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7:貴族マナー
ドラコが送ってくれたカジュアルフォーマルなドレスはどこか森をイメージする深い緑で、魔法がかかっているのか森の木々が揺らぐように時折より明るさの違う緑が揺らぐ。
ハリーがドラコを呼び出し、空き教室で正装したハリエットが久しぶり、と手を振る。入口で思わず足を止めるドラコだが、スズランのバレッタで髪を止めたハリエットに似合っていてよかった、と笑いかける。ハリエットがヘンリーであったことは生徒には秘密のため、面識のないハリエットが行くのもおかしいと、ハリーが呼び出してくるよと手を上げてくれた。一時間くらいしたら迎えに来るから、とそう言って教室を出ていった。
「監視対象の僕を置いていいのか?」
やれやれ、とため息を吐くドラコにハリエットは笑いかける。ハリエットの記憶ではセクタムセンプラ事件から先がないため、とっさに出たあの瞬間しか覚えていない。きっとドラコにも迷惑かけただろうな、と入っていたドレスと同じ色の靴を軽く鳴らし、ドラコの近くにある机に寄りかかる。
「これ……貰っちゃっていいの?すごい高そう……」
「あぁ、いいんだ。何度かポッターと話して……あぁそっか、一応君もまだポッターか。でもハリエット、今更呼び方を変えられないから我慢してくれ」
カジュアルフォーマル?というハリエットに正式な場ではもっと華やかなものの方が良い、とドラコはハリエットの髪飾りのゆがみを直す。まだポッターという言葉にハリエットはへへ、と笑う。
「ポッターがスネイプ教授と共にプリンス家に行くって聞いて。前にローブドレスを購入したところ覚えているだろう?遅れた原因の一つに内輪もめがあったそうだ。今までも贔屓にしてもらっているので、次に必要な場合はぜひプレゼントさせてほしいと。マルフォイ家の権威は地に落ちてはいるのだけれども、僕が……僕がとても大切に想っている女性が婚約するにあたって相手の親族への挨拶のために簡易的なドレスが欲しいって依頼したんだ」
本当は僕の財産があればそれで買いたかったけれども、今はすべて凍結されているから、とドラコは改めてハリエットを見て、本当によく似合ってる、と笑う。
「ちょうどヘンリーと似たような背格好で、黒い髪に緑の瞳を持った優しい子なんだ、と。きっと婚約者は黒一色の服だから、それに見合った服が欲しいと……。本当はダメもとだったんだ。マルフォイの名は今や悪名高いし、今後もあのテーラーを利用できるか疑問ではあったからな」
予備で持っていたハーフリムの眼鏡をしたハリエットを見つめるドラコは一度だけハグしてもいいか?と問いかける。友としてならいつだって、と返すハリエットは親友となったドラコと親愛のハグを交わす。
「あぁ本当に……あんな年上にとられたなんてな。絶対君以上に愛する人を見つけ、今度こそ誰になんと言われようとも、彼女が望んでくれれば僕はその手を離したりはしない」
歴史もあり、今は抑えられてはいるが様々な利権をもったマルフォイ家の名前に入れないこと後悔しても知らないからな、とにやりと笑うドラコに先生の家だって負けてないかもよ?とハリエットは笑い返す。
「そうだハリエット。まだ母上には聞いてはいないが……。名だたる家に入るという事はそれ相応の教養を求められるだろう。もし、母上が承諾していただけるのであれば淑女の振る舞い方を習うことも考えた方が良い。それか、アンドロメダ伯母上も最低限の教養は受けているはずだから、聞いてみるといい」
そろそろ行かなきゃ、というハリエットにドラコは名を持つ家にはいる以上、必要なことがあればいつでも相談に乗る、と言って……迎えに来たハリーにお前も必要なら教えてやろうか?といつものどこか小ばかにした顔で言う。
「残念ながら、僕は一般家庭だからね」
「いや……闇払いになるつもりなら習っておいてもいいとおもうよ。英雄としてあちこち行くこともあるし」
必要ないさ、というハリーにハリエットは何か思い出したかのように小首をかしげる。え、と顔をしかめるハリーだが、そうだ、とひらめいたとばかりに手を叩いた。
「ハリエットも、マルフォイも、あと1年復学すればいい!そこで一緒にマナーも覚えればいい!」
名案だというハリーにハリエットと、ドラコまでもがぽかんとする。そこでハリエットはハリーが自分とは異なり、復学するのだと気が付き、にこりと笑う。よし決まりだね、というハリーに慌てたのはドラコだ。彼はスリザリンとして、印はないものの死喰い人として活動をしていた。だから退学処分で構わないと、そう考えていただけに突然の復学の話に慌てるしかない。
「いや、さすがに僕が戻るのは」
「ドラコ、家のことについて私はまだよくわかってないところもある。けれども……ドラコがやりたいことを選んでも、きっとナルシッサさんは許可してくれるよ。周りに死喰い人だ何だ言われるのはきっとこの先もずっとあると思う。けれどそれはドラコを知らないから。ドラコがどんな人か、せめて一年間でいいからみんなに伝えようよ」
幸いマルフォイ家の収入は昔で言えば領主的なもので、その管理などが主な仕事だ。だからこそ父ルシウスが拘束されている以上家を継がなければ、と考えていたドラコはまだ学生でいていいわけがないと首を振る。だが、ハリエットは家のせいで死喰い人にならざるを得なかったドラコが全て背負おうことはない、と首を振った。
「僕が勝手なことをしてもいいのだろうか」
「言い方はまずいかもだけど、もともとはルシウスさんが勝手に始めたことだったのに、それを息子にも背負わせるのは違うと思う。それに……いきなり家を継ぐのだってドラコも知らないことあると思うんだ。幸い、ここにはいろいろな経歴の先生がそろっているから……一緒に勉強しよう」
迷う風のマルフォイにハリエットが手を握り、考えておいてと笑いかける。ハリーも僕だって同じさ、という。
「ヴォルデモートが予言を信じて……そして勝手に僕を選んだせいで僕は英雄になってしまったんだ。一年位……普通の生徒になりたい、ってそう思ったから復学することにしたんだ」
だからマルフォイも自分がどうしたいかを家を抜きで考えるんだ、というハリーにドラコは大きくため息を吐いた。
「ハリエット、君がこれの片割れだっていうのがよくわかった気がする。少し考えさせてほしい。あの時、あの列車の中……あんな捨て台詞を吐くほど幼稚でなければ……今頃どうなっていたのか。例のあの人に対抗する君らと、言いなりになるしかなかった僕。きっと、あの時が分岐だったのだろうか、と」
いろいろ考えたいというドラコに双子は顔を見合わせ、待ってる、とほぼ同時にこたえ……3人で声を上げて笑いあった。
片割れである自分と仲が良くなれたのだから、きっとハリーとも少しは歩み寄れるはず、とハリエットはドラコの背を叩き、それじゃあ行ってくる、と足早に去っていく。
以前のドラコとは疎遠だった。同じように助けたいと、そう思い似た状況ではあったが、彼は気が付いたときには退学届けを出してホグワーツから去ってしまった。自分も復学せずに闇祓いになったため、同じく途中までだ。マクゴナガル教授の計らいで自主退学をした7学年に該当した生徒はみな卒業として処理をしてくれた。
なんとか家を建て直したという話は先輩から聞いてはいたが、家を継いだことと理事など外部にかかわる役職をすべて降りたという話だった。風の噂ではどこかの純血の家の人と婚約を検討しているというのも聞いたが、真偽のほどはわからない。
もしかしたら20歳から時が動いた“ハリー”ならばわかるかもしれないが、あいにく自分が受け継いだ“ハリーの記憶”は磔の呪いまでだ。だからあの時代のドラコがどう過ごしていたのか……。もう少し話すべきだったな、とハリエットは待っていたスネイプにお待たせ!と微笑んだ。
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