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11:スタージョイの認定面接
ヘンリーとして学生生活最後を飾るホグワーツ特急。別れを惜しむスリザリン生がひっきりなしにヘンリーとドラコのいるコンパートメントを訪れ……ようやく静かになった、とヘンリーとドラコはなんとなく今まで通り並んで座り……誰もいない向かいの席を見つめた。
ゴイルは彼にとって片割れ的な存在だったクラッブが死んでしまったことがよほどショックだったと、そう聞いている。すっかりふさぎ込んだ彼にドラコは再三会いに行ったが、彼はとうとう復学することはなく、実家で心の療養をとっているという。
少し寂しいコンパートメントに二人はこれからことなどについて話していると、がらりと開いた扉と、どかどかとやってきたハリー達3人と同じく卒業したジニーが押し入りあっという間にぎゅうぎゅうになった。君たち遠慮ってものはないのかい?と呆れるヘンリーに窓辺に押しやられたドラコは眉を寄せる。
「最後くらいいだろう?」
しれっと答えるハリーにヘンリーとドラコは顔を見合わせて小さく笑う。空き教室で始めた最低限のマナー講習。ロンとハリーは呆れるほど時間がかかった。見に来たヘンリーはじっつと二人の様子を見て、ドラコにお疲れさまと笑いかけた。
互いに家のことでぎすぎすしていたロンとドラコだが、マナーを身に着けた後あたりからは軽口を叩けるまでになった。今も向かいに座るドラコをみて、肩をすくめて見せるなど、一年前からは考えられない、そんな光景だった。
「ロンとハリーは闇祓いか」
一年間マナーを教えて欲しいと、そう言ってかかわってきて態度が軟化したドラコはぶちぎれたハーマイオニーにつられて黙れロン、といった後ぐらいから徐々に名前を呼ぶようになり、今では少しぎこちないながらに名前を呼ぶようになった。
「僕たちはマルフォイ邸の地下まで知っているからな。抜き打ち検査もばっちりだぜ」
ふふん、というロンにドラコはそのままにするわけないだろう、と鼻先で嗤う。勝手に改築する気か、というロンに家に関する制限はないはずだが?とドラコは呆れた風に返した。
「グレンジャーは魔法省というのはものすごくわかりやすいな」
「えぇ、絶対色々改革して見せるわ」
領地のことでたびたび魔法省に行くドラコは今後も会うだろう、とハーマイオニーに視線を向けた。ハーマイオニーとジニーに関してはいまだファミリーネームだが、特別親しいわけではない異性をファーストネームで呼ぶわけにいかないだろう、とドラコは眉を寄せて答えていた。ことあるごとに様々な確執がある二人に対して彼なりの線引きのようで、ハーマイオニーもジニーも気にしていない。
「思えば8年間……マルフォイとはやりあったわね」
「食らえマルフォイと言いながら大きなナメクジを吐いたりな」
「あれは杖が折れていたからだ!」
「魔法界の蔑称を初めて教えてくれてありがとうマルフォイ」
「いや……あれは……」
「もう今更いいわ。白い毛長イタチさん」
「あぁ……あれか。まさかムーディが偽物とはな」
「バレエの練習か?だっけ?君のところに居たドビーの仕業の暴走ブラッジャー事件の時」
「は?いつの……ドビー?いや、何の話だ?初耳だが?」
「あーそういえば公表してないか、ドビーのやらかしの数々」
「ハリエット、知っているか?」
「なーんでしょーねー」
あはは、と明るい笑い声がコンパートメントにあふれ、列車は徐々に速度を落としていく。
「じゃあ先に行くよハリエット」
「ハリーが一度立ち寄って……一時間後くらいにつく予定。一応先に手紙を通常ルートで送ったけど……怖いなぁ」
僕はまだ観察中だから闇払いを待つというマルフォイと別れ、道中ヘンリーからハリエットに戻ったハリエットは透明マントを借りてホームに降りてきた。ここに来るのは家族が利用するときに見送りに来るぐらいで、列車に乗るのはよほどのことがない限り最後だ。
私はここで先生と待ち合わせだから、というハリエットにハリーは物件教えてくれてありがとうと笑いかける。かつてと違って一年学校に行くことが決まったため、借りられなくなるのでは、と慌てた時にシリウスがフットワーク軽く契約して家財道具も最低限いれておいてくれた。忘れていた、というハリエットにシリウスはなかなかいい物件じゃないか、と例の謎の爆発音を出す近所に笑っていた。
復学前の夏休みはハリエットともにホグズミードで過ごし、隠れ穴に呼ばれ……途中でハリエットはスネイプと共にプリンス邸に行き、また二人でホグズミードで過ごした。旅行には行けなかったが、それでも血のつながった家族として一つ屋根の下で過ごせたのは楽しくて……二人でアバーフォースのシチューを食べに行ったのもいい思い出だ。
ハリエットはこのままプリンス家へと引っ越す。マクゴナガルにホグズミードの家を返すという話があったが、別邸として使いなさい、とそういわれていまだハリエットが管理することになっている。
そろそろ行くね、というハリーにハリエットは日にち決まったら手紙贈るから、と手を振った。魔力が不安なため、ハリエットは姿くらましを使えない。迎えに来たスネイプと共に一度荷物を置きにプリンス邸にむかい、ほぼ完了している引っ越しを完結させる。そのままプリベット通りに向かって……最終面接だ。
ポン、という音ともにやってきたのは懐かしい場所で、ハリエットはスネイプを仰ぎ見た。心なしかいつもより顔色が悪い。
「あっていきなり水かけられるわけじゃないと思うよ」
行こう、と手をひけばスネイプは大きく息を吐き……ハリエットをエスコートする。夏だというのに黒い服は目立つが、スネイプが認識阻害の魔法をかけているらしく誰も気にしている風ではない。
ハリエット自身緊張していることもあり……大きく息を吸うとスネイプが呼び鈴を鳴らした。少し間が空き、扉が開かれ……ぱしゃりとかけられた水にスネイプは眉を寄せて軽く杖を振り乾かす。
「やっぱり!!この世界にあんた以外のセブルス=スネイプがいてたまるものですか!」
少しはきれいになったかしら、ととげとげとした言葉にスネイプのこめかみがピクリと動く。ピリピリとした空気にハリエットはいたたまれなくなり、スネイプの裾をひいた。
「あのぉ……ペチュニア伯母さん……」
「……目立つから中に入って頂戴」
ひょこりと顔を覗かせるハリエットに大きく息を吐き……ペチュニアは二人を中へと通した。水は恐らくはかつてネグレクトによるやや薄汚れたような印象からやったのだろう。あの頃から互いに関する記憶も何もかもが止まっている。
中に入ればバーノンがいて、ダドリーまでもがいる。現れた黒衣の男がほぼ同年代であることに気が付き、バーノンは驚いたように小さな目を開き凝視する。
そこに座りなさい、と向かいの椅子を示され、ハリエットとスネイプは椅子に座る。
「ハリーの片割れのハリエット=ポッターです。こちらは……こ、婚約者の」
「セブルス=スネイプだが、この度母方の名を継いでセブルス=プリンスに改名したばかりだ」
自己紹介をするハリエットがスネイプを示すとスネイプは正式に後継者となった家の名を告た。プリンス、といえばイギリスにおいて影響力を持つ王家が与える名としてマグルにもいることをバーノンもわかるらしく、教え子とそういった仲になっただけでも十分警戒する相手だというのに、よりによってプリンスなどという、大層なファミリーネームを継ぐなど……。
いや、そもそもいかれた連中の中に王室に関わったことのある、恐れしらずがいるという事にこの国は一体どうなってしまうんだ、と一瞬で様々よぎるバーノンはキャパオーバーの様に白目をむくようにして虚空を見つめている。
「……ハリエットに近づいた目的は何かしら。リリーに似ているから?リリーの娘だから?」
スネイプを睨みつけるペチュニアは尋問するかのような口調で問い詰める。どういったところで聞かないだろう、と眉を寄せるスネイプとバチバチとした視線のやり取りにハリエットは苦笑するばかりだ。ダドリーはそんな母を見るのは初めて、ずっと一緒に育ってきた従兄弟とそっくりな……片割れだといっていた少女を見る。
「経緯はどうであれ、今はハリエットをハリエット自身として愛している。……あの時のことをいまさら謝る気はない。あの後大きな過ちを犯したのも事実だ。ハリエットを傷つけたこともある。だが、私にとって今一番大切なのはハリエットなのだ」
誤魔化す気はない、というスネイプの言葉にペチュニアは顔をしかめ、じっとスネイプを睨みつける。リリーとの決別は……スネイプはきっかけだ。この男のせいで早まっただけに過ぎないだろう。
卒業後、もしかしたら歩み寄れたかもしれない未来は、緊張したのかそれとも本心だったのか、あのメガネの男のせいでふつりと消えてしまった。下地にこの男がいたか、それともいなかったか……それはペチュニアにもわからない。
「リリーが……あんたのそばにいたはずのリリーがあの男を選んでつれてきて……。魔法界にいる連中は皆あぁいうのばかりだと、そう確信したわ」
憎々し気なペチュニアの言葉に父さん本当に何したの?とハリエットは呆れるしかない。シリウスも詳しくは知らなかったようで、バーノンに対し何か言ったとか、マグルをマグルとして扱ったのだとか……。
ふさぎ込むリリーを元気づけるの大変だったらしい、というシリウスの言葉にただただ頭が痛いばかりだ。本当に父さん何をしたらここまでこじれるわけ?とハリーは呆れ……スネイプを見れば同じく呆れている。
「あの男は……ジェームズ=ポッターは最悪だ。人を追い回し呪いをかけ、人の作った魔法を盗み……。奴の功績は唯一ハリエット達をこの世に生まれたさせたこと、ただ一点だけだ」
スネイプの言葉にハリエットは思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を抑えてそっぽを向く。本当に、どんな悪行を重ねたんだ。
「あら、意見があうなんて心外だわ。あの男……学校でも問題を起こしていたのかしら」
「バカ犬とお人よし狼と、腰ぎんちゃく鼠と……あのメガネと。マローダーズと呼ばれる4人組だ。狼と鼠この際どうでもいい。ただのおまけだ。冤罪とはいえ犯罪ギリギリの犬と、あの男は二人がかりでなければ人を呪えないらしい」
あれ?もしかしてこのまま黒い連合できる?と同じ恨みを持つ相手がいるからか、若干饒舌になるスネイプと、本当になんであんなのを選んだのか理解できない、と言い放つペチュニア。幼い頃のやらかしはあれど、意外なところでウマが合うのかもしれない、と互いにジェームズに対する負の感情を吐き出していくのをみて……なんか知らないけどありがとう父さん、とハリエットは大きく息を吐いた。
いつの間にか復帰したものの飛び交う言葉に口をつぐむバーノン、そしてなんだこれ、と呆れる風のダドリーを見る。ダドリーと目が合うと説明を求めるような視線を感じ取り、さっぱりわからないと肩をすくめて見せた。
散々言い合った後、謎の関係が芽生えたのか、最初ほどの険悪な空気は薄れ、なんなんだろう、とハリエットは首をかしげるしかない。
「ハリエット、このろくでなし男と結婚するのに不安要素ばかりあるけれども、何があっても貴女を守る、それだけは信用しましょう」
散々な物言いだが、スネイプは特に気にしている風でもないため、ハリエットはあいまいな顔で頷くにとどめる。
「リリーが……魔法界が不安定であることと、ハリエットを守るために外に出すことを……これと一緒に手紙に書いて送ってきたわ」
これを、というと古い箱を机に置いてハリエットに差し出す。戸惑うハリエットに開けるよう促し、ハリエットは恐る恐る箱を開いた。
「結婚式の際、あの子が被ったという冠とヴェールよ。自分に何かあった際に私に相手を見極めてほしいと、一方的に頼んできた、貴女に関するあの子の贈り物」
式には行くつもりはないから、と席を立つペチュニアはハリエットの隣に来ると、冠をヴェールごと持ち上げ、そっとハリエットの頭に乗せる。
「ヴェールを下すのはあなたを育てた養母にお願いなさい。私は、これを貴女に渡すまでが役割」
魔法がかかっているのか、さわさわと銀の細工が揺れる冠は磨かれていないはずなのにまるで今作りたての様な輝きを放っている。
「私の人生にも、貴女の人生にも互いの時間も記憶もない。こうして会うのも、これが最初で最後かもしれない。幸せになりなさい、ハリエット。それがリリーの願い。そして、あの子に代わってこれを渡す、私の願い」
わかった?というペチュニアにハリエットはぐっと涙をこらえてこくこくと頷く。同じように涙を目に湛えるペチュニアをバーノンが優しく抱き寄せる。何も言わず、無言で小さく首を動かしたスネイプにペチュニアは何があっても、消し炭になっても守りなさいよ、とスネイプに告げてバーノンと共にキッチンへと行く。
箱を手に家を後にする二人をダドリーが見送り、ハリーにクリスマスカードぐらい贈るか、と扉を閉めた。
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