の中人狼についての学びの機会として、自身を教材とすることもリーマスは承諾している。

 グレイバックが率いた人狼などのおかげで、大戦後幾人か人狼症を患ってしまった。偏見による差別をなくすこと、薬の発展のためには既存の今ある治療方法を学ぶ必要があること、とやることが山積みだ。

 ジニーは先日、プロのクィディッチ選手となった。今日は特別に休暇をもらってきたという。見慣れない、クィディッチのエンブレムをつけた人も幾人かいるが、これは別の招待客だ。

 着飾っているハーマイオニーと、ロンに合流するとシルバーブロンドを品よくまとめたドラコがグラスを片手に振り向く。少し離れたところではアンドロメダが姪を腕に抱いているのが見えた。すっかりシリウスの鼻を掴むのが気に入ったらしい闇の姫はフリットウィック先生の出す蝶に夢中になっている。誰か額についた蝶を教えてあげればいいのに、とハリーは微笑んで準備中の片割れと養母であるマクゴナガルがいつ来るのかとあたりをもう一度見まわした。

 アバーフォースはどこか窮屈そうで、なんだかおかしい。ひときわ静かな区画に目を移せば、写真と肖像画が鎮座している。涙が止まらないのか、ずっと泣いている屋敷しもべ妖精の写真と、満足げな様子のダンブルドアの肖像画にハリーはそっと微笑み……開始の合図を受けて席へと座った。キコキコという音ともに一番前に車いすを進めた老人はきっとプリンス氏だろう。

 スネイプが先に入場し、黒いフロックコートに身を包んだ様子はいつもと変わらないようで、重々しいローブがない分新鮮に映る。そしていよいよ入場してきたのは繊細な銀の細工が施された冠を頂に乗せ、ヴェールを下した新婦だ。ハリエットがマクゴナガルと共に静かに歩みを進める。純白は着られない、と頑なに首を振るハリエットに粘ったマクゴナガルと相談し……ウェディングドレスにはあまり見ない、上半身は白く、下に下がるにつれて淡い緑になる、そんなな2色で構成されたものだった。

 新婦が一歩歩くごとに広がる裾が通ったあとに花が飛び出す。一歩進むごとに花で満ちるヴァージンロードは美しく、スネイプとハリエットの足元を彩った。
 プリンス邸で行われた結婚式はフラーの結婚式ほどの規模ではないものの、華やかで整えられた庭に咲く花々が周囲を彩る。
「汝……」


 一歩ごとに近づくスネイプをハリエットはヴェール越しに見つめ、隣にいるマクゴナガルに心の底が味わったことのない震えを見せたことに目頭が熱くなる。マクゴナガルの手を離れ、スネイプの手を取ると緊張で体が震えそうになり、ぎゅっとブーケを握り締めた。

 誓いますといった声が震えた気がして……指輪の交換でよく指が震えなかったとハリエットはほっとし、ヴェールを上げたスネイプをじっと見つめる。本当に長かった。スネイプへの恋心を自覚し、だが母リリーを愛しているのだからと……それこそ一度自分が消滅するその時まで信じて疑わなかった。いや、きっとスネイプが自分のせいで変わってしまったのではないか、未来が代わるのではないか。そういった不安から頑なにそれを信じようと、そうでなくては困ると、それに追いすがったのかもしれない。

 今もし魔力が十分あって、魔法が自由に使えたのであればもしかしたら魔力暴走などを越していたかもしれない、というほどハリエットの心は良くも悪くも渦巻いていて、落ち着かない。大丈夫だ、と口に出さずとも視線で伝えるスネイプにハリエットは泣きそうになりながらも小さくうなずき、誓いの口づけを交わす。

 今もしもパトローナスが呼べるのであれば、この世のディメンター全部消し去ることができるのではないか、そう思うほどに幸せで、二人の頭上を飛ぶイスマの、不死鳥の旋律とフレッド達の花火が二人を祝福する。2人を見守るように、式を飾っていたアーチにとまるとイスマは見事な尾羽を広げ、楽し気に歌う。不死鳥に祝われる二人をドラコが真っ先に拍手を送り、それはやがて庭中に響き渡った。

 ビルとフラーの結婚式でハリエットがこんな風に、と胸を痛めていたハリーはグイっと目元を拭い、拍手を送る。まさかこんな未来が来るなんてあの時はみじんも思えず、姿は違えど血に濡れた彼女が日の当たる場所で笑い、力が入らず杖を持つのもやっとだった手がスネイプの腕をつかんでいる姿にほんとうによかった、とつい拍手にも力がこもる。

 花火から現れた花吹雪が赤子の鼻に張り付き、くしゅんと小さな火花と共に剥がれ落ちる。それにびっくりして、けらけらと笑う姿に大人たちは小さく笑い……。

いくよーと声をかけるハリエットがブーケを空へと放った。



 






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