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29:ある、転生者の結末
ハリーはヴォルデモートの意識で見えた叫び屋敷に侵入し、中の様子をわずかな隙間からのぞき込む。ヴォルデモートの傍にいるのは、恭しく頭を下げているのは……かつて、かつて片割れが愛していた男だ。あんなにボロボロになった彼女が会いに行きたいといった……彼女をぎりぎりで助けていた……大嫌いな男。
杖の持ち主についてヴォルデモートが静かに問いかけ、それに対しダンブルドアの杖は貴方様のものだという。だが、ダンブルドアを殺したものに忠誠がいっているというヴォルデモートは、少しも残念だと心にも思っていない声色でお前ほどの手下を失うことになるとは、とわざとらしくつぶやく。
たしかに、あの時ダンブルドアを殺したのは間違いなく黒髪の男で……。杖の忠誠、それは確かオリバンダーから聞いた。だがヴォルデモートが手にしている、かつてダンブルドアが握っていた秘宝の一つである杖はそれだけ特別というのか。だがヴォルデモートはその杖を向けようとはしていない。その代わりにナギニに手を伸ばす。
その瞬間、ハリーはぎゅっと胸を締め付けられる嫌な予感に、ダメだ、やめろ、と震える唇で呟きそうになるのを拳を入れることで何とかこらえる。
あっという間の出来事だった。反射的のように杖を取り出す男に蛇が絡みつき……あの低い声を出す喉に食らい付く。吹き出した血で体を染め、人形のようにがくりと膝をつく男にハリーは震えが止まらない。まだ息のある彼をおいてヴォルデモートが去っていく。
顔を青ざめたハリーを心配するハーマイオニーとロンを振り向き……ヴォルデモートが完全に去ってから木箱をどかして中へと、かつてシリウスと会った部屋に飛び込む。そこは男が噴出した血で様相が一変しており、赤く染まっていた。
男は掠れた息でまだ生きていたが、吹き出していた血は勢いを失い傷口から静かに流れるだけという事実に……膝から崩れそうになる。やはり、彼は……。
黒い瞳がハリーを捉えると、懐から靄の入った瓶を取り出し、震える手で差し出した。衝撃のあまり立ちすくむハリーの代わりにハーマイオニーが受け取り……近くで男を見た親友は嘘でしょ、と震える声を出す。やだ、そんな、と悲鳴のような声を上げる親友は瓶を握り締めたままその場に泣き崩れてしまった。
何が、と混乱するハリーの目の前で、男はヴォルデモートに向けた黒い杖を落とし、懐から長い杖を取り出す。ミサンガが絡みついた杖はどこかでみた気がして……ハリーは違う、と力なくつぶやく。男は指の間でかろうじてつかんだ杖を使い、力なく円を描き真一文字に縦に動かすと、そのまま杖を取り落とした。
男の息が、頼りない風の音になると、別室から物音が聞こえ、とっさにロンが杖を構える。そして開いた扉に思わず目を見開いた。
開いた扉に呆然と立つ男よりも一層青い顔をした男は……血に濡れた口角を満足げにあげた。血だまりに落ちた杖に絡んだミサンガがチリチリという音を発しながら静かに燃えていく。
その音を聞きながら、ハリーはわかっていたはずじゃないか、と血だまりのスネイプを見つめた。スネイプが危ないと、そうわかった時……逃げるスネイプに感じた違和感の正体が分かった。あれは……ハリエットだ。スネイプを隠したハリエットが……彼を装っていた。
「行こう」
泣きじゃくるハーマイオニーを促し、ハリーは立ちあがって……呆然とするスネイプと、薬の効果が来たのか、徐々に体が縮む倒れたスネイプを見る。最後まで効果がきれる瞬間を見るわけには行かない、とロンと共にハーマイオニーを促して……ハリーはその場を立ち去った。
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