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25:最後の仕上げ
スネイプにお願いをして、スネイプの私室でハリエットは寝泊りをしていた。もう剣も何もない校長室での仮眠の必要もなくなったスネイプはハリエットにビオラの姿でいることを条件に運命の日までいることを許した。
寝室から出ないビオラは仮眠で戻ってきたスネイプに寄り添い、そのままの姿で目を閉じる。いつ誰が来るとも限らない部屋にいる以上、ハリエットの姿に戻ることは困難だが、それでも二人にとっては大切な時間だ。
そんな日が二日経ち、スネイプはビオラを抱きしめる。誰もない、と感じてハリエットは人に戻るとスネイプを抱きしめた。
「僕が見た時、貴方は血を流して……記憶の入った瓶を手に亡くなっていました」
つぶやくように未来の、“明日の惨劇”を話すハリエットにスネイプはそうか、と返す。
「記憶は……先生は今渡そうと思っている通りに、ダンブルドアとのやりとりと……先生と母の記憶が入っていました」
ハリエットの言葉にスネイプははっとして……ハリエットを見つめる。ずっと、リリーを愛していたことをこの子は知っていたのか、と何も言わずに口づけた。今は違う違うんだ、と抱きしめるが、それをもう伝えることはできないと歯を食いしばる。死にゆく自分が今後も生きている彼女にそんな思いを残していくのは酷い残虐行為な気がして、スネイプはその言葉を押し殺した。
「明日は母さんが見回りの日……という事でよかったですか?」
ぎゅっと抱きしめ返すハリエットの問にスネイプは頷き、21時ごろから始まるはずだ、という。そう、と目を閉じるハリエットはではその時にと返す。
「この部屋は……闇の帝王の指示でカロー兄弟が来ますので、母さんが出た時間に自室に戻ります」
あそこならば誰にも見つからない。だから移動するというハリエットにスネイプはそうだなと言い……今夜はこのまま休んでもいいだろうかと問いかけ……頷くハリエットを抱きしめた。
熱を分け合うように、抱きしめたまま二人は空が白むまで……一睡もせずに口付け合う。21時になったらそこの暖炉から移動したまえ、と朝食の為に部屋を出るスネイプは振り向きもせずにそう言い残し、消えていく。
ごめんなさい先生、とハリエットは羊皮紙を取り出して時間を書いていく。23時半にヴォルデモートが城の敷地内に来る。22時半頃だったはずだ。レイブンクローの寮の近くに行かなければ。今頃金庫を破りにハリー達はグリンゴッツに行っている。確認した羊皮紙を燃やして、もう3枚羊皮紙を取り出して、1枚を書くと屋敷しもべ妖精を呼び出す。驚いてやってきたのは……ハリエットを知る古い屋敷しもべ妖精で、よくぞ生きて、と涙ぐんでいる。
「この手紙を……今日の夜、23時頃に来るパーシー=ウィーズリーに。必要の部屋に彼は来るから……必ず渡して。お願いだよ」
手紙を受け取った屋敷しもべ妖精はどこか悲しげな顔をして、もう時が来たんですね、とそう呟いた。うん、と頷くハリエットは残った2枚に手紙を残す。封筒に入れて……目くらましをしてスネイプの机に置いた。すべてが終わった後、呪文は消えて手紙が残されるよう細工して窓を見る。
「きれいだな」
手紙に夢中で……すっかり傾いた日が赤く灯り、ホグワーツの格子窓から見える世界を赤く輝かせる。あぁ、ホグワーツは本当に美しい場所にあるんだ、と改めて知り……日が落ちて暗くなっていくのを見つめる。爪先のような月を見て、もう一つの手紙を手に握り、暖炉へと向かった。
誰もいない……幼い頃から過ごした実家。自室にそっと戻り、着ていた私服を脱いで袋を取り出す。長期間の魔法薬を保存できる瓶から小瓶に入れ替えて、大切に保存していた黒い髪を手に取る。小瓶全てにそれぞれ入れれば何枚もの葉を通してみたような、透き通った深い緑になったそれに、スリザリンの色であり、何よりお母さんの色だ、と微笑んで一つを飲み干した。
こつこつと、靴を響かせ部屋を出る男は……まっすぐに叫び屋敷へと足を向ける。その姿は紛れもなく死喰い人であり、校長であり……誰もが畏怖する教授の姿そのもので、誰一人疑う者はいない。
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