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ムスカリで紡ぐ不器用な花冠

エビローグ


1:鎖は解き放たれた

 転生者としての運命から消えたハリエット。
彼女をこの世界に呼び戻した、死ぬ運命だったスネイプ。
ちぎれた運命の鎖は消え去り、誰も知らぬ未来へと進み始めた。

 互いに魔力を使い果たした状態だったために眠り、翌朝にそろってポンフリー他、大戦の治療の応戦として来ていた聖マントマルゴ病院の癒者らの検査を受けていた。スネイプ自身については長期間の昏睡状態と、一年間の疲労等による一時的な衰弱状態であると診断され、しっかり療養するように、と診断が下される。

 問題はハリエットだ。診断の結果わかったことはハリエットの体は足まだ悪い状態で、なおかつ傷といえば頬についた古傷と、5学年終了間際の拷問でついた傷がごくわずかに残っている状態であった。

「フォークスが……5学年時に赤い宝石のようなものを飲むようにと促してきました。6学年時の3月の終わりだったかな。ダンブルドア先生に呼ばれて行ったときに、卵のようなものが胸元から出てきて、フォークスがそれを抱えて燃焼日でもないのに燃えました」

 それが関係しているんでしょうか、と不思議そうなハリエットに癒者も首をかしげるしかない。不死鳥という存在自体数が少ないことと、魔法使いのそばにいるのが二羽しかしないことから詳しいことが分からないというのもある。
 それと不可解なのが何度燃焼を行っても性別など変わることのない不死鳥だが、ハリエットの髪に隠れていたのは雌の不死鳥であったことだ。水面に灰を落とし、ハリエットの言う炎の卵のようなものを落としたフォークスはあれから姿を見せない。ということはハリエットの髪にいたのがフォークスのはずだが……。

「フォークスとは別の不死鳥と考えていいのかもしれない。いまだ彼らの生態が解明してはいないけれども、きっとマグルの間で言われている血を飲むことで不老不死に、という伝説のもとになっているのではと今はそう考えている」
 アクロマンチュラの対処の為に呼ばれていた、ダンブルドアとは旧知の魔法生物学の権威の男性はそう言って雛をハリエットに渡した。

「赤い雫状のものを対象に飲ませ、そして期を見て卵として回収し、肉体の情報を保存したんだろう。特定の条件のもとでその卵から対象が蘇る。おそらくはそれが血を飲むことでの不死などの伝説になったんじゃないかって。ダンブルドア家にどんな経緯で守護することになったかわからない。けれども、その雛は君に懐いているように見えることから、君の家族を見守る存在になっているんじゃないかな。フォークスという不死鳥は役目を終えると同時に存在を消し、新たに生まれなおしたと思う」

 これはもう君の守護者だ、と微笑むとこの子に名前を付けてあげてという。突然のことで戸惑うハリエットはスネイプに助けを求めるように視線を向けた。ハリエットの守護者、と聞いてスネイプはじっとハリエットを見つめる。

「イスマはどうかね?イスメネ・デフレクサという復活を意味する白い花があるのだが、そこから名を取り、どこの言葉だったか……高貴なや神の加護を意味する言葉だ」
 復活の意味を持つ花だというスネイプに、様子を見に来たシリウスは一体どこからつけているんだと呆れて俺が考えると声を上げた。バーニング、フレア、ガイアなんていうのもいいな、と唸るのをハリエットは見て……それから雛を見つめる。

「イスマ……。うん、いいと思う。イスマ、それでいいかい?」
 高貴を意味する名前と聞いて、ハリエットはこれでいいと笑う。古い魔法薬の名にはそういうものがあったというスネイプにシリウスは忌々し気に唸る。イスマは特にそれで問題ないのか、くわっと口を開けてハリエットの手の中で寝る姿勢となった。それを男性……スキャマンダー氏は不死鳥の雛は育てたことはないけれども、とふかふかとした寝床を作り、その中にイスマを入れる。それじゃあ、と入口で待っていた妙齢の女性と合流し、アクロマンチュラ対策へと向かっていった。


 ハリエットの体については解決したものの、一つ解決していないこととして、ハリエットの魔力が一晩だってもほとんどない状態だという事だった。

「もともと、貴女は例のあの人を一時的にとはいえ弾いて逃げ出せるほどの力を秘めていたようですが、今はほとんど感じられません」
 いいですか?と額に手を置き魔力を送るともう一度検査を行う。
「一応力はため込むことができるようですが、受け入れる器が小さいのか、あるいは漏れてしまっているのか……」
 この方法ではもともとあまり入らないのですがそれでも、という癒者にポンフリーはじろりとスネイプを見る。あなたはダメですよ、という視線を受け、スネイプはハリーを見た。

「ポッター。ハリエットの額と腹部に手を置いて魔法が流れるイメージをするのだ」
 できるだろうというスネイプに、癒者はそれは危険ではと止めようとしてポンフリーを見る。学校では通常行いませんが、というポンフリーがみているとハリーがこうかな、と手を置き力を動かし……。

「いたっ!いきなりやりすぎ!!普通ちょっとずつやるものでしょ?」
「なに!?意味わからない状態でやれっていわれてやっただけなんだけど!ってすっごく疲れた……。今のなに」
 ハリエットも何をするのだろうと思ってみていたが、ハリーが手を置いた場所に心当たりがあったのだろう。じっとして……いきなりやりすぎと抗議の声を上げる。癒者は全く危ない、と言いながら検査し……結論がでたのかうなずく。

「今のでミスポッターに十分な魔力が補充されたようです。ですが以前と比べその量はあまり多くはありません。結論として、今は回復するのにとても時間がかかるのではないか、という事になります」
 今後も定期検査を行いましょう、とそういう癒者にハリエットは杖を手に持ち、軽く振ってルーモスを唱える。問題なさそうなことを確認し、ノックスとそれを消す。


「最後の確認ですが、ミスポッター。あなたはどこまで記憶がありますか?」
 体に関しては以上です、というとハリエットの記憶についてを尋ねる。ハリエットはえぇっと、と言いながらハリーを見て、戸惑うように自分の右手を見る。

「ハリーの魔法からドラコをかばったあと……そこからの記憶があいまいで……。先生がそばにいた気がするけれども」
 はっきり覚えているのはそこまでです、と言ってやはり怪我のない右手に戸惑っている。大怪我をした後目が覚めたら森で、ハリーが言うにはヴォルデモートと同じ状況……つまりは甦ったという事だ。
 癒者もどういうことなのかと首を傾げ、とりあえずは魔力に関すること以外は問題ないという診断をくだし、他のけが人についての治療のため離れていく。


 癒者が離れ、傍にハリー達以外いなくなるとおそらくは、とスネイプが口を開いた。
「クィレルへあの呪文を唱えた際にハリエットの魂が傷つき、腕に巻いていたブレスレットにしていた髪紐を意図せず分霊箱にしてしまっていた。そしてハリエットはあれを片時も離さずにいてくれたが、記憶のない時の私がヘンリーを助けた際に寝にくいだろうとそれを外し、返しそびれてしまっていた。常に本体と共にあることで記憶を共有していたが、離れたが故に更新ができなくなったのだろう」

 ハリエットの分霊箱、と聞いてハリーが驚いて振り向き、クィレルのことを思い出してハリエットをぎゅっと抱きしめる。まさか大切にしていたあれが分霊箱になっているとは気が付かず、ハリエットはぽかんとして、スネイプを見た。

「本来消えるはずの転生者の魂の一部が残ったことで、ハリエットの前世……ハリー=ポッターの魂もまた完全には消滅せず、狭間で引っかかった。おかげで、かつての君も元の場所に戻れたようだ」
 いくつもの偶然が起きたことでありえない奇跡が起きた。スネイプの言葉にぽかんとしていたハリーはさらに驚き……嘘でしょという。何がだと首を傾げればハリエットは混乱している風に頭に手を置き、ハリーを見る。

「僕、磔の呪文複数受けて死んだんじゃ」
 え?どういうこと?いうハリエットに前世の死因と思われたのはそれなのか、とシリウスは顔をしかめた。ロンやハーマイオニーもハリーを見る。スネイプだけはハリエットの記憶から知ってはいたがどう説明すべきか、と頭を抱えた。

「詳しいことはまた後で話すが、どうやら磔の呪いで魂だけが吹き飛ばされたようだ。ぐずぐずしていたポッターを呼ぶ女性の声に反応して走っていった。ハリー=ポッターとしての未来での死を誰が確認し、死を確定したというのかね?おそらくはかつての転生者らも同じであり、そして消滅と共にそちらの死も確定した可能性がある。あるいは戻ったか。その未来を知るものはどこにもいないため、推論の域を出ないが」

 今回は残ったというべきか、というスネイプにハリエットは目をしばたたかせて……ハリーを見る。ハリーもまたハリエットを見て、誰の声かわかって照れ恥ずかし気に笑いあった。
 スネイプの推測ではあるが未だにハリーの記憶を持っているハリエットは複雑に絡んだ結果なのかな、と受け入れ、本当によかったと心から微笑んだ。スネイプに助けてもらった命を、皆が繋いでくれた命を、無駄にしていなかったことが本当にうれしい。

 魔力が大幅になくなってしまったのは不思議だが、その代わりに“ハリー”が元に戻っていったという事が……転生者としての運命から解き放たれた気がして、ようやくほっと息をつくことができた。






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