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6:帰郷

 スネイプの体調も大分良くなったころ、例の招待状の為にしぶしぶといった風に服を新調しにいたスネイプを見送り、ハリエットのカジュアルドレスを買いに行かなければ、とマクゴナガルはハリエットを見ていたそんな朝。大きな平たい箱をフクロウが運んできたことに首を傾げ、開けたハリエットが持ち上げたものを見てあら、と優し気な目でそれを見た。

「少し前にミスタ―マルフォイがフクロウの使用を要請しておりましたが……このためだったようですね」
 ここに親愛なるハリエットへとカードに書いてあります、というマクゴナガルにハリエットはくすっと笑う。あとでちゃんとお礼を言いに行こう、と微笑んでマクゴナガルと共に湖へと向かった。


 大半の生徒は夏休みを前に城が壊れていることもあって、家へと帰っていった。残っていたのはマルフォイらのように留置室にいる生徒を除き、帰ることが何かしらの理由でできない生徒や、学校を直すことに協力したいと名乗った生徒などだ。
 自由に動ける生徒たちやスネイプ以外の教員が同じように湖の周りにいる。

「あ!ボーバトン校の馬車だ!」
 じっと待っているとすぐに声が上がり、見覚えのある大きな馬車と天馬がひらけた場所に舞い降りてきて、わぁっと声が上がった。いつぞやの様にダイナミックに停まった馬車からは急くような声が聞こえ、踏み台を設置するボーバトン校の生徒が声をかけると寮の先輩や後輩、あるいは避難の対象外だった生徒に飛び出してきた生徒らが再会に喜び合う。

 よかった、と抱きしめる生徒たちに続き、マグル生まれの卒表生らが遅れて出てきて懐かしい教員と再会を喜び合う。スリザリン出身と思われるマグル生まれの魔法使いらは痛ましげに校舎を見上げ、懐かしいポンフリーなどと握手を交わす。

 ゴゴゴ、という音ともに湖に渦が発生し、ダンブルドアの葬式の際初めて見た、大きな船が姿を現す。純白の帆をいくつも携えた大きな船はダームストラング校の船とは違い、陰鬱な雰囲気はない。確か同じ島国である日本の魔法学校のものだったはず、と思っているとタラップが下りてきて、幼い子供たちと保護者らが興味深げにしながら降りてくる。

 まだホグワーツに通う前の年齢であるマグル出身の子供たちと特別許可された保護者と、クリビー兄弟のようにマグル出身の兄弟らをマクゴナガルが出迎える。いずれ年齢が来たその時に再び来るはずの魔法学校。副校長であり……ハリエットの知る未来ではもうすぐ校長に任命されるマクゴナガルが丁寧に対応していた。
 やがてウガンダのワガドゥー校に避難していた生徒らも戻ってきて、マクゴナガルは校長代理として同伴していた各々の校長と挨拶を交わす。

 汽笛の音がして、いったいどこからときょろきょろする生徒らだが、大空に激しい光と共に現れた汽車に驚きの声が上がる。空に現れた光の線路をたどる汽車からはホグワーツに戻ってこれたことを喜ぶ生徒らが身を乗り出して声を上げ、やがて大蛇がとぐろを巻くようにぐるりと巻きながら汽車は停車した。

「イルヴァーモーニー魔法魔術学校……これで避難していたマグル出身の人々は全員戻ってききたわね」
 傍に来ていたハーマイオニーのほっとする声にハリエットは頷き、白い墓へと視線を移す。再会を喜び合っていた生徒らも自然と白い墓へ、偉大なる魔法使いが眠る墓碑に視線を送った。予見者ハリエットの助言によりマグル生まれの人々を避難させるべく方々に協力を呼び掛けた賢人。ハリエットも知らぬ、かつての世界で殺され蹂躙され奪取されていた無名の人々も助かったのはひとえにダンブルドアの尽力あってのことだ。そう考えるハリエットにハリーは違うよと声を上げた。

「ハリエットが全部を知らせたから、だからこそダンブルドアは対策をすることができた。ハリエットが皆を助けたいって思ったから、ダンブルドアは対応できたんだ。確かに、声をかけて実行に至ったのはダンブルドアのおかげだろう。けれど、そのダンブルドアを動かしたのは他ならない、ハリエットなんだ」
 君の行動が、皆を助けたんだ、というハリーにハリエットはぽかんとした顔で各国から戻った人々を見る。今のハリエットには一年間の記憶がない。だからその間何が起きたのかはわからない。かつてマグル生まれの魔法使いたちが次々不当な裁判に掛けられ、そして連れていかれてしまった。今回はどうだったのか。かつてもマグル生まれの未就学児はどうなったのか。
 無事を喜び合う人々を見て、ハリエットは胸を詰まらせた。

「たぶん天文台の塔にいると思うわ」
 ハーマイオニーの言葉にハリエットは顔をあげ、たっと駆け出す。
「こういうところは僕はいまいちわからないなぁ」
「たぶんそれがハリエットなのよ」
 うーん、と唸るハリーにハーマイオニーは笑い、親交を深めたらしい付き添いの生徒と別れを惜しむホグワーツ生を見る。やっぱり復学して、ぜひともいろんな魔法学校の話を聞きたいわ、というハーマイオニーにロンはあー僕も復学しようかなーとハリーを見た。

「迷っていたんだけど……僕も復学しようかな。ハリエットはさ、そのまま闇払いになったみたいだけど、やっぱり……もう一度ちゃんとしてみたいなって」
 ハリエットの世界ではこんな避難がなかったという事で、3人は共に魔法省に入っていただろう。だけれども、今は復学する理由もある、と3人は顔を見合わせハリーと呼ぶジニーに視線を移した。行くよジニー、と返して向かうハリーの後ろで、私たちも最後の青春楽しみましょうとハーマイオニーとロンが手を握り合う。


 天文台の塔では走ってきたハリエットの顔を見て、飛びついてきた彼女をスネイプが優しく撫でる。抱きしめ、彼女が背負ってきた憂いの一つに口付けを落とすその外では、別れを告げるボーバトン校の馬車が空を飛び、マホウドコロの船が渦に消える。
 最後に残った汽車はゆっくりと浮上しながら動き出し、色とりどりの煙を上げながら速度を上げ、雷鳴のような光と共に一瞬で消えていった。一年の間共に学んできた異国の生徒を見送ったマグル出身の魔法使いらをはじめとして、各国の魔法学校の交流がこの翌年から活発になったのは言うまでもない。

 






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