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4:双子
キングズリーがマクゴナガルに何かを訪ねているのを見て、なんとなくそちらに足を向けたハリーは何やら羊皮紙を持っていることに気が付いた。近くにいるハリーに気が付いたのか、マクゴナガルが呼びかける。
「ミスターポッター。プリンス家という家系について心当たりはありますか?」
どこかで聞いた覚えはありますが、というマクゴナガルにキングズリーは長らく継承者はいないという記録のはず、と首をかしげている。
「え、えと……。スネイプ……先生の母方の苗字で……。あー……アイリーン=プリンスとかいう」
「あぁ!思い出しました。スリザリン寮の当時いたプリンス家の……。風の噂では家を廃嫡されたと聞いていましたが。それでこの書状を……」
忘れもしない半純血のプリンス。名前を記憶から引っ張り出したハリーにマクゴナガルは優秀な魔法薬学の生徒と聞いていますが、というとキングズリーはだから記録に無いのか、と頷く。
「魔法省はアンブリッジが荒らしたせいでそこら辺の記録がまだ直っていなくてね。セブルス=スネイプの罪状等に関しての念書が届いていてね。なんのつながりがあるのだろうと思ったけれども、そうか孫にあたるのか」
それじゃあこれについては早急に対処しよう、とキングズリーはにこやかに笑い、彼女が関係しているのかな、と同封されていたという手紙をハリーへと渡す。
「ハリエット宛の手紙が入っていたんだ。てっきりポッター家と何かかかわりがあるのかと思ったんだけれども、そうじゃなかったみたいだね。すまないがハリエットに渡してもらってもいいだろうか?」
まだハリエットの部屋には直接梟の郵便が届かない。シークはヘドウィグと共にハリエットとの再会を全身で喜びを表した後、よほど心配していたのか今は具合が悪くなって休んでいる。ハグリッドの見立てでは少しすればすぐに元気になるという事だ。
ちょうどハリエットのところの行こうとしていたハリーは手紙を受け取り、いろいろ書類を作らなければ、と立ち去るキングズリーを見送った。
「もしかしたら、ハリエットが残されたセブルスのことを思い、プリンス家へと彼の後ろ盾になって欲しいとそう願い出たのかもしれませんね」
あの子のことだからきっと内緒ででしょうけど、と微笑むマクゴナガルにハリーは別れを告げ、足早にハリエットの部屋を目指す。
ノックもなしに開けると、ちょうどカボチャジュースを飲もうとしていたのか注いでいるところで、驚いてコップからこぼしている。
「ねぇ、ノックとかそういうの無いの?」
「あー……ハリエットならいいかなって……。これと一緒にキングズリーに後ろ盾になることへの書状が届いたって」
ハリエットが自分であるという確証を得た今、なんだか今まで以上に身近になった気がして……つい自分なら、と考えてしまいハリーは手紙を差し出した。やはりハリエットはそれ以上は言及せず、受け取った手紙を開き、何とも形容しがたい音が喉から鳴る。
「ハリー。カジュアルフォーマルって……何?」
しかも女性のって何?と固まるハリエットにハリーは知らないよ、と返して横から手紙をのぞき込んだ。
「気軽な服装でいいって書いてあるんだから……普通の私服でいいんじゃないのかな?」
「貴族の家に行くのに?」
「あぁ……」
別にいいんじゃないかい?というハリーにハリエットは呆れた顔をして、ハリーもマルフォイ家を想像してダメか、とため息をついた。
「いつからスカート平気になったとかあるのかい?」
「あー……結構そこらへんはまぁ4歳まで普通だったし……先生が言うようにもともとが女性のハリエットだったからかな、あまり気にしてなかったかも。ただ、4学年の時に買いに行った時とか、3学年前の夏休みに下着を買いましょうといわれた時とか、逃げたくて仕方がなかったかな」
ハリーは自分だったらと想像して、ポリジュース飲んでいても無理だな、と顔をしかめ……ハリエットは小さいころからだったからね、とわかるよと頷く。
「でもさ、さすがに女子寮と……そもそもトイレとかシャワーとか。わたしが男装していた気持ちわかるでしょ?」
かつてハリーが女の子の自覚を持ってと言っていたことに対し、あの時は男装して男子生徒なのにと言っていたが本当の理由を話すとハリーは頷く。
「あー……まぁ全部わかってから考えるとすごく納得。でも、その、自分の体を見ていたなら慣れたんじゃないのかな?」
「慣れというよりも気持ちの問題かなぁ。それに、スリザリンは皆必ず腰に布巻いているのと、グリフィンドールみたいにネビルがすっころんでオープンしたり、どっからか冷水シャワー飛んでこないし……。石鹸が頭上を飛び交うこともないし。すっごく静かだったよ。そりゃ……3学年からはさ、私は腰にタオルを巻くだけじゃなくて、肩にもタオル載せて、なんとなく胸は隠していたけど……」
ハリエットの言葉にハリーは何か思い出したのか、吹き出して、大はしゃぎするドラコを思い浮かべ、ないないと首を振る。ネビルが転んでタオルが宙を舞うなんてことは週2,3回は見ており、ネビルと偶然シャワータイムが重なることも大体2,3回だ。つまり毎回という事だった。
何となく胸は隠していた、というハリエットに何かあったのかい?とハリーは首をかしげる。ハリエットはあー、と声を上げ……ハーマイオニーにさ、と口を開いた。
「ハーマイオニーが夏、数日だけ泊ったんだけどその時に、私が……その……女の子が身に着けるあれ着けてなくて……。それで偶然とはいえ先生に遭遇したもんだからさ、部屋に戻った時にハーマイオニーに言われたんだ。その……ノーブラだって」
顔を真っ赤にしてごにょごにょと話すハリエットにハリーも同じく顔を赤らめ、確かに?と頷く。それで意識し始めたんだ、と納得し……じっとハリエットを見る。眼を泳がせるハリエットに君もしかして、と口を開いた。
「スネイプにそれみせたりしてないよね?」
「みっ!!!あ、え、ああ、えっと」
まさか馬鹿正直に、ブラ付けたんです!とか宣言してやしないか、と疑いの目を向けるハリーにハリエットは声を裏返しながらあたふたとして……ハリーと目を合わせない。別に先生にブラ付けました!といったわけではない。ただ、改良版を飲んだ時にヘンリーがブラをつけている状態になってしまい、その後検査もかねてじっくり食べられたことがとてもじゃないが気まずい。
「ちゃんと年齢相応に……あ、そっか。感覚的には歳違いんだ……いやいや。そうじゃなくて、ちゃんと!ちゃんと!!健全な付き合いをしているよね?」
耳を塞ぐハリエットの腕をぐいぐいと引っ張るハリーに、部屋に入ってきたマクゴナガルは何をしているのです、と呆れた風にため息をついた。
今まで二人が会う時が様々な事情で長く話せなかったため、時間も気にせずとなるとごく普通の兄弟の会話に近いやり取りがされるようだと、兄弟のいるマクゴナガルは微笑まし気に二人を見つめた。
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